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三章

試作品ができました

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 魔法陣の最後の一角を描き終え、私は顔を上げた。

「――で、できました!」
「できたね!」

 うん、見直しても完璧な魔法陣です。この枕の魔法陣を発動すれば夜には空を飛ぶ夢が見られるはず! しかも。見られる夢を絞ったことで魔法陣に余裕ができたので安眠の効果も付け加えられました。なのでよく眠れるはずです。

「それじゃあこれをあと二個作ろうか。俺も試したいし、姫様も試したいでしょう?」
「はい! でも、あと一つは誰のですか?」

 あと二つ作ったら今作ったのと合わせて、合計三つの試作品ができることになる。あと一つはどうするのだろうと思ってミカエルさんに尋ねると、ミカエルさんは微笑んでいった。

「ふふ、もちろん陛下のだよ。かわいいかわいい姫様の初めての発明を陛下が欲しがらないわけないでしょう。ですよね?」
「よく分かってるな」

 片眉を下げて笑うヴォルフス様。

「そりゃあリアの初めての発明品なんだから、喉から手が出るほどほしいさ。ケースに入れて部屋に飾ろうかな」
「使ってください」

 部屋に飾っても何の効果もありませんよ?
 オブジェコースは回避したいです。
 たった今完成した枕をヴォルフス様に押し付ける。

「ヴォルフス様、使ってください。使ってくれないならあげませんよ?」
「使います」

 取り上げられないようにか、大事そうに枕を抱え込むヴォルフス様。
 ……なんかかわいいです。
 ほっこりしていると、眉を下げたヴォルフス様に頭を撫でられた。

「――リア、すまないが俺はそろそろ仕事に行かなきゃならない」

 ハッ! そうですよね、ヴォルフス様は王様なんですから決して暇じゃないはず。気付けば予定してた見学時間を大幅に超えていますし。

「すみませんヴォルフス様……」
「リア、違うだろ?」

 困った子を見るような微笑みを向けられる。

「――あ、ありがとうございました。……一緒に見学に来てくれて嬉しかったです」
「ああ、どういたしまして」

 今度はよくできました、というような微笑みだ。

「リアはもっとここにいたいだろ?」
「はい」

 まだ、試作品が一個しかできていないので、せめてあと二個作り終わるまではここにいたい。

「ミカエル、リアを頼んでもいいか?」
「もちろんです。姫様のお世話はお任せください」

 ミカエルさんはポンッと自分の胸を叩き、私のお世話を引き受けてくれた。……いや、私のお世話ってなんですか。
 少し釈然としない思いを抱えつつも、ヴォルフス様を見送る。




 ヴォルフス様を見送り、私達は元の場所に戻ってきた。

「――じゃあ、作業を再開しようか」
「はい」

 それから、私達は再び作業に没頭し始めた。




 そして、一時間ほど魔法陣を枕に描いていると横からコップが差し出される。コップを持っているのはミカエルさんだ。
 中身は……オレンジジュースですかね?

「姫様、ちゃんと飲み物飲んでね? 水分が足りなくなっちゃうからね」
「あ、ありがとうございます」

 コップを受け取り口をつける。一口飲めば、冷たいジュースが食道を通る感覚がする。
 どうやら、気付かないうちに結構喉が渇いていたらしく、コクコクとオレンジジュースを飲み干してしまいました。

「ぷは」
「ふふ、良い飲みっぷり。おかわりはいる?」
「ください」

 もう一杯ジュースを注いでもらう。

「あ、そうだ、あと前髪が邪魔かと思ったからピンをもらってきたよ。使う?」
「はい! ちょうど少し邪魔だと思ってたのでありがたいです!!」

 ミカエルさんが持ってきてくれたのはクリップタイプのピンだった。
 そして、ピンを受け取ろうと伸ばした手が空を切る。
 私の手とすれ違うように伸びてきたミカエルさんの手は私の前髪をサイドに寄せ、ピンで留めてくれた。

「うん、かわいい。集中するのもいいけど、ちゃんと休憩はとってね」
「はい」

 ――ハッ! 流れるようにお世話されちゃってます! なんたる包容力。
 スムーズすぎて遠慮する暇もありません。ミカエルさんおそるべしです。
 ポカンと口を開けて見ると。ミカエルさんが「ん?」と首を傾げた。

「どうしたの? 一回お昼寝する?」
「いえ、お昼寝は大丈夫です」

 ミカエルさんには私が何歳に見えてるんでしょうか……。いえ、もしかしたら包容力の化身であるミカエルさんは、自分より年下はみんな子どものように見えるのかもしれませんけど。

「そっか、じゃあ作業の続きをしようか」
「はい!」

 よし、もうひと頑張りしましょう!






「――で、できました!!」

 それからさらに1時間ほど作業をすれば、3つ目の試作品が完成した。
 試作品の枕を抱きしめる。

「さっそく今日の夜使ってみます!」
「うんうん、俺も試してみるよ」

 ミカエルさんもニコニコして枕を抱きしめている。

「――あの、ミカエルさん、また来てもいいですか?」

 上を向いてミカエルさんの顔色を窺う。
 魔道具を作るのはとても楽しくて、この一度の体験だけで終わらせたくなかった。
 ミカエルさんは私を見下ろすと、ふわりと笑った。

「もちろん。いつでもおいで。姫様なら大歓迎だよ」
「!」

 う、嬉しいです。
 にやけそうになる頬を両手で押さえる。

「さて姫様、帰る前に他のおじさん達の作業も見ていってくれる? さっきからずっとソワソワしてるんだ」
「へ?」

 ミカエルさんの言葉に周りを見渡せば、おじさま方がチラチラとこちらを見ながら作業していた。

「このまま姫様が帰っちゃったら俺がみんなにどやされちゃうから、とりあえずこの部屋一周だけしてくれない?」
「もちろんです!」

 むしろお願いして見て回りたいくらいだ。

 さっそく一番近くにいたおじさまの魔道具を見せてもらう。

「これはなんですか?」
「これはなぁ――」

 おじさまは嬉々として魔道具の説明をしてくれた。そして意見を求められたので素人ながら答える。すると、さらに会話が発展していく……ということをほぼ全員分繰り返した。

 結果、滞在時間はどんどん長くなっていくし、頭も使って疲労も溜まるわけで――。

「んー……」

 しぱしぱする目を擦る。

「どうしたの姫様? 眠い?」
「ん~……」

 眠いような眠くないような。ただ目が疲れただけのような気もします。

「あ~こりゃおねむだね。陛下が迎えに来るまでまだ時間あるしちょっと仮眠をとっていったら?」

 仮眠スペースあるよ、とミカエルさんが奥にある扉を指さす。

「でも、私がお邪魔していい所なんですか?」
「大丈夫大丈夫、この時間は普段も使う人いないし。ほら、眠いならお眠り」

 ミカエルさんの優しい声音が眠気を誘う――。

 それから、どうやって仮眠室に移動したかは覚えていない。気付けば、試作品を枕にして眠ってました。





 ――その時みた夢は、人型のままヴォルフス様と空を散歩する、とても楽しい夢だった――。









 




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