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まぬけって言わないで

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 朝起きたら目の前にイケメン。

 何このリア充展開。
 朝日よりも眩しい寝顔していらっしゃるわ。
 寝てる間もかっこいいとか羨ましいわ。よだれとか垂らせばいいのに。

 とりま起き上がろう。

 グッ。

 んん?起き上がれない……。

 何かが体の上に乗ってる。

 ……なんだ、ジークの腕か。
 ジークの腕を掴んで退かそうとするけどピクリとも動かない。

 重っっ!漬物石の代わりになれそう。

 あ、私の筋力がないのか。

 そのままウゴウゴとジークの下から這い出そうとしたが離れてくれない。
 さて、こういう状況で一人前のニートはどういう対応をするのでしょうか。

 まず、全身の力を抜きます。



 そして目をつぶり二度寝します。


 おやすみなさい。


 ぎゅむっ。

 もごっ……はぁ、はぁ。

 鼻を塞がれた。
 咄嗟に口呼吸に切り替える。
 あーびっくりした~。

 私は犯人を睨み付ける。

「ひーふぅ~はひふんほ」

「ああキティ、おはよう」

 挨拶したわけじゃないんだけど……。

「ジークおはよう。鼻を塞ぐのはあんまりだと思うの」

 恨みがましく文句を言うとひょいっと体を持ち上げられ、ジークの上に乗せられた。

「おおっ?」

 地味にバランスをとるのが難しく、モゾモゾ動いてしまう。

「そう拗ねるなキティ。可愛いペットには悪戯いたずらをしたくなるものだろう」
「ペットが可愛いならゆっくり眠らせてあげるものだよ」
「十分に寝ただろう。ペットの健康を維持するのも飼い主の勤めだ」


「魔王様はキティに構いたかっただけでしょう」

 そんな言葉と共に私の体は宙に浮いた。

「うお?」
「シオン返せ」

 私を持ち上げたのはシオンだった。

「レオンパス」
「よしきた」

 私はひょいっと投げられレオンがキャッチ。
 このヒト達めっちゃ力持ちだな。

「おはよーキティ。お兄ちゃんが迎えにきたぞー」

 私を軽々と受け止めたレオンはそのまま頬ずりしてきた。

「レオン、お兄ちゃんちがう」
「ああ、まだ独身だから親は諦めた。レオ兄と呼べ」
「レオンヒトの話聞いて」

 ペチペチとレオンの腕を叩いて抗議したが喜ばれただけだった。

 変態か。

 あ、違うこれ飼い猫に猫パンチされて喜ぶのと同じやつだわ。

「レオン」

 ジークが低い声でレオンを呼ぶ。
 あ、いつの間にか着替えてる。

「はい」

 レオンは心得ていますと言うように頷いて私をジークに手渡した。
 すごい、私起きてから一度も自分で地面踏んでないよ。

「うむ」

 ジークは可愛いペットが戻ってきてご満悦だ。

「キティおいで、髪を整えてやろう」

 おいでもなにもキティはあなたの腕の中ですやん。
 寝癖がひでぇって言いたいのか!

 ジークの漆黒の髪は特に乱れもなく超自然に纏まっている。
 イケメンは髪の毛一本一本までイケメンって話だね。

 くそぅ。


 ジークは私を鏡台の前に座らせると、丁寧な手付きで寝癖を直してくれた。
 うん、手馴れてない感半端なかったけど丁寧だったよ。

 そうこうして私とジークがじゃれついてる間にシオンとレオンによって朝食の準備がされていた。
 ……朝は毎日部屋までデリバリーなんすか。流石魔王。


 朝ご飯もとってもおいしかったです。





 食べ終わって着替えたらジークが城の中をお散歩しようと誘ってくれた。
 ちなみに今着ているのはレオンが夜中に買ってきた純白のフリフリワンピースだ。
 お前はどこの親バカだ、レオン。

 わざわざ買ってきてくれたのはありがいけど、もうちょっと着やすいのがよかったなぁ。
 ジークの反応?大絶賛だけど何か。

 ちょっと嬉しかったから大人しく着てるよ。

 誘拐されるんじゃないかって首輪とリードをオーダーしようってレオンとジークが話し合ってたのは全力で止めたよね。ジークが変態になっちゃう。
 そうやって盛り上がってる二人をシオンだけは両方とも趣味悪いなぁ、って目で見てた。

 私に失礼じゃない?

 ジークは昨日の宣言通り仕事をまるっとシオンとレオンに任せて私と散歩に出た。

「いいかキティ、疲れたり具合が悪くなったら直ぐに言え」
「は~い」

 私はどんだけ虚弱なんだ。
 体力がないのは間違ってないけども。

 このお散歩の目的は城の案内と私の体力作りなのに甘やかしちゃだめだよ飼い主様。

 だから今は抱っこスタイルじゃなくて手をつないでる。
 正直保護者と幼子おさなごにしか見えない。

 まあいいけど。



 廊下を歩きながらジークにどこに行きたいか聞かれた。

 そう言われても困るんだけど……。

 とりあえず魔王城で一番ネット環境が整っているところと答えてみた。
 庭園!!とか言えないところが女子として残念なのは自覚してるさ。

「それなら情報管理隊に行くか」
「うん」

 それはいいんだけどさりげなく抱き上げようとするのやめてくれないかな……。



 歩いて数分で情報管理部隊のある部屋に着いた。

「キティ疲れたか?」
「……わりと」

 やばい、やばいぞ私。ここまで体力が落ちてたなんて。

 ジークが肩で息をしてる私の背中を優しく撫でてくれてる。
 飼い主様が優し過ぎて涙が出そう。呆れてもいいんだよ?

 あ、飼い主様、扉くらいは私が開けますよ!

「ぐぬぬぬ」

 何だこの扉全然開かない。
 全体重かけて引いてるのに。

「キティ……」
「いいのジーク。これくらい出来るからやらせて」

「キティ……」
「手伝わなくていいからねジーク」


「その扉……」

「私が開けるの!!」


 こうなったら意地でも自分でやってやる!







「引くんじゃなくて押すのだが」





「………」



 無言で扉を押してみる。

 少々重い手応えと共にすんなりと開いた。


 中を覗くと笑いを堪えている男達。

 ………もしかしなくても聞こえてた?

 自分の顔が真っ赤になったのが分かった。

 羞恥で若干涙目になった私はジークのマントに潜り込むことしか出来なかった。



 ……ジークよしよし撫でてくれなくてもいいよ。
 余計恥ずかしくなるから。






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