1 / 4
第零話.始まりの日
しおりを挟む「──なん……だよ……」
どうしてこうなってしまったのか。俺は手に持っていた鞄を地面に落とす。
それは、俺が学校の正門を通った時に突如として発生した。
爆発音と共に、校舎内の窓ガラスが割れる音が聞こえてくる。
これでもう三回目。
何が起きているのかも理解出来ずに動けないでいた俺は今度こそハッと意識を取り戻し、慌てて校舎内へと走る。
中にはまだ俺の幼馴染が居る。まだ授業中の筈だから、間違いなく教室だ。アイツは俺みたいに遅れたり授業をサボるような奴じゃない。
「くそっ!!」
廊下を走り、階段を駆け上がろうとするが、上から次々と無事だった生徒たちが転がる様に降りてくる。
恐らく二階の二年達だろう。俺はまだ高校一年で、三階に教室がある。さっきの爆発音と窓ガラスの割れ方から推測するに、さっきの爆発は三階で発生した。
俺は人混みに揉まれないよう慌てて引き返すと、何故か誰も使っていない非常階段が目に入った。恐らくパニックになりすぎてその存在を忘れていたんだろう。
だがこれは絶好の機会だ。これで三階に上がることができるだろう。
「頼む……頼む……!!」
俺は非常階段には繋がる扉を勢い良く開け、三階を目指す。その時にもう一度爆発音。校舎内にいる生徒達の悲鳴がここからでも聞こえてきた。
「あの音は何処からだ……! くそっ!!」
夢だったら早く覚めてほしい。
そんな叶わぬ願いを抱きながら、俺は三階の校舎内に繋がる扉を遠慮なくぶち開けた。
「嘘だろ……」
まさに地獄に相応しい光景だった。
爆発は教室内で起きたのか、飛び散った肉片に、爆風によって吹き飛ばされた瓦礫やこの学校の生徒達。
なによりも、この曲がり角を曲がった先は俺のクラスだった場所である。
俺は震える脚を無理にでも動かし、そんな事は無い、ある筈がないと現実を直視しないままその曲がり角を曲がった。
教室が無い。いや、壁や床が破壊されて無い様に見えるだけで、元々は小奇麗な教室──俺のクラスだった筈である。
有り得ない。こんな事がある筈無い。でも今広がっているこの光景は何だ? 分からない。
「そ……うだ……みな……水面……!! 何処だ水面ッ!!」
『どうしたのー?』いつもならすぐに俺の声に反応してくれる幼馴染の声が聞こえない。
俺は辺りを見渡す。すると、ただの瓦礫の山である場所に、まるで視線が釘を打たれたかのように固定され、動かなくなっていた。
そこから微かに声が聞こえたような気がしたのだ。いや、小さくだが、確かに声が聞こえる。
「──水面ッ!!」
俺はすぐに幼馴染である寺町水面だと判断すると、すぐにその瓦礫の山へと駆け寄り、瓦礫を退かそうと力を入れる。
だが大きな瓦礫だ。俺一人では退かすことも出来ない。そして、その下にいる水面は──
「駄目だ……駄目だ駄目だ駄目だ!!」
信じたくない。俺は諦めることなく瓦礫を退かそうとするが、無情にも瓦礫が動くことは無かった。
「あや……ちゃん……?」
「水面っ!?」
瓦礫の中から掠れた小さな声が聞こえてくる。俺はそれに反応すると、中から鼻で笑うような音が聞こえた。
「ごめ……んね……」
「おい……! やめろよ……!!」
まるで今から死ぬかの様な、そんな言葉。
俺は溢れる汗かも涙かも分からないものを制服で拭うと、諦めずに力を入れ続ける。
「大好きだよ……」
その言葉と共にまた爆発音が鳴り響く。下でもなく外でもなく、それは真上から。
死を覚悟した。巨大な瓦礫が俺の顔面に目掛けて落下してきている。避けようが無かった。いや、避ける気なんて俺には無かったんだ。
『──待つんだし!』
カチッ、と時計の秒針の様な音が聞こえたかと思うと、感覚的に時間が止まったのが分かった。
よく分からない。俺を潰さんとしていた瓦礫は宙で止まっているのに、俺自身は動く事ができる。
『死ぬなんてあたちが許さないし!』
そんな状況に訳がわからずあたふたとしていると、突然そんな言葉と共に俺の胸ポケットからぬいぐるみの様な物が飛び出してきた。
その見た目は熊。熊と言ってもリアルよりではなく、随分とデフォルメされたこの場に相応しくない可愛いぬいぐるみである。
『ニシシ、驚いてるし。でもこの状態も長く持たないし。単刀直入に聞くし。皆を助けたいし?』
何やら質問されたようだが、恐怖やら驚きやらで俺は声を出せなかった。するとそれを肯定と捉えたのか、熊のぬいぐるみは俺の周りを嬉しそうにくるくると飛び回った。
『西条綾女。君にあたちの力を与えるし。そして、パパっとあたちらしくこの事件にケリを付けるんだし』
「お、おい待ってくれ。何だよこれ。なんで学校に来たらこんな事になってるんだよ。何で爆発して水面は瓦礫に埋まって……」
『待たないし。さっきも言ったけど時間が無いんだし。さっさとあたちの力を受け取るんだし』
何とか話す事が出来たかと思えば、途中で言葉を遮られてしまった。
その事に少し苛立ちを覚えながらも、水面を助ける事が出来るならばと俺は頷いた。
『よろしい』
表情が無いはずのぬいぐるみが、少しだけ微笑んだような気がした。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
まほカン
jukaito
ファンタジー
ごく普通の女子中学生だった結城かなみはある日両親から借金を押し付けられた黒服の男にさらわれてしまう。一億もの借金を返済するためにかなみが選ばされた道は、魔法少女となって会社で働いていくことだった。
今日もかなみは愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミとなって悪の秘密結社と戦うのであった!新感覚マジカルアクションノベル!
※基本1話完結なのでアニメを見る感覚で読めると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる