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王宮にてーアルベルトsideー
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「ビビが…いなくなった…?」
空もまだ白んでいる早朝であるにも関わらず、部屋には緊迫した空気が流れていた。目の前にはビビの父親であるラスカリア公爵とビビの兄であるノエル・ラスカリアが並んで座っている。早朝にお忍びで王宮を訪れた彼らは、僕に1枚の羊皮紙を差し出してきた。そこにはビビの字で家を出て行ったことが読み取れる文章が綴られていた。
目の前の2人は僕が手紙を読んでいる間も、呆然としている間も何も言わずに、ただ黙ってジッと座っていた。しかし、その目には怒りの色と侮蔑の色が見てとれる。
「…本当に申し訳ない。僕のせいだ」
ラスカリア公爵は何も言わずにスッとテーブルの上のティーカップを手に取り、紅茶をコクリと一口飲んだ。
「僕が…僕が責任を持って…この国の軍を総動員して彼女を探すことを誓おう。」
「…失礼ながら殿下。ここからはビビアンの兄として発言することを許していただけますか?」
ノエルは冷え切ったペリドットの瞳で真っ直ぐにアルベルトを貫いた。
その目は拒否することを許さないと言う様に鋭く、僕の口からは「っあぁ」と情けない声が漏れる。僕の返事を確認すると、ノエルはふぅっと小さく息を吐き、再び僕の事を真っ直ぐと見つめてきた。
「…ビビは幼い頃から殿下の事を慕っておりました。努力も怠らず、真っ直ぐに健気に…それを貴様は粉々に打ち砕いたんだ!ビビの殿下に対する純粋な愛も、幼い頃から王妃になるためにと色々な事を必死に耐えてきた努力も、私達とビビとの幸せで平穏な日々も!全て殿下が無に返したのですよ。ビビがどれだけ辛い思いをしていたか、貴方が1番分かっていたでしょう?どうですか1人の幼気な少女の未来を奪ったお気分は?」
悲痛な彼の叫びが頭の中で反響する。ビビの未来を守ろうと僕がした選択は間違っていたのだろうか。いいや、間違っていることなんて婚約破棄を切り出した時に、ビビが涙を見せた時から気づいていた。気づかないフリをしたかったんだ。僕はどこまでも幼稚で、独りよがりで、自分勝手だった。彼女の事を1番理解しているフリをして、実は何も見えていなかった。
「…僕のせいだ…本当に申し訳ない…」
「私達に謝られても。どうしようもないのですよ殿下」
ずっと黙っていた公爵は目を細め冷たい口調で言い放った。
「…しかし、私達がここで殿下を責め立てる行為も意味がないものですな。」
そう言うと、興奮して立ち上がっていたノエルを椅子に座らせて、また紅茶を一口コクリと飲んだ。
「殿下、ビビは探さないでと言っています。騒ぎにしたくないからでしょう。なので軍を使い大っぴらに捜索することはやめてほしい。…しかし、私達は一刻も早くビビの身の安全とビビの所在が知りたい。」
ラスカリア公爵はそこまで言うと、僕をジッと見つめ「ここまで言えば分かるだろう」とも言いたげな表情をした。
「分かりました。なるべく人に知られない様に…」
「なるべく?」
公爵の片眉がピクリと動く
「いえ!国の機密事項として秘密裏に捜索をします。」
「えぇ、よろしくお願いしますよ」
公爵とノエルは僕の返答を聞くとそれでいいんだと言わんばかりの表情をして、足早に去っていった。
1人になった執務室でハァと溜息を吐く。この部屋で数日前に僕の目の前に座っていた彼女がいなくなった。僕のせいで。
「情けないよ…本当に」
『どうですか1人の幼気な少女の未来を奪ったお気分は?』
先程のノエルの言葉が今だに頭の中で反響している。まるで呪いの言葉の様に、僕の心を鉛の様に重くして苦しくさせる。
「…最悪の気分だ。消えてしまいたい程にね…。でも、今は彼女を見つける事だけを考えるんだ。」
そして、彼女を見つけた暁には精一杯の謝罪をしよう。許されなくてもいい、許されようなんて思っていない。ただ、僕は彼女に謝らなければならない。謝らさせてほしい。
そして可能であるなら
「僕の本当の気持ちを…君に告げてもいいだろうか…」
こんなどこまでも自分勝手な僕を、君はどう思うだろう。
空もまだ白んでいる早朝であるにも関わらず、部屋には緊迫した空気が流れていた。目の前にはビビの父親であるラスカリア公爵とビビの兄であるノエル・ラスカリアが並んで座っている。早朝にお忍びで王宮を訪れた彼らは、僕に1枚の羊皮紙を差し出してきた。そこにはビビの字で家を出て行ったことが読み取れる文章が綴られていた。
目の前の2人は僕が手紙を読んでいる間も、呆然としている間も何も言わずに、ただ黙ってジッと座っていた。しかし、その目には怒りの色と侮蔑の色が見てとれる。
「…本当に申し訳ない。僕のせいだ」
ラスカリア公爵は何も言わずにスッとテーブルの上のティーカップを手に取り、紅茶をコクリと一口飲んだ。
「僕が…僕が責任を持って…この国の軍を総動員して彼女を探すことを誓おう。」
「…失礼ながら殿下。ここからはビビアンの兄として発言することを許していただけますか?」
ノエルは冷え切ったペリドットの瞳で真っ直ぐにアルベルトを貫いた。
その目は拒否することを許さないと言う様に鋭く、僕の口からは「っあぁ」と情けない声が漏れる。僕の返事を確認すると、ノエルはふぅっと小さく息を吐き、再び僕の事を真っ直ぐと見つめてきた。
「…ビビは幼い頃から殿下の事を慕っておりました。努力も怠らず、真っ直ぐに健気に…それを貴様は粉々に打ち砕いたんだ!ビビの殿下に対する純粋な愛も、幼い頃から王妃になるためにと色々な事を必死に耐えてきた努力も、私達とビビとの幸せで平穏な日々も!全て殿下が無に返したのですよ。ビビがどれだけ辛い思いをしていたか、貴方が1番分かっていたでしょう?どうですか1人の幼気な少女の未来を奪ったお気分は?」
悲痛な彼の叫びが頭の中で反響する。ビビの未来を守ろうと僕がした選択は間違っていたのだろうか。いいや、間違っていることなんて婚約破棄を切り出した時に、ビビが涙を見せた時から気づいていた。気づかないフリをしたかったんだ。僕はどこまでも幼稚で、独りよがりで、自分勝手だった。彼女の事を1番理解しているフリをして、実は何も見えていなかった。
「…僕のせいだ…本当に申し訳ない…」
「私達に謝られても。どうしようもないのですよ殿下」
ずっと黙っていた公爵は目を細め冷たい口調で言い放った。
「…しかし、私達がここで殿下を責め立てる行為も意味がないものですな。」
そう言うと、興奮して立ち上がっていたノエルを椅子に座らせて、また紅茶を一口コクリと飲んだ。
「殿下、ビビは探さないでと言っています。騒ぎにしたくないからでしょう。なので軍を使い大っぴらに捜索することはやめてほしい。…しかし、私達は一刻も早くビビの身の安全とビビの所在が知りたい。」
ラスカリア公爵はそこまで言うと、僕をジッと見つめ「ここまで言えば分かるだろう」とも言いたげな表情をした。
「分かりました。なるべく人に知られない様に…」
「なるべく?」
公爵の片眉がピクリと動く
「いえ!国の機密事項として秘密裏に捜索をします。」
「えぇ、よろしくお願いしますよ」
公爵とノエルは僕の返答を聞くとそれでいいんだと言わんばかりの表情をして、足早に去っていった。
1人になった執務室でハァと溜息を吐く。この部屋で数日前に僕の目の前に座っていた彼女がいなくなった。僕のせいで。
「情けないよ…本当に」
『どうですか1人の幼気な少女の未来を奪ったお気分は?』
先程のノエルの言葉が今だに頭の中で反響している。まるで呪いの言葉の様に、僕の心を鉛の様に重くして苦しくさせる。
「…最悪の気分だ。消えてしまいたい程にね…。でも、今は彼女を見つける事だけを考えるんだ。」
そして、彼女を見つけた暁には精一杯の謝罪をしよう。許されなくてもいい、許されようなんて思っていない。ただ、僕は彼女に謝らなければならない。謝らさせてほしい。
そして可能であるなら
「僕の本当の気持ちを…君に告げてもいいだろうか…」
こんなどこまでも自分勝手な僕を、君はどう思うだろう。
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