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第95話 悪縁とさよなら

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 初めて聞く情報に、琥珀は首を傾げる。縁結びは噂に聞いたことはあるが、天界にいた二百年の間、お目にかかることはなかった。
 琥珀の中では、おとぎ話のように語り継がれるだけの存在だ。

「そうだよ。縁を結ぶことに関して、凄く強力な神力を持つ。天界に居た頃の僕、それどころか愛ちゃんだって敵わないんじゃないかな」

 本気を出せば、相手を孤立無援にすることだって出来るだろうと、優樹が告げる。

「ほ、ほんとに俺が?」

 まさか、無力だと思っていた自分にそんな能力があったなんて、思いもよらなくて、にわかに信じられなかった。

「私と優樹くんが人間界でまた、出会うはずなんてないの。殺されないように温情をかけてはくれたけど、禁忌に触れて、天界を捨てた身だから。本当なら、時期も場所もずれて生まれたはずなの」

「僕らがこうして一緒にいるのは、琥珀が繋いでくれたからだよ。ここに送り込んでくれた神も相当強い神力があるけど、琥珀の力が上回ったんだ」

 二人から本当にありがとうと感謝され、ぽっと琥珀の身体が熱くなる。琥珀が神として、誰かに感謝されたのは初めてだ。

「それに、無意識でも縁を繋いでいたでしょう? おじさんも、覚えがない?」

「ある……な」

 そういえば。誠司が今、関係がある人物は全員、琥珀と契約が成されてから出会っている。
 そして愛はいつも、誠司と琥珀がすれ違う時に、絶好のタイミングで現れていた気がする。

「俺が落ちてる時に神出鬼没に登場すんのも、琥珀の影響か?」

「うん、琥珀が呼んでたから。こっちで琥珀が上手くやれてるか心配だったし」

 にっこりと、愛は口に弧を描く。愛ちゃんのお悩み相談会の裏側には、こんなタネが隠されていたらしい。愛はずっと、琥珀を見守っていたのだろう。

「琥珀は良縁を繋いでくれるの。十年前、琥珀と仲が良かった蛇の子に、修業が終わったら伝えてくれって頼んだんだけど……教えてくれなかった?」

 優れた能力が分かると、慢心して修業を怠る可能性がある。そのため、特殊な能力を持つ神には、修業後に伝えることが多いらしい。

 蛇の神といえば、琥珀に思い当たる人物は一人しかいなかった。

「蛇の神って、いちごのこと⁉ 全然仲良くねぇよ! それに、いちごが一番俺のこと出来損ないって言った! 本当、あいつ意地悪なんだよ! 言ってくれたら、こんなに悩むことなかったのに!」

「あらら、あの子のプライド傷付けちゃったかな」

「そういえば、いちごがあんなに攻撃的になったのは、その時期からかも」

 いちごは自信家であり、常に自分が優位にいたいタイプの神である。教科書でしか見たことがないような琥珀の優れた力に、嫉妬したのだろう。

「良縁を結ぶ他にも、悪縁を切る力も強いの」

 愛はそう言うと、いまだ微動だにしない高橋に視線を向ける。こうして見ると、本当に死んでいるようにしか見えない。

「どうしても、おじさんの人生には邪魔で、切らなきゃいけない縁だったんだと思う」

「最初……過去に、俺がひどい目にあったのは私たちのせいって、言ったよな。どういうことだ? 学生時代の話なら、琥珀は関係ねぇだろ」

「うん。学生の頃は、違う神が背景にいたんだよ。この高橋って人も、神と契約してる。だけど、悪い方に力を使ってる。過去におじさんが、この人と関わった時、全てが向こうの味方をしなかった?」

 人も、運も、何もかも。と、言う愛に、誠司はたくさん思い当たる節があった。
 当時は学校のずさんな対応に、不信感を覚えただけだったが。

「悪事を働いても、神の加護があったから、バレずにここまでこれた。これまで、どれだけ被害を受けた人がいたのかと思うと、心苦しい。
 今更だと思うかもしれないけど、契約が切れた今は、芋づる式にやってきた全てが露顕するはずだから。
 あとは勝手に自滅するだろうけど、本当にごめんなさい。
 一応この人、校長先生に回収させるから。あ、ちなみに校長先生は現役の神で、今は人間界にいる神の様子を見てるんだけどね。天界にいた頃、色々とお世話してたから、強請って……ううん、今も仲がいいの」

 何やら最後にブラックな発言があったが、聞いていないフリをする。

 ちなみに、愛と優樹を人間界に送り出したのも校長先生らしい。逃がした相手に強請られるなんて、一体校長先生は愛とどんな関係だったのだろうか。気の毒な限りである。
 

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