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三章

職場見学③

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 ヴォルフス様に抱っこされた私の周りをおじさま方が取り囲む。

「お~、かわいい子竜だなぁ」
「まるっとしてて食べちゃいたいくらいかわいいな」
「お? 尻尾を抱えて震えてるな。怖いんか?」

 そりゃあ、自分を一掴みできちゃいそうな大男数人に周りを囲まれたら恐怖はありますよ。人型の時よりも自分が小さくなったせいか、おじさま方の威圧感もマシマシだ。なぜかここのおじさまは軒並み竜人の平均身長よりも大きいんですよね。

 怯えきった情けない鳴き声が出ないように自分の尻尾の先をはむっと咥える。

「「「お~!!!!」」」

 すると、周りから大きな声が上がる。びっくりしたけど尻尾の先を咥えていたおかげで情けない声は上げずに済んだ。
 頬をほんのりと染めたヴォルフス様が上から私を覗き込んでくる。

「リア……かわいすぎる!!」

 ぎゅっと私を抱く腕の力が強くなった。尻尾を咥えていたので「ぎゅみゅっ」と変な声が出た。
 そこで、ミカエルさんがおじさま方と私の間に割って入ってくれる。

「こらこら~、姫様が怖がってるでしょ~?」

 そしてミカエルさんはビビり散らかしている私の頭をよしよしと撫でてくれた。それだけでふにゃんとしちゃいます。
 ミカエルさんがヴォルフス様の方を向く。

「陛下も姫様が怖がってるんだからちゃんと守ってあげないと」
「あ、ああ、そうだな。リアすまない」
「きゅ~ (いえいえ、ヴォルフスさまがあやまることじゃありませんよ)」

 逃げようと思えば飛んで逃げられたわけですし。
 そしてミカエルさんがヴォルフス様からおじさま達の方に視線を移す。

「ほら、みんなも定位置に戻って。姫様は職場見学に来たんだからちゃんと仕事してるところを見せないとでしょ? 真面目にやってればひにかっこいいって言ってもらえるかもよ?」

 ミカエルさんのその言葉で、おじさま方の目の色がガラッと変わった。

「俺っ、仕事に戻ろっかな!」
「あぁ! ズリぃぞ! 俺もちゃんと仕事するから姫様見に来てな!!」
「俺んとこもだぞ!!」

 ゾロゾロとおじさま方が元いた場所に戻っていく。
 背が高いせいでそんなに人数はいないのに大移動のような迫力です。

 おじさま達が定位置に戻ると、一気に周囲がスッキリした。
 私も一旦人型に戻りましょうかね。このままだと意思の疎通がしづらいですから。
 そう思って私は人間の姿に戻った。  

「お、戻ったな」
「はい、竜のままだとお話できませんからね」

 洋服も元通りです。

「ミカエルさん、さっそくお仕事を見せてもらってもいいですか?」
「もちろん」

 にこっと慈愛の微笑みを返してくれるミカエルさん。和みますね。
 ほんわかした気持ちのままヴォルフス様と一緒にミカエルさんの後をついて行く。
 
 ミカエルさんは椅子を二脚持ってきて、自分のデスクの横に置いた。

「どうぞ。二人ともここに座ってくださいね」
「ありがとうございます」
「ありがとう」

 ミカエルさんが椅子を引いて待っていてくれる。気遣いの方ですね。
 ありがたく腰かけると、ミカエルさんも自分の椅子に座った。

「じゃあ今俺が開発してる魔道具を紹介するね」

 そう言ってミカエルさんは枕を取り出した。
 白い枕カバーがかかった、一見何の変哲もない枕だ。

「枕ですね」
「枕だな」
「枕だよ~」

 ミカエルさんがのほほんと言う。

「安眠できる魔道具ですか?」
「それもあるけど、この枕は違うよ? どう? 魔法陣見て分かる?」

 ミカエルさんが枕カバーを取った枕をズイっと私の方に寄せてくれた。枕には複雑な魔法陣が描かれている。たしかに安眠じゃあここまで複雑な魔法陣にはならない。
 私はじっくりと魔法陣を見る。

「――もしかして、夢を見る魔法陣ですか?」
「正解! これは好きな夢をみられる魔法陣……になる途中のものだよ」

 ミカエルさんがぽんぽんと枕を叩く。
 まだ出会って間もないですけど、包容力たっぷりのミカエルさんらしい発明だと思う。
 私は再び魔法陣に目を向けた。たしかに、途中と言うだけあってこの魔法陣は不完全だ。今のままだったらこの枕を使っても何も起きないはずです。

「でも、好きな夢をみせるって結構難しいんだよね。魔法陣が複雑になりすぎて纏まらないし、たとえできても同じ理由で量産は難しそうだし」

 頬杖をついて一つ溜息を吐くミカエルさん。

「ぜひ姫様の意見を聞かせてもらいたいんだけど、どう思う?」
「……う~ん、魔法陣を二つとか三つにするのはなしですか?」
「ああ、それも考えたんだけど魔法陣を組み合わせると難易度が高くなりすぎて作れる人が限られるから価格が高くなりすぎるんだよね」

 一つを作るのに時間がかかりすぎるし、技術を安売りするわけにもいかないからとても庶民が手に取れる価格ではなくなるらしい。

「ミカエルさんはお金持ち向けに開発をしているわけではないんですね」
「うん、俺はできればみんなに癒されてほしいんだ」

 さすが包容力の化身。お手本のような答えです。
 でも、未完成なのにここまで複雑になってますから、この時点でもかなりの価格になってますよね。

 う~ん、と真剣に考え込む私達をヴォルフス様が優しい目で見守ってくれている。



「――あ、そうだ! 好きな夢をみられるんじゃなくて、みられる夢を限定してみたものも開発してみたらどうですか?」
「――ああ! いいね! なんでその発想にならなかったんだろう。そうだ、逆に悪夢をみないようにする魔法陣もいいかもしれない」
「いいですね!」

 悪夢をみないなら実質必ずいい夢を見られる魔道具だ。
 ミカエルさんがペンを手に取る。

「どんな夢がいいかな……やっぱり定番は空を飛ぶ夢だよね。あ、でも姫様は普通に空飛べるからいらないか」
「いえ! 私も竜になれるようになる前は空を飛べたらいいと思ってましたから。さっそく魔法陣を作りましょう! 私も一緒に考えていいですか?」
「もちろん!」


 それから、私はミカエルさんと一緒に魔法陣作りに没頭した。魔道具作りは素材との相性とか、魔術が苦手な人でも発動できるようにとか、いろいろ考えないといけないことがあってとてもやりがいのある作業でした。

 ヴォルフス様もそんな私を止めず、私の気が済むまでただ見守ってくれていた。














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