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しおりを挟む「ん……」
唐突に目が覚めた。
随分長いこと眠っていたのだろう、体が重くて節々が痛い。
ゆっくり目蓋を開けると、周りは真っ暗で何も見えなかった。
辺りを探ろうと寝転がったまま上に手を伸ばすと、何か木材でできた蓋の様なものに当たった。軽く押しつつ体を起こすと、それは簡単に開き床に落ちると同時に崩れ落ちる。
土煙が舞う。
「ゴホッ、ゴホッ………………何だ、ここ」
薄暗い周りを見渡すと、そこは窓ガラスもなく、土埃のたまった廃墟のようだった。
俺が今入っていたのは棺桶のような木の箱だ。とりあえずそこから出る。
よたよたと歩き、どうにか外に出ると日差しが眩しくて目を開けていられなかった。目が慣れていないからだろう。
慌てて中に戻る。
どうにか確認できたのは、ここが森の中にあるということくらいだ。
「……まあ、とにかく使えそうなものを集めて街に行ってみるしかないな…………」
幸い、愛用していた武器は俺と同じ棺桶に入っていた。
この時の俺は、外の世界があんなに変わっていたなんて思いもしなかった。
俺はいつも通りに森から塔に帰ってくると、入り口をくぐったあたりでエドウィンに声をかけられた。
「オズワルドさ~ん、それなんすか?」
「?なんすかも何も、何時も通りの俺の顔だが……。ああ、大丈夫だ。僻むな。お前の顔も捨てたもんじゃない。整形すれば何とかなるぞ」
「いや、そんな慰めが聞きたかったんじゃないっす。あんたほんと人の話聞かないっすね」
……失礼な奴だ。整形代を少し工面してやろうと思ったがなしだな。
「今更オズワルドさんの顔に嫉妬したりしないっすよ。俺が気になったのはあんたが抱えてるその卵っすよ、卵」
そう言って部下が指を指してきたのは俺が持ち帰った通常よりは大分大きな卵だった。
「やらんぞ」
「いらんわ」
「……じゃあ何の用だ」
「いや、オズワルドさんが何かを拾って来るなんて珍しいんで、ちょっと気になっただけっすよ」
「そうか、じゃあ付いて来い」
「え?どこいくんすか!?…あ、ちょっと待って下さいよっ!」
俺が歩き出すと、エドウィンは慌てて後を付いて来た。
どこに行くって、決まってるだろう。
卵があるんだから台所だ。
フライパンを熱していると、俺の横でエドウィンがため息を吐いた。
「ここで孵化させるって発想がないのがオズワルドさんっすよね」
「仕方ないな、お前にも一口分けてやる」
「誰が分けて欲しいって言ったっすかね!?そんな得体の知れない卵食べたくないっすよ!!」
うるさいやつだな。
俺は持っていた卵をそのままコトン、とフライパンにのせた。
隣のエドウィンが一瞬で静まる。
「……オズワルドさん」
「何だ」
「料理の仕方って知ってます?」
「卵料理は大体弱火」
「そうだけどそうじゃない」
エドウィンは頭を抱え始めた。頭痛か?
「オズワルドさんは何を作ろうとしてるんすか?」
「卵焼き」
「確かに卵を焼いてるけどもっっっ!!卵は割ってから焼くんですよ!!」
「そうなのか」
「そうなんです。そんなんでよく料理しようと思いましたね」
「自慢じゃないがこれが初挑戦だ」
「本当に自慢じゃないっっ!!」
全部調理済みのものを持ってこさせてるからな。エドウィンが置いていった野菜は次来た時に返している。もったいないしな。
エドウィンもどうせ持って帰るんだからわざわざ持って来なければいいものを。
俺が卵から一瞬目を離した隙に、パキッと音がした。
フライパンに向き直ると、卵の上部にヒビが入っている。
「おいエド、勝手に割れんじゃねぇか」
「え?そんなまさか……!!」
「!!」
エドウィンだけじゃなくて俺もビックリした。
卵のヒビから小さな手が生えているのだ。
明らかに人間のものではない真っ白な手には、本当に小さな爪が生えている。
ヒビは徐々に大きくなり、どうやら生まれるようだ。
「オズワルドさん!!」
「ああっ!」
俺は慌てて卵を持ち上げてフライパンの上から退かした。
卵が熱いが、そんなことは言っていられない。
卵を横の台に置くと、パキッパキッっと音を立てて殻が割れ、剥がれていく。
俺とエドウィンはその光景を息を飲んで見ていることしか出来なかった。
殻が剥がれて中身が見えるまで、何時間にも思えた。
「キュイキュイ~」
そうして、ようやく現れたのは、真っ白な色をした可愛らしいドラゴンの赤ちゃんだった。
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