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第三話.魔法少女?
しおりを挟む光が収まったかと思ったら、まず初めに違和感を感じた。やけに下の方がスースーするのだ。ズボンを履いていたのにこれはおかしい。
俺は原因を確かめる為に下を向くと、そこには薄い桃のような色のふわふわしたスカートが、紛れもない俺の体に纏わりついていた。
「──はぁ!?」
『それが魔法少女の力──変身なんだし! それも後で説明するんだし! 今はその力で早くコイツを倒すんだし!!』
「いやまず俺男だからな!? つかいきなりそんな事言われても武器とかは無いのかよ!!」
『その手に持ってるステッキを使うんだし!!』
プリンのその言葉で、ようやく自分が可愛くデコレーションされた先端がハート型になっているステッキを持っていることに気付いた。
……だが使い方が分からない。
「おい使い方は!!」
『使い方!? 殴る以外何があるんだし!!』
「魔法はどこ行ったんだよちくしょう!!」
そろそろ本当にプリンが危ない。俺はやけくそ気味にカマキリに向かって走ると、そのステッキで思い切り胴体をぶっ叩いた。
だが、ゴンッ、とまるで硬い岩でも殴ったかの様な衝撃が手に伝わり、俺は思わずステッキを手放してしまう。
「──イッテぇぇぇ!!」
『何やってるんだし!! こんな雑魚さっさと殴り倒すんだし!!』
「うるせぇ!! こいつめちゃくちゃ硬いんだよ!!」
俺は地面に落ちたステッキを拾い上げると、カマキリの脚とかを必死に殴る。だがやはり、攻撃が通っているとは思えなかった。
『は、早くするんだし!! そろそろアタチの下半身が食われそうなんだし!! 嫌だし! こんな奴に食べられたくないんだし!!』
「ちょっと黙ってろ!!」
そうは言っても対処法が分からない。魔法少女だとか魔法のステッキだとか言われても、結局俺はただの一般人だ。力の使い方やこんな化物の弱点とか知る訳がない。
でも諦めてプリンが食われてもいけない。プリンが居なくなればそれこそ終わり。後は俺が死ぬだけだ。
何かないか何かないか……!!
「そうだ──」
俺はステッキを強く握り、覚悟を決めると、カマキリの正面まで急いで移動した。
カマキリに似合わずプリンを丸呑みするつもりなのか、カマキリは大きく開けてプリンを飲み込まんとしている。
「こういうのは大体、口の中が弱いって決まってるんだよッ!!」
だからこそ俺は、そのステッキをカマキリの口の中に突っ込んだ。
「どうだ!?」
俺は顔を上げると、カマキリはいきなりの異物に驚いたのか口を閉じ、プリンを放り投げたのがわかった。
「よし……! 効いてる!!」
俺はカマキリから離れると、飛ばされたプリンを回収する。すると、ごくッ、という音が聴こえたような気がした。
ごくっ?
俺はカマキリの方を見ると、何と美味しそうに俺のステッキをガジガジとかじっている。
「……もしかして喰われてる?」
『な、な、なななななな何やってるんだし!! あのステッキが無いとノミは倒せないんだし!!』
「はぁ!? そういう事は先に言え先に!! どうすんだよこの状況!!」
突き刺していたステッキが全てカマキリの体内へと運ばれ、カマキリがこちらを睨んでくるのが分かった。
「おいおい……! なんか魔法の力とか使えねぇのかよ!!」
『君は魔法少女を何だと思ってるんだし!!』
「素敵な魔法が使える可愛い女の子じゃないのかよ!!」
俺は宙を浮くプリンを掴み、全力で廊下を走る。曲がり角を左に曲がり、階段を全力で下りた。
後ろからは追ってきているのが気配で分かった。
「なんだ!? 俺が男だから使えないのか!?」
『魔法少女はあの魔法のステッキで殴る事でノミを浄化するんだし!! 男も女も関係ないんだし!!』
「あの爆発の件を無くせたのは!?」
『あれはあたちだけが使える再生の能力だし!! 君には使えないんだし!!』
「ふざけんな!!」
俺は悪態をつきながら階段をジャンプし、後ろからのカマキリの攻撃をスレスレで躱した。ゴロゴロと地面を転がり、また立ち上がって廊下を駆ける。
「その魔法のステッキが無かったらどうすればいい!?」
『逃げるしかないんだし!!』
「はぁ!? マジかよおい!!」
俺は非常扉の前まで行くと、扉を全力で開けようとする。
だが。
「おいおい嘘だろ!! 何でここに鍵が掛かってんだよ!!」
ガチャガチャと音を立てるだけで、扉が開く気配はない。振り返ると、曲がり角を塞ぐ形でカマキリが立ち止まっていた。
「これもう無理だろ……」
『あ、諦めちゃダメなんだし! まだ何か方法はある筈なんだし!!』
「なら素手で殴るか? ステッキで殴っても駄目だったのに殴りなんかが効くわけ無いと思うけど」
俺はこれから死ぬという恐怖からか、自然と引き攣った笑みを浮かべてしまうのが自分でも分かった。
『ん? この気配は──』
「何だよまた新しい奴が来るのか?」
俺は地面に座り込むと、顔を伏せて必死に涙を堪えていた。
こんな事になるなら死ぬ前に告白をしておけば良かった。ずっと好きだったと、水面に伝えるべきだった。
そんな諦めムードの時に、廊下を走るような、そんなドスドスとした音が響いてきたのが分かった。
また新しい敵か。
そんな事を考えていると、何処からか気合を入れるような、そんな叫び声に近い声が俺の耳に入ってきた。
「やぁあぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁ──!!」
ゴッ、という音が鳴った。それはカマキリが居る前方からで、俺は顔を上げる。
「……は?」
それは、俺とは違った正真正銘の魔法少女と言える存在だった。
俺よりも豪華なピンクのスカートから上を見ると、ピンク髪のツインテールが目に入る。
さっきの音は、その女性が手に持っていたステッキをカマキリにぶつけた音だったらしい。
いきなりの登場に驚きはしたが、直ぐに思い浮かんだ言葉は『効くはずがない』だった。男の俺で無理だったのだから、そんな華奢な腕では無理があるのではないかと。
そんな俺の考えを否定するかのように、カマキリが突然ピンクの爆発を起こし、見るも無残に謎の液体を飛び散らしながら砕け散っていった。
「大丈夫ですか!?」
あのカマキリを一発で倒した謎のピンク髪少女は俺に駆け寄ってくると、怪我がないことを確認したのか、ホッと一息を付いた。
「その姿……貴方も魔法少女……ですよね? 見た所ステッキは持ってないみたいですが……」
貴方も、と言う事は、この人も魔法少女なのか。そして近くで見たら分かる。小顔で、幼馴染の様にぱっちりとした青い瞳は、言葉と同様何故か自信がなさそうな雰囲気を感じさせる。
「……プリン」
『……なんだし』
「これが本物の魔法少女か」
『…………自分に自信を持つんだし』
俺はその日、初めて本物の魔法少女と出会った。
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