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第一章
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時は少し遡り、御者の帰ったナーシェル子爵家。
御者は帰るとすぐに当主であるアルバのもとに向かった。
「ご苦労、あれの始末はできたな」
アルバはアイリスなど受け入れられないと確信していた。
あの様なみすぼらしい者を公爵家が受け入れるはずがないと。
アイリスを向かわせることで今回の一件を終わらせようと企んでいた。
ヴァルファス公爵からは『娘を一人寄越すように』と言うことだった。
なので、その言葉を盾にこれで終わらせる試算だ。
そして、ついでにアイリスを始末しようと考えていた。
しかし、そんな簡単に物事は進まなかった。
御者は不敵に微笑むアルバに言いずらそうに話した。
「そ、それがですね。どうやら、あれは…お嬢様は、次期公爵様の『番』だったようでして……」
「なっ?!なんだと!!!」
アルバは寝耳に水な事を言われ、驚愕した。
座っていた椅子からも立ち上がるほどに。
「あ、あれが……『番』?次期公爵の?」
「は、はい」
「つまり、あれは……」
「公爵家に引き取られました」
「な、んということだ」
アルバは全身の力が抜けてドサッと椅子に座り込んだ。
アルバはアイリスを始末するつもりだった。
しかし、アイリスが公爵家に引き取られましたのならそれも出来ない。
暫く、アルバが考えているとある事に考えは至り、また不敵に微笑んだ。
その微笑みに御者は嫌な汗がした。
「御当主様?」
「よい、よい。『番』大いに結構!あれが公爵家に嫁ぐなら我が家は親戚筋になる。なら、公爵家と繋がりができたのだ」
「…………」
「ふふふ、今まで生かしていた恩を良い形で返してくれたものだ」
御者はアルバを何とも言えない目で見ていた。
それもその筈、アイリスが持っていった物はすべて処分するはずだったアイリスが使っていた物だ。
まともな物など何一つない。
何よりこの家で底辺だったアイリスは全員の憂さ晴らしの存在だった。
まともな食事も生活もしていない。
令嬢とはかけ離れた、奴隷以下の存在だったのだ。
そんなアイリスを公爵家が見てナーシェル子爵家を縁戚筋に入れるとは御者ですら考えられないからだ。
アルバはそんな事気にもかけていない。
当たり前だ。
アルバはアイリスを娘と思っていないし、汚物のように思っている。
そんなアイリスがどのような状態で、どんな物を持参させたかなど覚えてもいなければ考える気もない。
まさに取らぬ狸の皮算用だ。
御者は静かに頭を下げてからその場を立ち去った。
そして、向かったのはこの屋敷を取りまとめる執事のもとだ。
「何ですって?」
「あれは次期公爵様の『番』だったのですよ!向こうに引き取られました!!」
「あれが引き取られた?馬鹿な!?あんな物、どう見ても要らないでしょ!?」
「どうしましょう?」
「御当主様には?」
「お伝えしました。しかし、公爵家と縁戚筋になれると、お喜びに……」
「…………分かりました。こうなっては仕方ありません。様子をみましょう」
「はい」
執事は頭を抱えた。
荷物の用意を任されたのは執事を始めとした使用人たちだ。
彼らはアイリスの持ち物だけではなく、自分たちのいらない物も入れたのだ。
処分するつもりで。
(こんなことになるなど考えも至りませんでした。どうしたら良いのでしょう……)
執事は1人この先の事を思い、頭を抱えた。
御者は帰るとすぐに当主であるアルバのもとに向かった。
「ご苦労、あれの始末はできたな」
アルバはアイリスなど受け入れられないと確信していた。
あの様なみすぼらしい者を公爵家が受け入れるはずがないと。
アイリスを向かわせることで今回の一件を終わらせようと企んでいた。
ヴァルファス公爵からは『娘を一人寄越すように』と言うことだった。
なので、その言葉を盾にこれで終わらせる試算だ。
そして、ついでにアイリスを始末しようと考えていた。
しかし、そんな簡単に物事は進まなかった。
御者は不敵に微笑むアルバに言いずらそうに話した。
「そ、それがですね。どうやら、あれは…お嬢様は、次期公爵様の『番』だったようでして……」
「なっ?!なんだと!!!」
アルバは寝耳に水な事を言われ、驚愕した。
座っていた椅子からも立ち上がるほどに。
「あ、あれが……『番』?次期公爵の?」
「は、はい」
「つまり、あれは……」
「公爵家に引き取られました」
「な、んということだ」
アルバは全身の力が抜けてドサッと椅子に座り込んだ。
アルバはアイリスを始末するつもりだった。
しかし、アイリスが公爵家に引き取られましたのならそれも出来ない。
暫く、アルバが考えているとある事に考えは至り、また不敵に微笑んだ。
その微笑みに御者は嫌な汗がした。
「御当主様?」
「よい、よい。『番』大いに結構!あれが公爵家に嫁ぐなら我が家は親戚筋になる。なら、公爵家と繋がりができたのだ」
「…………」
「ふふふ、今まで生かしていた恩を良い形で返してくれたものだ」
御者はアルバを何とも言えない目で見ていた。
それもその筈、アイリスが持っていった物はすべて処分するはずだったアイリスが使っていた物だ。
まともな物など何一つない。
何よりこの家で底辺だったアイリスは全員の憂さ晴らしの存在だった。
まともな食事も生活もしていない。
令嬢とはかけ離れた、奴隷以下の存在だったのだ。
そんなアイリスを公爵家が見てナーシェル子爵家を縁戚筋に入れるとは御者ですら考えられないからだ。
アルバはそんな事気にもかけていない。
当たり前だ。
アルバはアイリスを娘と思っていないし、汚物のように思っている。
そんなアイリスがどのような状態で、どんな物を持参させたかなど覚えてもいなければ考える気もない。
まさに取らぬ狸の皮算用だ。
御者は静かに頭を下げてからその場を立ち去った。
そして、向かったのはこの屋敷を取りまとめる執事のもとだ。
「何ですって?」
「あれは次期公爵様の『番』だったのですよ!向こうに引き取られました!!」
「あれが引き取られた?馬鹿な!?あんな物、どう見ても要らないでしょ!?」
「どうしましょう?」
「御当主様には?」
「お伝えしました。しかし、公爵家と縁戚筋になれると、お喜びに……」
「…………分かりました。こうなっては仕方ありません。様子をみましょう」
「はい」
執事は頭を抱えた。
荷物の用意を任されたのは執事を始めとした使用人たちだ。
彼らはアイリスの持ち物だけではなく、自分たちのいらない物も入れたのだ。
処分するつもりで。
(こんなことになるなど考えも至りませんでした。どうしたら良いのでしょう……)
執事は1人この先の事を思い、頭を抱えた。
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