上 下
42 / 45
2章 婚約と新たな火種

偶然の結果

しおりを挟む
 近衛騎士団副団長と言うだけあって、苦戦せずに魔物を屠っていた。

 近衛騎士の数より魔物の方の数が倍以上多かったにも関わらず、皆余裕の表情で戦っていたので、かなりの戦闘経験があるのだろう。

 魔物は王城の魔物図鑑で見てだいたい覚えている。

 今回の魔物の群れの場合ゴブリン、コボルト、オークで構成されており、ゴブリンとコボルトは進化していなければ、一般人でも武器を持てば1対1なら勝てるほど弱い。

 オークは鈍足で遅いが、力が強く一般人なら一瞬で叩き潰されてしまう。

 なりたての冒険者がよく鈍足と言うだけで戦いを挑み力量を間違えて死ぬことが毎年1000件以上あることから、初心者殺しのオークと言われている。

 この3匹に関しては繁殖力が高く放っておくと、魔物の王がすぐに誕生してしまうため、見つけ次第討伐が可能ならばした方が良いと本にも書かれていた。

 そんなことを考えていたらもう最後の1匹になっていて、すぐに首が切断され死亡していた。

 ナザリーさんは返り血をほとんど浴びずに竜車の中に入ってきた。

「お待たせしました。魔物の血でほかの魔物がよってくる前に移動してしまいましょう」

「オークの肉とか持ち帰らなくていいのですか。とても美味しいと本で書かれていた気がするのですが……」

「アーマン公爵を王城まで送ることが最優先ですので」

 ナザリーさんはそう言うとすぐに移動の指示を出し、部隊が動き出した。

「魔法陣の話の途中だった気がしますが、どうしてアーマン公爵を王城に連れてくるように命令されたかの経緯を、話してよろしいでしょうか」

 そうだ、マリア王女のことで問題が起きたから呼ばれていたのをすっかり忘れていた。

 魔物を直接見るのは前にも何回かあったが、ここまで綺麗に戦っているのを見るのは初めてで、すっかりその事ばかりに考えがいっていた。

「そうでした。お話をお願い致します」

「はい。実は王城に魔族が入り込みアーマン公爵を暗殺しようと侵入した際、カナリア王妃とマリア王女に目をつけられ襲われました……」

「マリア王女が襲われた?! 大丈夫なんですか!」

 自分が魔族に目をつけられたために、マリア王女とカナリア王妃が襲われるとは思っていなかったため、動揺してしまった。

「落ち着いてください。殺される寸前にガジル騎士団長が間に合い何とか守ることが出来たそうです……」

「そうですか……」

 生きていることにホッと安心した。

「ですが、マリア王女様は魔族に襲われたことによる恐怖がトラウマになってしまい、いつ襲われてもおかしくないと思ってしまったようで、自分の部屋から出なくなってしまったのです」

「そこで僕を呼びどうにかしてトラウマを無くして欲しいと?」

「その通りです。マリア王女様はもう少しで学園へ通わなければならないため、すこしでも早くこの問題を解決していただきたいとアルバーン国王陛下は願っています」

 アルバーン国王陛下は学園に通わせなければいけないためと表面上では言っているが、一人の娘の父親として心配なのだろう。

「僕にマリア王女を説得する自信はあまり無いですが、精一杯頑張ります」

「マリア王女は近衛騎士団員からしても妹や娘のような存在です。アーマン公爵しか頼れる人はいません。どうかよろしくお願いします」

 ナザリーさんは深々と頭を下げてきた。

 それだけマリア王女が周りの人から慕われていることに何故か俺も誇らしかった。

「はい。それでなぜ魔族が入って来たのですか? 確か王都は協力な結界で覆われていて魔族は侵入出来なかったはずでは?」

「対魔族用の結界は10年に1回、貼り直さなければいけない時期があります。そして張り直す時には既に張ってある結界を消さなければなりません。そのタイミングで魔族が襲撃してきたのが、偶然重なったしまった結界このようなことになったのだと思います」

「偶然……ですか……」

「はい。結界の張り替えについては超重要機密なのでそのタイミングを知っているのは、アルバーン国王陛下と王城に務めている結界魔術師のみです。さらに王都を覆う結界魔術師達は、何重にも身元確認がされているので裏で魔族と繋がるのは不可能です。その結論から今回のことは悲しいことであるが、偶然が重なり起きてしまったとの結論になりました」

「そんな……そんな偶然という言葉で片付けられることなのですか!」

「アーマン公爵、気持ちはわかりますが落ち着いてください……」

「どうしてこんなことに……」

 俺は一体どこから選択肢を間違えたのか考えた。マリア王女と喧嘩した時にすぐに仲直りしておけば良かったのか? 創造神の加護なんて始めっから貰わなければよかったのか? それともが間違えだったのか?

 俺にはもうどこから正解でどこから間違っていたのか分からなくなってきた。

 わからない……わからない……わからないわからない……わからないわからないわからない……わからないわからないわからないわからない……わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない

 脳がその一言で埋まり尽くし、そして発狂した。

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「アーマン公爵! すみません!」

 その声が聞こえた瞬間、俺は暗闇の中に落ちていった…… 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

性格が悪くても辺境開拓できますうぅ!

エノキスルメ
ファンタジー
ノエイン・アールクヴィストは性格がひねくれている。 大貴族の妾の子として生まれ、成人するとともに辺境の領地と底辺爵位を押しつけられて実家との縁を切られた彼は考えた。 あのクソ親のように卑劣で空虚な人間にはなりたくないと。 たくさんの愛に包まれた幸福な人生を送りたいと。 そのためにノエインは決意した。誰もが褒め称える理想的な領主貴族になろうと。 領民から愛されるために、領民を愛し慈しもう。 隣人領主たちと友好を結び、共存共栄を目指し、自身の幸福のために利用しよう。 これはちょっぴり歪んだ気質を持つ青年が、自分なりに幸福になろうと人生を進む物語。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載させていただいています

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

騎士志望のご令息は暗躍がお得意

月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。 剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作? だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。 典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。 従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

チートな幼女に転生しました。【本編完結済み】

Nau
恋愛
道路に飛び出した子供を庇って死んだ北野優子。 でもその庇った子が結構すごい女神が転生した姿だった?! 感謝を込めて別世界で転生することに! めちゃくちゃ感謝されて…出来上がった新しい私もしかして規格外? しかも学園に通うことになって行ってみたら、女嫌いの公爵家嫡男に気に入られて?! どうなる?私の人生! ※R15は保険です。 ※しれっと改正することがあります。

処理中です...