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第一章
14、昼食
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スカルディアの案内でルドワードの執務室に来たアリシアは緊張していた。確かに昼食にはいい時間なのだがいかんせん仕事の邪魔をするのではないかと今になって怖くなったのだ。
一向にノックをしないアリシアにスカルディアたちが尋ねた。
「アリシア様?」
「どうかなさいましたか?」
「ノックしたらいいだろう?」
「あ、あの~。ご迷惑じゃありませんかね?お仕事中だったりしましたら」
アリシアが自信なさげにスカルディアを見た。スカルディアは苦笑してノックを促した。
「大丈夫だろ、花嫁が昼食を誘いに来て嬉しくないはずがない」
「そうでしょうか?」
「少なくとも俺の知っている兄貴なら喜ぶ」
「わかりました」
アリシアは意を決してノックをした。
ルドワードから入室の許可が入り、スカルディアと一緒にアリシアは執務室に入った。
初めて入った執務室はアリシアから見て左側に天井まで届く本棚が一面にあり、その中に重要書類等が入っているようだ。右側には絵画や骨とう品のようなものが棚の上に並んでいた。真正面には大きな窓があり、その前にルドワードの執務机がある。入ってすぐのところに談話用にソファセットが置いてあり、全体的に落ち着いた感じもありながらまさに仕事部屋と言うような場所であった。
ルドワードは入ってきたのがアリシアであることに驚いた。
「どうした?何かあったか?」
「いえ、お昼の時間になりましたので……ルド様と一緒に食べたいともいまして」
アリシアは説明しながら恥ずかしくなりだんだんと声が小さくなっていった。だが幸いにもルドワードの耳には全部入っていた。
ルドワードは一瞬アリシアが何を言ったのか分からなかったが理解した瞬間、スカルディアでもあまり見たことがないほどに破顔していた。その様子にスカルディアの方が驚いてしまった。
「俺も一緒に食べたいな」
「いいのですか?」
「当たり前だ、スカルも一緒に食べるだろ?」
「兄貴や花嫁がいいならな」
「俺は構わん」
「私もいいです。それよりスカル様、花嫁はおやめください。アリシアとお呼びください」
アリシアはスカルディアにむくれながら名前呼びをお願いした。その仕草は年齢より幼いがアリシアには似合っていてルドワードは頬を緩ませた。スカルディアも微笑ましく見てしまったが言われているのは自分のため考えた。
さすがに兄の嫁を名前呼びするのはいただけないと思ったからだ。
「じゃあ、シア姉で」
「はい!」
アリシアは嬉しそうに微笑んだ。
最後の作業が終わったルドワードは席を立ち、アリシアの手を取った。
「仲良くなったようだな」
「はい」
「今まで何をしていたのかも含めて教えてくれ。とりあえずは昼食を取りに食事の間へ行こう」
「はい」
「ああ」
ルドワードに手を引かれながらアリシアは嬉しそうに食事の間に向かった。
そこで料理が来るまでアリシアはルドワードに今までの出来事を話した。だが取り乱したことはどうしても言えなかった。恥ずかしいというわけではなく、誰が来るかもしれない場所で話す気になれなかった。スカルディアもそれに関しては追及しなかった。スカルディア自身もこの場で話す内容ではないと思ったからだ。
「それで図書室で本を取ろうとしましたらバランスを崩して」
「急に倒れるから驚いた」
「助かりました」
「危ないな、あまり詰めすぎているのかもしれない。危険のないようにしないとな」
「はい、でもその本は面白かったです」
「それはよかった」
ルドワードは話を聞きながら本当に微笑ましかった。アリシアが楽しそうにしているのも、なんだかんだ言いながらアリシアのことを姉として大事にしようとしているスカルディアのこともうまくいって良かったと思っている。
だからこそ不安要素をなくしたいとも思っていた。
ルドワードのもとにいくつかの文が届いていた。
それはアリシアのことに関してのものだ。そのどれもに書いてあるのがアリシアに訳アリではないかと言うものだ。
ルドワード自身シリウスやルークからアリシアには抱えているものがある事は聞いている。その内容は聞いていないが本人から聞いて欲しいという要望もあり、その時期を持っている状態だ。
もちろんこのことは誰の耳にも入れていない。それが漏れているということはアリシア自身が誰かに話した可能性もある。だが、書いてある文章的に読み取っても内容を知っているわけではなく、『訳アリ』と言う事だけを知っているようだ。
それも内容を公表し、場合によっては別の相手を望むように書かれている。
ルドワードにしてみればどんなわけがあろうともアリシアでなければすでに嫌だ。スカルディアと仲良くし、同じ種がほとんどいないこの国を受け入れてくれるような相手はいないと考えているからだ。
そしてルドワード自身、出会ってそんなに経っていないアリシアに好意を向けているのだ。
今更変わる事など考えられない。
「ルド様?どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもない」
「ならいいのですが?」
「兄貴、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。シア、俺は準備にかかりきりになってしまうかもしれない。来て早々寂しい思いをさせてすまない」
「大丈夫です、どうかお体にお気をつけてくださいませ」
「ああ」
ルドワードはアリシアが困らないように文の出処等を調べる事にした。
昼食はそのまま終了し、アリシアはルドワードのそばに来た。
「ルド様、また一緒にお食事できますか?」
「んん~、しばらく忙しくなりそうだ。できるだけ一緒にとれるようにはかる」
「はい」
アリシアはその場でルドワードとは別れた。
アリシアが寂しそうにしているのをスカルディアは見てしまった。
一向にノックをしないアリシアにスカルディアたちが尋ねた。
「アリシア様?」
「どうかなさいましたか?」
「ノックしたらいいだろう?」
「あ、あの~。ご迷惑じゃありませんかね?お仕事中だったりしましたら」
アリシアが自信なさげにスカルディアを見た。スカルディアは苦笑してノックを促した。
「大丈夫だろ、花嫁が昼食を誘いに来て嬉しくないはずがない」
「そうでしょうか?」
「少なくとも俺の知っている兄貴なら喜ぶ」
「わかりました」
アリシアは意を決してノックをした。
ルドワードから入室の許可が入り、スカルディアと一緒にアリシアは執務室に入った。
初めて入った執務室はアリシアから見て左側に天井まで届く本棚が一面にあり、その中に重要書類等が入っているようだ。右側には絵画や骨とう品のようなものが棚の上に並んでいた。真正面には大きな窓があり、その前にルドワードの執務机がある。入ってすぐのところに談話用にソファセットが置いてあり、全体的に落ち着いた感じもありながらまさに仕事部屋と言うような場所であった。
ルドワードは入ってきたのがアリシアであることに驚いた。
「どうした?何かあったか?」
「いえ、お昼の時間になりましたので……ルド様と一緒に食べたいともいまして」
アリシアは説明しながら恥ずかしくなりだんだんと声が小さくなっていった。だが幸いにもルドワードの耳には全部入っていた。
ルドワードは一瞬アリシアが何を言ったのか分からなかったが理解した瞬間、スカルディアでもあまり見たことがないほどに破顔していた。その様子にスカルディアの方が驚いてしまった。
「俺も一緒に食べたいな」
「いいのですか?」
「当たり前だ、スカルも一緒に食べるだろ?」
「兄貴や花嫁がいいならな」
「俺は構わん」
「私もいいです。それよりスカル様、花嫁はおやめください。アリシアとお呼びください」
アリシアはスカルディアにむくれながら名前呼びをお願いした。その仕草は年齢より幼いがアリシアには似合っていてルドワードは頬を緩ませた。スカルディアも微笑ましく見てしまったが言われているのは自分のため考えた。
さすがに兄の嫁を名前呼びするのはいただけないと思ったからだ。
「じゃあ、シア姉で」
「はい!」
アリシアは嬉しそうに微笑んだ。
最後の作業が終わったルドワードは席を立ち、アリシアの手を取った。
「仲良くなったようだな」
「はい」
「今まで何をしていたのかも含めて教えてくれ。とりあえずは昼食を取りに食事の間へ行こう」
「はい」
「ああ」
ルドワードに手を引かれながらアリシアは嬉しそうに食事の間に向かった。
そこで料理が来るまでアリシアはルドワードに今までの出来事を話した。だが取り乱したことはどうしても言えなかった。恥ずかしいというわけではなく、誰が来るかもしれない場所で話す気になれなかった。スカルディアもそれに関しては追及しなかった。スカルディア自身もこの場で話す内容ではないと思ったからだ。
「それで図書室で本を取ろうとしましたらバランスを崩して」
「急に倒れるから驚いた」
「助かりました」
「危ないな、あまり詰めすぎているのかもしれない。危険のないようにしないとな」
「はい、でもその本は面白かったです」
「それはよかった」
ルドワードは話を聞きながら本当に微笑ましかった。アリシアが楽しそうにしているのも、なんだかんだ言いながらアリシアのことを姉として大事にしようとしているスカルディアのこともうまくいって良かったと思っている。
だからこそ不安要素をなくしたいとも思っていた。
ルドワードのもとにいくつかの文が届いていた。
それはアリシアのことに関してのものだ。そのどれもに書いてあるのがアリシアに訳アリではないかと言うものだ。
ルドワード自身シリウスやルークからアリシアには抱えているものがある事は聞いている。その内容は聞いていないが本人から聞いて欲しいという要望もあり、その時期を持っている状態だ。
もちろんこのことは誰の耳にも入れていない。それが漏れているということはアリシア自身が誰かに話した可能性もある。だが、書いてある文章的に読み取っても内容を知っているわけではなく、『訳アリ』と言う事だけを知っているようだ。
それも内容を公表し、場合によっては別の相手を望むように書かれている。
ルドワードにしてみればどんなわけがあろうともアリシアでなければすでに嫌だ。スカルディアと仲良くし、同じ種がほとんどいないこの国を受け入れてくれるような相手はいないと考えているからだ。
そしてルドワード自身、出会ってそんなに経っていないアリシアに好意を向けているのだ。
今更変わる事など考えられない。
「ルド様?どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもない」
「ならいいのですが?」
「兄貴、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。シア、俺は準備にかかりきりになってしまうかもしれない。来て早々寂しい思いをさせてすまない」
「大丈夫です、どうかお体にお気をつけてくださいませ」
「ああ」
ルドワードはアリシアが困らないように文の出処等を調べる事にした。
昼食はそのまま終了し、アリシアはルドワードのそばに来た。
「ルド様、また一緒にお食事できますか?」
「んん~、しばらく忙しくなりそうだ。できるだけ一緒にとれるようにはかる」
「はい」
アリシアはその場でルドワードとは別れた。
アリシアが寂しそうにしているのをスカルディアは見てしまった。
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