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第78話 ひとまず
しおりを挟む誠司は話を上手く整理出来ていないのか、ゆっくりとした途切れ途切れの言葉で尋ねる。
「幻滅――は、してない。かなり驚いちゃいるが……は? ってことは、何か。看病してくれた時から、今までずっと俺を?」
「そ、そんなおかしな人を見るような目で見ないで下さい。でも、その前です。助けてくれた日から、だったのかもしれません」
誠司はどうかしてるんじゃないのかという怪訝な目をしていたが、華が全てをさらけ出した甲斐あって、好意云々は信じたらしい。
琥珀は立ち上がって、二人の方へと近づいていく。華の気持ちも、誠司の気持ちも、よくわかった。
「……でも駄目だ。俺はそんな風に考えれねぇ。高峰さんが悪いとかそういう話じゃない、俺が恋愛をするつも」
「一回、考えてみろよ誠司」
誠司の発言に割り込んで、琥珀はすたすたとレジャーシートにあがる。
お互いに集中していた誠司と華は、にゅっと間に入った琥珀に驚いていた。琥珀はまず、正座をしている華の膝に、お手をするように右手を置いた。
「お姉さん、ナイスファイト。ほんとに俺、感動したよ。誠司のことそんなに想ってくれてたなんてさ」
「お、おい。琥珀、お前いつから」
「えー? 誠司が自分より年下の女の子から猛アピールされて、馬鹿みてぇに固まってたところから?」
「おまっそれ全部じゃねぇか。あり得ねぇ」
琥珀と話すことが出来ない華に聞こえないよう誠司は小さく呟いた。
「ま、聞いてたことは、ひとまず置いといてさ」
盗み聞きを非難するように、鋭い視線を向けてくる誠司に、琥珀は愛嬌たっぷり笑って誤魔化した。
「これまでなかった考えを、ぽんっと目の前に出されたら、誰でもすぐに受け入れられないだろ。
それに、お姉さんはずーっと誠司のことを好きでいて、悩んで考えてくれてたんだぜ。それをろくに考えもしねぇで、答えるのも失礼だと思わねぇ?」
華がいる手前、誠司から返答はない。琥珀が一方的に話すばかりである。
けれど、考えている様子の誠司を見ると、今の琥珀理論には納得しかけているようだ。
「前向きにさ、生きていくんだろ? なら、これからは普通に人とも関わっていいんじゃねぇの。
ゆっくり考えて、それでもお姉さんが恋人の対象にはならないってんなら、それはそれで仕方ねぇじゃん。
でも、今すぐにその答えを伝えるのは違うと思うぞ」
誠司が持つ選択肢は、本当に少ない。今まで死なない、という選択をただ取り続けていたのだから。それがようやく、生きるという自発的なものに変わったばかりなのだ。
誠司はまだ、人生の中に<恋愛>を視野に入れていない。
華とは同じ土俵に立ってないのだから、まずはそこに上がることからである。
琥珀の話を聞いた誠司は、そういうものかと悩みながらも、ひとまず結論を出したようだ。
「……高峰さん、さっきの続きなんだが」
「は、はい」
「一回、ちゃんと考える時間を貰ってもいいか?」
華は意表をつかれたのか少し反応を遅らせてから、何度も頷いた。
「はい。はい! もちろんです。えっと、それじゃあ、お返事をもらえるまで今まで通り、お友達として仲良くしてくれますか?」
「あー、その、高峰さんがいいんなら」
「はい、よろしくお願いします」
わかりやすく表情を明るくさせた華に、誠司は苦笑する。自分に価値が見出せない誠司は、華のことを物好きだと思っているのかもしれない。
誠司は鍋を持って「新しいお湯を用意する」と言って立ち上がり、手水舎に向かった。
華は階段を下りていく誠司の背中を目で追いかけ、姿が完全に見えなくなると、長い息をついた。
「はぁぁぁぁ良かったぁ。はぁ、緊張した。もう、はぁ。琥珀くん、緊張したねー」
ぎゅっと琥珀を抱き上げた華に、琥珀も応えるように身を寄せる。
「本当よく頑張ったよ。偉い!」
「……これで、普通に話せなくなったらと思うと、言えなかったの。そうなるくらいなら、ずっと友人の方がいいんじゃないかって。でもとりあえずそれは、大丈夫……なのかな」
「うん! 俺からも言っとくから大丈夫! 俺もお姉さんには、誠司とずっと仲良くして欲しいしさ」
恋人同士になるか否か、あとは二人の問題だ。考えた末の答えに、琥珀が口を出す気はないけれど。
華は誠司が持つ負の遺産を全部取っ払って、ただ誠司という男の本質を好いてくれた女性である。
仮に恋愛に発展することがなくても、出来ることなら、華には誠司の味方でいて欲しい。
「実際に決めるのは、誠司とお姉さんだけどさ。俺、お姉さんのこと応援するからね。誠司、わからず屋なとこあるし、手強いかもしれないけど、一緒に頑張ろうぜ!」
「好きになってもらえるように、私も頑張らないとね」
気合いを入れる華を見ると、琥珀は激励が伝わったような気がして嬉しくなる。
物腰は柔らかいけれど、しっかりと自分の意思がある所が頼もしい。
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