悪役令嬢はもう疲れた

てる

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逃亡

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窓からボーッと星を眺めながら時間が過ぎるのを待つ。ここまで色々な事があった。辛い事も嬉しい事も。この家での生活も今日で終わりなのだと考えると少し寂しい気持ちになる。
机の上には『少し自由になりたいので旅に出ます。探さないでください。いつか絶対にまた便りを出して居場所を伝えます。最後の最後まで親不孝な娘でごめんなさい。お父様お兄様いつでも2人のことを想っています。愛しています。ビビ』という短い手紙を置いている。

机の上の置き時計を見るとあと少しで長針と短針が12の数字に重なるところだった。

「少しゆっくりしすぎちゃった!急がないと!」

用意していたロープをバルコニーの柵に括り付けて下に垂らす。自室から地面までは5m程の高さだ。万が一落ちてしまっても下には低木が生茂っているから死にはしないだろう。

「大丈夫…よしっ!」

ギシギシと縄が軋む音をたてながら着実に下へと降りていく。想像よりも縄に擦れて痛む手をうっかり離してしまわないようにギュッと力を込める。

「うっ…いたっ…」

力を込めるとそのぶん手の痛みも増していく。思っていた以上にズクンズクンと痛む手に耐えられず力を抜いてしまう。


その刹那、体に浮遊感を感じる。まるでスローモーションのようにゆっくりと周りの景色が流れていく。

(落ちてるっ…!)

咄嗟にギュッと目を瞑り衝撃を待っているのにいつまで経っても体に衝撃がこない。まさか打ち所が悪くて痛みを感じる前に死んじゃった?なんてありもしない事をぐるぐると考えていると頭上から「っばか!」と切羽詰まった声が聞こえた。
恐る恐る目を開けると強い口調と怒った顔とは裏腹に優しく抱きかかえてくれているガルフがいた。

「お前は何でそんな無茶ばっかりするんだ!部屋を抜け出すのだって俺に言えば他にやりようなんていくらでもあっただろ!」

すごい剣幕で怒るガルフから目を逸らして口先を尖らせる

「私はこれから一人で生きていくと決心したのにガルフに頼ってばかりじゃいけないと思ったから…」

結局、こうして迷惑をかけてしまっているのだが、自力でこの屋敷から抜け出すのは私なりのけじめだった。

「それでも死んじまったら意味ないだろうが」

そう言ってビシッとデコピンをくらわせてくるガルフに「ごめんなさい…。ありがとう」と伝えるとガルフはガシガシと乱暴に頭を撫でて丁寧に地面に下ろしてくれる。

「ほら…早く行くぞ」

フンッと鼻を鳴らし素っ気なく振り返ったガルフの手は私の手をしっかりと握りしめていて不器用な彼の優しさにふふっと笑みが溢れた。







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