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第43話 不思議なお茶会②
しおりを挟む全ての経緯を一つずつ聞いていく。途中で口を挟んでくる琥珀のせいで、少々ややこしくなったが、愛の説明が非常に分かり易かったので、一度で理解出来た。
どこか様子のおかしい華を、愛は一緒にいた校長先生と見守っていて。
初めはストーカー男ではなく、誠司が女性を狙う不届き者だと、勘違いしていたこと。そして、あと少しで誠司は愛に成敗されかけていた事を知り、誠司は己の無事に胸をなでおろす。
愛を敵に回すのは、その辺のヤンキーと敵対するよりも嫌だ。
さらに誠司の知らない間に、琥珀と愛が神社で会っていたことも、新発覚だ。
それぞれが、色々なところで関わりがあったことに、誠司と華は少々面を食らっている。一方で、琥珀と愛は、まるで気にしていないようだった。
「華ちゃん、プリンありがとう。すっごく美味しかった」
全て平らげた愛が、まだどこか夢心地で礼を告げた。
もうしばらく、手頃な価格のスイーツでは満足出来そうにない。
「喜んで貰えて良かった」
そんな台詞とは裏腹に、華の表情はどこか迷いがある。そして、意を決したように、華は誠司に向かい直った。
「藪原さん。その、良ければ……なんですが。これからも、一緒に食べてもらえませんか? 琥珀くんも、愛ちゃんも是非」
「……礼ならもう十分過ぎるぐらいに貰ってる。自分の為に使ってくれ」
華はまだストーカーから救出された恩を感じて、誠司に怪我をさせた礼をしたいのだろうか。
あんなに手厚く看病までして貰ったのだ。今はむしろ、誠司が礼をしなくてはいけない立場だろう。
「いえ、違うんです。あ、いやもちろん、それもありますけど……どうしてもあのお金を自分一人で使うには気が重くて。
藪原さんが一緒に使ってくれた方が有り難いんです」
一体なんの話だと、会話に置いてけぼりになっていた愛に、華が上手くぼかしながら説明をする。
さすがに、ストーカーの両親から大事にして欲しくないと渡された金など、大人の汚さが顕著に現れたそれを子供に話すのは躊躇われたようだ。
しかし、愛の追求が厳しくて、結局華は示談金についての一部始終を語ることになった。
おそらく華は、この示談金に嫌悪感を抱いている。楽しく使えるものではないのだろう。だが、それを受け入れるのには、誠司に与えられるものがあまりに多過ぎる。
「自分一人で使いにくいなら、家族とでも、友達とでも使えばいい」
その相手が誠司である必要はないと、断りを入れていれば、二人の間に愛の声が落とされる。
「いいじゃん。貰えば」
けろりと告げた少女の発言は、無垢ゆえなのか、邪心からなのか判断が難しい。
「簡単に言うな」
「おじさんは遠慮してるかもしれないけどさ。それで、華ちゃんが助かるんだよ?」
「だから、違う奴とすればいいだろ」
わざわざ好き好んでホームレスのおっさんに、こんな高級食品を与える必要はない。
穏やかで優しい華ならば、友人一人いない誠司と違って、周りに人はいるだろう。
「なんでそれをおじさんが決めるの」
「は?」
「華ちゃんが、おじさんがいいって言ってるの。だから、おじさんに頼んでるんでしょ。それなのに、なんでおじさんが勝手に決めるの」
「勝手にって……今はそんな話してねぇだろ」
誠司以外の誰かとした方がいい、そう言っているだけだ。いや待て、それが決めているという事になるのだろうか。
華に視線をやれば「おじさんがいい」という単語に、少し気恥ずかしそうにしながらも、それを否定する様子はない。
「華ちゃんは一緒に使ってくれて助かって、おじさんは美味しい物が食べれる。何が駄目なの?」
確かに、お互いに利益があり、損はないらしい。「win-winじゃん」と言う愛に、もう反論する言葉が何も出てこなくて、誠司は押し黙る。どうやら、小学生に論破されてしまったようだ。
そもそも、華は途中から愛に発言権を奪われているが、本当にそう思っているのか。真意を探るように、誠司は華を見つめる。
その視線に気付いた華は「申し訳ないのですが」と、遠慮がちに声を落として、そう告げた。
「藪原さんのため、ではなく。私は私のために、お願いをしています」
無意識に、ため息が出る。自然と下がった視線の先には、こちらを見上げている琥珀の姿があった。
「お前はどう思う」と、無言で問いかけてみる。愛を納得させるだけの上手い断り文句がなくて、琥珀が否定してくれればと、淡い期待を持っているのだ。
「誠司が決めろ」
それは投げやりにではなく、極めて穏やかな言い方だった。
「本当に誠司が嫌なら、お姉さんには悪いけど、そう言えばいいと思う」
以前もそうだった。琥珀は、誠司に選択肢がある時、意外と口を挟んでこない。黙って、事の成り行きを見守るところがある。
普段は馬鹿のくせに、こういった時は馬鹿みたいに喚く事をしないのだ。曲がりなりにも、琥珀は神であるということなのだろうか。そう思うと無性に腹立たしい。
「まあ俺は、お姉さんに会いたいけどな」
琥珀は、にっと犬歯を覗かせる。
先ほどまで達観しているカウンセラーのような静かな重さがあったのに、途端に冗談めかした軽い空気に変わる。いつもの琥珀だ。
誠司は苦笑いを見せる。あれやこれやと、一人で熟考しているのもアホらしくなってきた。
愛の言うように、どうやら大人は簡単な事を難しく考えるようになるらしい。
「はー……高嶺さん」
「は、はい!」
名前を呼ばれた華は、ピッと背筋を伸ばして、返事をする。
こんな汚いホームレス相手に、何をかしこまる必要があるのだろうと、誠司はまた苦笑う。
「あんたはそれで本当に、助かるんだな?」
「はい……はい! とても」
申し出が受け入れられた事を感じ取ったのだろう。華の笑顔には、喜びの色が溢れていた。
「大体は、この神社にいる。気が向いたら来てくれ」
完全に白旗を上げる。
三人ともが、嬉しそうに表情を明るくさせていた。きっと間違っていなかったということなのだろう。
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