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第二話.元通り?

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 特に何の弊害もなく学校に着くと、まず生徒指導部に寄って遅刻カードを貰う。もう先生からは何も言われなかった。きっと呆れられているんだと思う。

「失礼しました」

 俺がドアを閉めると同時に、鞄がゴソゴソと一人でに動き出した。俺はそちらに目を向けると、勝手に鞄のボタンを外してプリンが顔を出してきていた。

『今の所何も以上がないんだし。というか遅刻していたんだし?』

「いつもの事だから気にすんな」

『ぷぎゅっ!』

 俺はまたプリンを鞄の中に押し込むと、ボタンをボタンを留める。

「はぁ……」

 階段を上がるたびに、焼き付いた夢の内容が脳裏にチラついてくる。あの水面の声も、飛び散った肉片も死体も実際に起きた出来事なんだと思うと、恐怖が足を重くする。

 もし教室内に誰もいなかったら。もし教室内に水面だけ居なかったら。

『あたちの力を信じるんだし』

「勝手に出てくるんじゃねぇよ。ぬいぐるみに話し掛ける変人と思われるだろ」

『ぬいぐるみじゃなくてプリンだし!!』

「はいはい。取り敢えず隠れといてくれ」

 俺はまたプリンを鞄の中に押し込むと、ついに教室のドアへと辿り着いた。俺は深呼吸をすると、ドアに手を掛け、左にドアをスライドさせた。

「そしてここで──おい西条……。また遅れたのか……ったく……早く席に着け。カードはまた後で受け取るからな」

 ……普通だった。ごく普通に授業を進めている。あのパニックが嘘かのように静かで、そして四十人ほどの生徒が席に着いて授業を受けていた。 

「早く座れ!!」

「あ、はい……」

 俺は先生の言葉に急かされるように自分の席に向かうと、席に座ると同時に隣から声が掛かった。

「どうしたの? いつもより顔色暗いけど……」

 この声は俺の幼馴染の水面の声だ。俺はその声を聞いて、その顔を見て、自然と涙が込み上げてきた。

「えっ!? ちょ、どうしたの!?」

 そんな俺を見た水面は、小声だが焦った様子で俺にそう聞いてきた。

「いや、ちょっと悪夢を見ただけ……」

「えぇ? そんなに怖かったの?」

 俺は涙を拭うと、軽く笑ってくれる水面の顔。
 その髪は茶色に近い黒色で、肩付近まで伸びている。そしてその髪に似合ったぱっちりとした瞳にぷっくらと柔らかそうな唇。その口角は常に上がっていて、とても笑顔が似合う女性。

 彼女を見ていると、こちらも自然と笑顔になってしまう不思議な力が水面にはある。

『デレてんじゃねぇだし』

「ばっか──」

「ん? 何今の高い声……」 

「あぁいや! ……そう! ちょっとお腹が鳴っちゃってさぁ! 空耳が聞こえたんじゃない!?」

 身振り手振りで必死に俺は誤魔化すが、水面は納得していない様子で首を傾げている。

「おい西条! 遅刻して更に私語までするのか!!」

 先生に叱られてしまい、俺は大人しくする事に。隣でクスクスと水面が笑っているが、ただ可愛いだけで何も思わなかった。

 まぁ授業と言っても俺がやることと言えば寝る事くらいだ。俺は机に手を起き、そこに頭を乗せて寝る体制へと移行する。

 その直後だった。

『──来るんだし!』

 カチッ、とあの時と同じ感覚が起きる。
 俺が顔を上げると、あの夢の様な時と同じ感じで、辺りの時間が全て停止していた。
 すると、鞄の中からプリンが飛び出してくる。

『ちょうどいいから説明するんだし。あの時、あたちが君に力を与えたんだし。それが雀の涙程度でも、あたち達の敵──‘‘ノミ’’を倒すことくらいは出来るんだし』

「力? そう言えばそんな事言ってたっけ」

『忘れてるんじゃないんだし!』

 苛ついたのかプリンは俺の頭に頭突きを喰らわせてきた。別にぬいぐるみだから痛くないが、ポスポスと鬱陶しいので頭を掴んで辞めさせる。

「それで、その力ってどんな奴?」

『簡単に言うと魔法少女だし』

「……は?」

『魔法少女だし』

「…………は?」

 俺が言葉の意味が分からずに固まっていると、プリンは慌てた様子で俺の前を飛び回った。

『さぁ! この時間も長く持たないんだし! 早く唱えるんだし!』

「唱える……って何を!?」

『ポプリ☆ ププパリ☆ プルリラテ♡ だし!!』

「言えるかボケェぇぇぇええぇぇえぇぇぇぇぇぇえ!!」

 俺はプリンの頭を鷲掴みし、ドアに向かって放り投げた。すると突然そのドアが音を立てて壊れ、外から巨大なカマキリの様な生物が現れる。

「あ、やべ」

 その本来はドアに当たって止まるはずであったが、そのドアは今はなく、代わりに如何にも危ない巨大カマキリに向かって飛んでいった。

『ぷぎゅ!』

 カマキリの顔にぶち当たり、もちろんカマキリの視線はプリンへと移る。

『ま、ままま待つんだし!!』

 そんなプリンの命乞いも虚しく、カマキリはその鎌のような腕でプリンを捕まえると、その口にゆっくりと近付けていく。

『あぁぁぁぁあぁ! 早く! 早くあたちを助けるんだし!! 早くさっき教えた呪文を唱えるんだしー!!』

 まずい。このままあいつが食われてしまえば俺も間違いなく死んでしまう。そして、俺の隣にいる水面も。
 仕方ない、俺は意を決すると、さっきの呪文を何とか思い出す。

「ぽ、ポポリ──」

『ポプリなんだし!!』

「ぽ、ポプリ! プパラピ──」

『ププパリなんだしー!』

「ぽ、ポプリ! ププパリ! プリルラ──」

『プルリラテなんだしー!!』

「やかましいわ!! 何でこんなややこしい呪文にしたんだよ!! 恥を捨ててもなお恥ずかしいわ!!」

 そんな事を言っていても仕方がない。心でそれは分かっていても、これは言わずにはいられなかった。

 俺は深呼吸をする。

「ポプリ! ププパリ! プルリラテ!!」

 その気持ち悪い呪文を唱え終わると同時に、俺の身体は光に包まれるのであった。

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