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三章
とりあえず無事にお出かけできました!
しおりを挟む前回と違い、街に来てもそこまで騒がれることはなかった。
目立たない服装をしてきたのできっとバレていないんだろう。それとも一度見た生物だから騒ぐほどの物珍しさがなくなったのか。
なにはともあれ、私は無事に目的の雑貨屋に辿り着いた。
ガラス越しに中の様子が見えるのでお店に入る敷居はそんなに高くない。
細かい意匠が凝らしてあるドアノブを押し、お店の扉を開けると扉の上部についている鈴がカランカランと音を立てた。
「いらっしゃいませ」
「こ、こんにちは」
お店の中に足を踏み入れると壮年の男性が出迎えてくれた。エプロンをしているので店員さんだろう。
店員さんは柔和な笑みを浮かべて「ご自由に店内を見て回ってくださいね」と言ってくれる。お言葉に甘え、私は店内をじっくり見て回ることにした。
お店の中はそこまで広いわけでもないけれどいろんな種類の雑貨が並んでいる。
今日はみんなへのお土産はいらないから自分の欲しいものを買っておいでと熱弁されたので棚の中からピンとくるものを探す。
おしゃれな瓶にガラスのペン、かわいらしいデザインの便箋など大変乙女心をくすぐるものが所狭しと並んでおり、目移りして仕方がない。
ほしいものがたくさんで困っちゃいますね……。
実用性に欠けるものはどうなのかと思いつつも一つくらい部屋にインテリアを置いてもいいかなと迷ってしまう。
そんなことを考えながら店内を見回っていると、ふとあるものが目に入った。
「か、かわいいです……!」
それは、硝子でできた子竜の文鎮だった。
きょとんとした顔の子竜がちょこんと座っている形ですごくすごくかわいい。
ほ、ほしいです……!
それは正に一目惚れだった。
買おう! という意思が顔に現れていたのか、近付いてきた店員さんが腰をかがめて私に話し掛けてきた。身長差がありすぎて話しにくいですよね、小さくてすみません。
「そちらはお気に召しましたか?」
「はい! 是非これを購入させていただきたいです!」
「承知しました。他にもまだ見て回られますか?」
「いえ、今日はこの子をお迎えさせていただくだけにしようと思います。今度またきますね」
「ふふ、お待ちしております。それではこちらをお包みさせていただきますね」
「ありがとうございます」
店員さんは子竜型の文鎮をポップな竜のイラストが描かれた紙で包むとそれを紙袋に入れてくれた。
お会計を済ませてその紙袋を受け取る。
「ありがとうございました。またお越しください」
そう言って見送ってくれた店員さんにお礼を返し、お店を出た。
帰りは行きと同じ道を戻るだけだから地図は要りませんね。
……あれ? どっちから来たんでしたっけ。
右も左も大体同じような街並みが並んでいるのでどちらから来たか分からなくなってしまった。
慌てて地図を荷物の中から引っ張り出す。
ビリッ
「あ」
慌ててだそうとしたせいで地図が破れちゃいました。
「あわわ」
破れた地図を持って右往左往。
半ばパニックです。
ワタワタとしていると、そんな私の様子を見かねたのか道を歩いていたマダムが声をかけてくれた。
「ひ……ゴホン、お嬢ちゃん大丈夫? 道が分からないのかい?」
「あ、はい……」
「街の入り口まで行けば分かるかい?」
「はい」
「じゃあおばちゃんがそこまで連れてってあげるわ! ついといで」
「は、はい」
親切なおばさまの後ろをついて行く。
ちょこちょこと前を歩くおばさまについて行くとあっという間に街の入り口に辿り着いた。
「あ、ありがとうございました」
「い~え、気を付けて帰んなね! ……姫様に何かあったら陛下がどうなるか分からないからね……」
よく聞こえなかったけれど、最後に何か言うとおばさまは颯爽と帰っていった。
そこからは何の問題もなく、スムーズに家に着くことができた。
「ただいまです」
「「「「おかえりなさい」」」」
玄関のドアを開くとみんなが出迎えてくれた。
「さあコートを脱いでお母さんにお話しを聞かせてちょうだい?」
「はい!」
コートを脱いで荷物を下ろし、リビングの椅子に着く。
それから暫く今日のお出かけの話に花を咲かせていたら、エルゼリアがぽろりと口を滑らせた。
「――楽しかったようでよかったけれどリア、安易に知らない人について行ってはダメよ? 今回はあのおばさまが本当にいい人だったからよかったけれど」
「……なんでそれをエルゼリアが知ってるんですか?」
その話はまだしてないはずなのに。
「あ」
エルゼリアがパッと手で口を塞ぐ。
もう遅いですよ。
「まさか……」
お父さん、お母さん、そしてヴォルフス様の顔を順番に見遣ると、みんなは示し合わせたように私から目を逸らした。
「……後をつけてましたね?」
むぅっと頬を膨らませ、ジトリとした顔でみんなを見る。
「「「「ごめんなさい」」」」
少しむぅっとしたものの、四つのつむじが綺麗に並んでいたのが少しおもしろかったのでこれ以上拗ねるのは止めておいた。
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