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第一話.夢?
しおりを挟む「はっ──!?」
俺は状態を起こすと、辺りを見渡す。
いつもの光景。使わない勉強机にクローゼット。趣味で集めているロボットのフィギュア達はいつもの棚でいつものポーズを決めていた。
間違いなくここは俺の部屋だ。
俺は流れる汗を肩で適当に拭うと、バクバクとうるさい胸に手を当て、大きく息を吐いた。
「何だ夢かよ……」
俺はベッドから降りると、そこでようやくスマホのアラームが鳴っていることに気付き、スマホの電源を入れる。
午前一〇時。今日の日付は火曜日だ。
「また遅刻か……」
いつもの事だから焦りはしない。俺は着ていた服を脱ぎ捨てると、クローゼットからTシャツを取り出して着替えた。その上から制服を着ると、ズボンはそのままに学校指定の少し大きめなズボンを上から履いて、ベルトを締めた。
「にしてもリアルな夢だったなぁ」
まだ心臓がバクバクと激しく運動している。まるで全力で走ったかの様な疲労感に、あの瓦礫を触っていた感覚でさえも未だに残ったままだった。
「最後は……無しだな」
俺は最後に現れた熊のぬいぐるみを思い出しながら、鼻で笑ってみせる。
そんな時、たまたま動かした視線の先に、一つのぬいぐるみが見えた。いつもは窓付近に何も置いていない筈だが、夢で見たような熊の可愛いぬいぐるみがそこにはあったのだ。
「ま、まさかな……」
俺は苦笑いしながら近付くと、人差し指でつついてみた。
……が、反応は無い。
「……だよなぁ」
夢を信じた自分がバカらしく感じ、俺は八つ当たり気味にぬいぐるみを地面に落とした。
『痛いんだし!! 人が気持ちよく寝ている時に何でそんなことをするんだしッ!!』
「うぇおい!?」
いきなり浮き上がったぬいぐるみが俺の目前まで迫ってきた事により腰が抜けてしまい、床に尻もちを付いてしまった。
「な、なななな何だよ!! 夢じゃなかったのかよっ!!」
『夢!? 夢なわけ無いんだし!! そんな事より早く謝るんだし!! ほら! ごめんなさいは! だし!!』
「分かった分かった!! 謝るからそんなに硬い目元部分を俺のおでこにこすり付けるんじゃねぇッ!!」
俺はぬいぐるみの頭を全力で掴むと、思い切り壁に向かって放り投げてやった。
『げぷっ』
間抜けな声を出してそのぬいぐるみは地面に倒れると、ピクピクと体を痙攣させた。
「あ……ごめん」
『普通なら……許さないんだし……よいしょ……。で、でもまぁ今日は特別に許してやらん事もないんだし』
「そんなに身体を震わせながら言われてもなぁ……」
『別にビビってなんか無いんだし!! 身体が震えてるのは寒いだけなんだし!!』
そんな事を言いながらも、ぬいぐるみは一切俺と視線を合わさない。どうやらさっきの一撃が相当効いたようだ。
だがそれどころではないと、夢の内容が──水面のあの声が、脳裏に浮かび上がってきた。
「──そうだ、水面は!? 夢じゃないなら学校はどうなったんだ!?」
『まぁまぁ、落ち着くんだし。そこら辺はあたちの力で全て無かった事にしたんだし』
「す……すげぇな……」
俺がつい漏らしてしまった言葉に、ぬいぐるみは胸を張る仕草をして、ふふんと鼻を鳴らした。
『もっと褒めてくれていいんだし』
「あぁ……ありがとう……」
段々と心臓が落ち着いていくのを感じてから、俺はちゃんと足を組んで座り直した。
「それで、あの時は何が起きてたんだ?」
『んー、説明したら長くなるんだし。また詳しい話はがっこーでするんだし。とにかく今は、君に学校に行って異変が無いか確かめて欲しいんだし』
「あー……あ? お前も付いてくんの?」
『当たり前だし! というかあたちにはプリンって名前があるんだし!!』
「はいはい。んで、プリンは他人に見えなくなったり出来たりすんの?」
俺の言葉にプリンは身体ごと頭を横に倒すと、肩をかしげた。
どうやら出来ないらしい。あんな出来事を無かった事にできるくせに透明になる事は無理とかよく分からないが、出来ないものは仕方ない。
「はぁ……じゃあ鞄の中に入れるか」
『はぁ!? あたちをそんな狭い所に閉じ込める気だし!? 有り得ないんだし!!』
「それしかないだろ!? もう高校生のやつがお前みたいなぬいぐるみを持ってたら周りからドン引きされるわ!!」
『お前じゃなくてプリンだし!!』
「うるせぇ!! どんだけ名前にこだわり持ってんだよ鬱陶しいわ!!」
俺はプリンの頭を鷲掴みにすると、無理矢理鞄の中に詰め込む。本人は暫く暴れていたが、鞄のボタンを留めたら急に大人しくなった。どうやら諦めたらしい。
「はぁ……朝から何でこんなに疲れないといけないんだよ……」
俺はそんな愚痴をこぼしながら部屋を出ると、ご飯を食べないまま家を後にした。
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