上 下
2 / 8

1

しおりを挟む
 

「ん……」

 唐突に目が覚めた。
 随分長いこと眠っていたのだろう、体が重くて節々が痛い。

 ゆっくり目蓋を開けると、周りは真っ暗で何も見えなかった。
 辺りを探ろうと寝転がったまま上に手を伸ばすと、何か木材でできた蓋の様なものに当たった。軽く押しつつ体を起こすと、それは簡単に開き床に落ちると同時に崩れ落ちる。
 土煙が舞う。

「ゴホッ、ゴホッ………………何だ、ここ」

 薄暗い周りを見渡すと、そこは窓ガラスもなく、土埃のたまった廃墟のようだった。
 俺が今入っていたのは棺桶のような木の箱だ。とりあえずそこから出る。

 よたよたと歩き、どうにか外に出ると日差しが眩しくて目を開けていられなかった。目が慣れていないからだろう。
 慌てて中に戻る。
 どうにか確認できたのは、ここが森の中にあるということくらいだ。

「……まあ、とにかく使えそうなものを集めて街に行ってみるしかないな…………」

 幸い、愛用していた武器は俺と同じ棺桶に入っていた。



 この時の俺は、外の世界があんなに変わっていたなんて思いもしなかった。

























 俺はいつも通りに森から塔に帰ってくると、入り口をくぐったあたりでエドウィンに声をかけられた。

「オズワルドさ~ん、それなんすか?」

「?なんすかも何も、何時も通りの俺の顔だが……。ああ、大丈夫だ。僻むな。お前の顔も捨てたもんじゃない。整形すれば何とかなるぞ」
「いや、そんな慰めが聞きたかったんじゃないっす。あんたほんと人の話聞かないっすね」

 ……失礼な奴だ。整形代を少し工面してやろうと思ったがなしだな。

「今更オズワルドさんの顔に嫉妬したりしないっすよ。俺が気になったのはあんたが抱えてるその卵っすよ、卵」

 そう言って部下が指を指してきたのは俺が持ち帰った通常よりは大分大きな卵だった。

「やらんぞ」
「いらんわ」
「……じゃあ何の用だ」
「いや、オズワルドさんが何かを拾って来るなんて珍しいんで、ちょっと気になっただけっすよ」
「そうか、じゃあ付いて来い」
「え?どこいくんすか!?…あ、ちょっと待って下さいよっ!」

 俺が歩き出すと、エドウィンは慌てて後を付いて来た。

 どこに行くって、決まってるだろう。




 卵があるんだから台所だ。










 フライパンを熱していると、俺の横でエドウィンがため息を吐いた。

「ここで孵化させるって発想がないのがオズワルドさんっすよね」
「仕方ないな、お前にも一口分けてやる」
「誰が分けて欲しいって言ったっすかね!?そんな得体の知れない卵食べたくないっすよ!!」

 うるさいやつだな。

 俺は持っていた卵をそのままコトン、とフライパンにのせた。
 隣のエドウィンが一瞬で静まる。

「……オズワルドさん」
「何だ」
「料理の仕方って知ってます?」
「卵料理は大体弱火」
「そうだけどそうじゃない」

 エドウィンは頭を抱え始めた。頭痛か?

「オズワルドさんは何を作ろうとしてるんすか?」
「卵焼き」
「確かに卵を焼いてるけどもっっっ!!卵は割ってから焼くんですよ!!」
「そうなのか」
「そうなんです。そんなんでよく料理しようと思いましたね」
「自慢じゃないがこれが初挑戦だ」
「本当に自慢じゃないっっ!!」

 全部調理済みのものを持ってこさせてるからな。エドウィンが置いていった野菜は次来た時に返している。もったいないしな。
 エドウィンもどうせ持って帰るんだからわざわざ持って来なければいいものを。


 俺が卵から一瞬目を離した隙に、パキッと音がした。
 フライパンに向き直ると、卵の上部にヒビが入っている。

「おいエド、勝手に割れんじゃねぇか」
「え?そんなまさか……!!」
「!!」

 エドウィンだけじゃなくて俺もビックリした。
 卵のヒビから小さな手が生えているのだ。
 明らかに人間のものではない真っ白な手には、本当に小さな爪が生えている。

 ヒビは徐々に大きくなり、どうやら生まれるようだ。

「オズワルドさん!!」
「ああっ!」

 俺は慌てて卵を持ち上げてフライパンの上から退かした。
 卵が熱いが、そんなことは言っていられない。


 卵を横の台に置くと、パキッパキッっと音を立てて殻が割れ、剥がれていく。

 俺とエドウィンはその光景を息を飲んで見ていることしか出来なかった。




 殻が剥がれて中身が見えるまで、何時間にも思えた。


「キュイキュイ~」


 そうして、ようやく現れたのは、真っ白な色をした可愛らしいドラゴンの赤ちゃんだった。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。

亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません! いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。 突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。 里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。 そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。 三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。 だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。 とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。 いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。 町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。 落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。 そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。 すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。 ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。 姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。 そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった…… これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。 ※ざまぁまで時間かかります。 ファンタジー部門ランキング一位 HOTランキング 一位 総合ランキング一位 ありがとうございます!

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

チートスキルを貰って転生したけどこんな状況は望んでない

カナデ
ファンタジー
大事故に巻き込まれ、死んだな、と思った時には真っ白な空間にいた佐藤乃蒼(のあ)、普通のOL27歳は、「これから異世界へ転生して貰いますーー!」と言われた。 一つだけ能力をくれるという言葉に、せっかくだから、と流行りの小説を思い出しつつ、どんなチート能力を貰おうか、とドキドキしながら考えていた。 そう、考えていただけで能力を決定したつもりは無かったのに、気づいた時には異世界で子供に転生しており、そうして両親は襲撃されただろう荷馬車の傍で、自分を守るかのように亡くなっていた。 ーーーこんなつもりじゃなかった。なんで、どうしてこんなことに!! その両親の死は、もしかしたら転生の時に考えていたことが原因かもしれなくてーーーー。 自分を転生させた神に何度も繰り返し問いかけても、嘆いても自分の状況は変わることはなく。 彼女が手にしたチート能力はーー中途半端な通販スキル。これからどう生きたらいいのだろう? ちょっと最初は暗めで、ちょっとシリアス風味(はあまりなくなります)な異世界転生のお話となります。 (R15 は残酷描写です。戦闘シーンはそれ程ありませんが流血、人の死がでますので苦手な方は自己責任でお願いします) どんどんのんびりほのぼのな感じになって行きます。(思い出したようにシリアスさんが出たり) チート能力?はありますが、無双ものではありませんので、ご了承ください。 今回はいつもとはちょっと違った風味の話となります。 ストックがいつもより多めにありますので、毎日更新予定です。 力尽きたらのんびり更新となりますが、お付き合いいただけたらうれしいです。 5/2 HOT女性12位になってました!ありがとうございます! 5/3 HOT女性8位(午前9時)表紙入りしてました!ありがとうございます! 5/3 HOT女性4位(午後9時)まで上がりました!ありがとうございます<(_ _)> 5/4 HOT女性2位に起きたらなってました!!ありがとうございます!!頑張ります! 5/5 HOT女性1位に!(12時)寝ようと思ってみたら驚きました!ありがとうございます!!

女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。 麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。 使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。 厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒! 忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪ 13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください! 最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^ ※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!  (なかなかお返事書けなくてごめんなさい) ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...