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第一章

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実家についたアルバは真っ先に両親とサイモンがいると思われる執務室に向かった。
アルバの異様な雰囲気に使用人たちも呑まれ、道を開けていた。
アルバが執務室を開けるとそこには運良く3人ともがいた。

「おい、ノックも許可も取らずに何をしている」
「何をしに来たのですか?」
「兄上、貴方はすでにナーシェル子爵家の者なんですよ。部を弁えたらどうですか?」

アルバは何も言わずにサイモンに近より、持っていた刃物でサイモンの腕を切りつけた。

「ぎゃあぁぁぁぁ!!」
「「サ、サイモン!!」」
「………………」

サイモンは痛みにうずくまった。
両親はサイモンを抱き締め、異常者を見るようにアルバを見た。

「なんてことを?!」
「貴方は自分の弟に、なぜこのようなことを?!」
「あ、兄上?」
「…………なぜ?なぜ?……なぜ、こうしたか?……」
「「「………………」」」

アルバの目が黒く濁りきっているのを三人は気づいた。
精神異常者、その言葉が三人に浮かんだが、アルバはそんなものではなかった。

アルバは確かに精神を壊した、いや、壊された。
アルバを無意識に迫害した両親に、アルバを見下していたサイモンに、出世欲や思い違いをしたクリムゾン伯爵家の使用人たちに、両親とグルだった義両親に、無実の噂を流され信じたナーシェル子爵の使用人たちに。

「何も分かりませんか?」
「何だと?」
「なぜ、私がこうしたのか、分かりませんか?」
「分かるわけないだろ!」
「貴方のような異常者のことなど、分かるはずがありません!」
「異常者、そうですか。やはり、私は貴方たちにとって息子ではなかったのですね」
「「?」」

アルバは流れる涙をそのままに微笑んだ。
アルバ自身、壊れてしまっているのを頭の隅で理解していた。
それでも止められなかった。
いつかを、信じていたから。
いつか、両親がサイモンが産まれる前みたいに愛してくれることを。
この傷付いた心を理解してくれることを。
謝ってくれることを。

しかし、それは幻だったとアルバは理解してしまった。

「私は貴方たちの行いを伯爵家を継ぐために厳しくしていると思い込んで生きてきました。そうしないと耐えられなかったから」
「「「………………」」」
「愛される弟を見ながらいつもなぜ?と私は私自身に問いました。私が唯一望んだマリアとの婚約も最初から組む気もなく、弟にと仕組まれていたのですね」
「「「っっっ!!!」」」
「私が贈ったものは全て弟が贈ったことになっていると知りました。何年も会っていなかったマリアにあんなに嫌悪されるなど、憎まれているなど知りませんでした」
「「「っっっ!!!」」」
「必要ないならなぜ、殺してくれなかったのですか?」
「「「っっっ!!!」」」

アルバがマリアとの婚約を望む以外で唯一の望んでいたのは『死』だった。
必要のない存在である自身を殺し、存在を消して欲しかった。
それがアルバの思いだった。

両親やサイモンははじめてアルバの本心に触れた。
黒く濁りきった目をしたアルバの涙はあまりにも静かに流れていた。





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