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第二章

33、決闘②(sideシエル)

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 初戦は俺、シエルだ。
 元々、マコトさんとグラン、ユリウスは決まっていた。
 マコトさん曰く、この決闘を受けたのはマコトさんだから、マコトさんの方で受ける予定だったらしい。
 だけど、さすがにユキを出すわけにはいかないのでガイ、レイ、俺の中から一人出場することになった。
 ギルド側的には俺たち全員でチームだから向こうに人数を合わせた感じだ。
 誰が出場するかはマコトさんが言うあみだくじというもので決めることになった。
 まぁ、その結果が俺だったわけだけど。
 レイもガイも悔しそうにしていた。そうだよなぁ、俺たちみんながマスターのことで怒ってる。
 そうしていると不意にレイがマコトさんに質問した。
「そういえばマコトさん」
「うん?なんだ?」
「向こうが勝てば馬車は向こうにいきますが、こちらに利点ありませんよね?」
「ああ、そうだなぁ」
「ん?そういえばそうだな。主殿、どうするつもりだ?」
「ああ~、考えてなかったわ」
「だと思ったぜ」
「リュウイチさん」
「お前たちが勝った時の利点についてはすでに俺たちで話し合っている。安心して勝ってこい。勝ってからのお楽しみだ」
「は、はぁ~」
 マコトさんやマスターと出会った時に一緒にいた男が楽しそうに話した。
 マコトさんが少し不思議そうにしていたがその男を信頼しているようでそれ以上何も聞かなかった。
 マコトさんの聞かないことを聞く気はないので俺たちは利点が何かわからないまま始めることになった。
「さぁ、双方前へ」
「ああ」
「行ってくる」
 向こうは小柄なのが出てきた。
 なんとも顔が憎たらしい。かわいい系のマスターとは大違いだ。
 そうしたら不満そうにエルフ側からギルド側に質問が入った。
「ギルド側にちょっと聞きたいんだが、そのルールじゃあ、全力を出すなと言っているようなものだがその辺の説明はないのか?」
「あ、確かに俺たちも聞きたいな」
「それもそうですね。まぁ、死なせたら失格なのはわかりますよね。相手が冒険者稼業出来ないほどの怪我を負わせないと言うのは制限ですよ。ムキになってやりすぎないようにするためです」
「特にエルフ側!こうでも言わなければお前らは言われなかったのを良いことに何するか分からないからな」
「なっ!」
「信用がねぇってことだよ」
「……俺たちの方は公平を保つためにか。まぁ、ある意味力量が試されるって事で納得しとくわ」
「……なんか納得がいかない」
「お前らの日頃の行いのせいだろう」
「ああ」
 周りに言われて、エルフ側はぐうの音も出ない感じだった。
 まぁ、こればかりは日頃の行いだ。マコトさんたちは優しいし、みんなから信頼されてるから納得だ。
 全員が一応、納得したところで決闘開始だ。
「話はそこまでです。それでは第一回戦魔獣シエル対エルフ族マティス……」
「ふふふ、やってやる」
「返り討ちにしてみせる!」
「はじめ!」
 先に動いたのはマティスというエルフの方だった。
 マティスは得意武器のアックスを片手に俺に迫ってきた。
 そんなもの当たらなければいいのだ。俺はスピードが出せる元の姿であるシルバーウルフになって、マティスめがけて駆けていった。
「我が爪の餌食になれ『爪破斬』!」
「おっと!簡単にくらうもんか!」
 俺は距離を一定に保ちながら飛び攻撃の『爪破斬』で攻めた。マティスってヤツはそれをアックスで受け止めたり、相殺している。
 一定距離を保っているので向こうは防戦一方な感じだ。
 俺が感じだっと言ったのは徐々にその距離が縮まっている気がするからだ。
 マズイ、意外に小回りが効いて、スピードもある。あんな重たい武器持っておきながらやるなぁ。
「はっ!飛び道具でしか戦えないのか?」
 挑発してきた。
 あの顔本当に憎たらしい。
 マスターのためにも勝たないと、それにこんなのに手こずっていたらレイはともかく、ガイに示しがつかない。
 まったく、殺さないように戦うのは骨が折れるんだけどなぁ、こっちは。
「言ってくれる。俺の牙や爪は一撃でお前の命を取れる。だから、手加減してやっているというのに」
「は!負け惜しみにしか聞こえないな」
「コイツ」
 本当に憎たらしい。
 だが、これでは時間だけが過ぎていく。
 前に出るしかないか。
 俺は方向転換をして、一気に距離を縮めた。
 向う的には挑発に乗って、攻撃範囲内に入ったと思っているんだろうな。憎たらしくニヤって笑っていた。
 でもな、俺はそんなに短気でも甘くもない。
 向こうの気を引くようにギリギリまで攻撃を引きつけて、最小限の動きでアックスでの攻撃をかわした。
 意外だったらしく、驚いている。
「なっ?!」
「甘いわ!」
「ぐっ!」
 俺は驚いて怯んでる相手を前足で取り押さえた。アックスは勢いが良過ぎたらしく、向けなくなっていた。馬鹿だな。
 これでも体は大きいからな、人なんか前足の下敷きにしてしまえばいい。これで向こうは動けない。
 あとは「降参」というまで徐々に力を込めていけばいい。
 俺には攻撃魔法が無いからな、物理的にいくしかない。
「さぁ、抑えたぞ。降参か?」
「誰が!!」
「ふっ、どこまで耐えられるかな?」
「ぐうっ!」
「早めに認めた方がいいぞ」
「ぐっ……く、そ!」
 徐々に力を込めていったが意外にしぶとかった。
 結構粘っていたが、体を抜け出すこともできず、圧力が増していってることもあって、向こうが降参した。
「く、そ……参った、降参だ」
「ふん」
「マティスが宣言したため、勝者魔獣シエル!」
 周りから歓声が上がったが、俺的にはそんなのどうでもいい。
 マスターたちのところに戻るとマスターが思いっきり褒めてくれた。
「すごい、すごいよ!シエル」
「よくやった、シエル」
「ええ、マスター、マコトさん」
「いい出だしになりましたね」
「ええ、私たちも頑張りませんと」
「そうだな」
「シエル、すげぇ~!」
 これこれ、マスターの笑顔や褒め言葉がいい。マコトさんの撫でてくれる手つきも気持ちいい。
 俺は仲間のために頑張ったんだから。


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