心の交差。

ゆーり。

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執事コンテストと亀裂。

執事コンテストと亀裂㊿

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伊達はこの時ここにいるみんなのやり取りを、自分一人だけ取り残されたような気持ちになりながら、静かに聞いていた。

“赤眼虎” “柚乃” “リーダー” “将軍” 

これらの言葉は、一体何のことだろうか。 今まで聞いたことのない単語がたくさん行き交う中、伊達は何も反応することができず口を噤んだままでいる。
みんなの発言はきちんと聞いているのに、内容が全く頭に入ってこなかった。
「伊達」
突然結人が、伊達の名を呼ぶ。
「待たせて悪いな。 俺たちに聞きたいこと、何でも聞いていいぞ」
彼らの話はもう終わったのか、優しい表情をしてそう話を振ってきた。 
―――聞きたいことは山ほどある。 
―――それらを今聞いて、全て解決してやるんだ。
今でも動揺している自分を一度落ち着かせ、そっと口を開き彼らに尋ねた。

「・・・お前たちは、一体何なんだよ」

「「「・・・」」」
そう言葉を発した瞬間、ここにいる彼らは一斉に黙り込む。 見ている限り、この質問に対して口を開きそうな者は一人もいない。 
―――・・・何だよ、答えてくれるんじゃなかったのか?
そんなことを思っていると、未来が伊達から結人へ視線を移し口を開いた。
「・・・俺たちのこと、言ってもいいのか?」
「あぁ、いいよ。 伊達は俺たちを利用したり、変に広めたりはしないと思うしさ。 できれば俺たちのことは内密にしておいてほしいんだけど、伊達いいか?」
「え? あぁ・・・。 もちろん」
突然そのようなことを聞かれ、頭の中で整理もできていないまま思わず適当に返してしまった。 
だが結人たちのことを友達に言っても誰も信じてはくれないだろうと思い、適当に返事したことを後悔しないよう自分で自分を説得する。
そして未来は、続けて口を開き伊達に向かってこう言った。

「俺たちはさ。 結黄賊って言うんだ」

―――ケッキゾク・・・?

「カラーセクトの一部だよ」

―――カラーセクト? 
―――カラーセクトって、この立川にいる“クリアリーブル”と同じようなものなのか・・・?

「カラーセクトってのは、えーと、何だっけ・・・。 非行為、不良行為をする少年たちのこと・・・だっけ?」
「そうだよ。 カラーセクトって俺たちは格好付けて言っているけど、実際は非行為なんてしない。 好奇心で作った、ただの集まりさ」
未来の曖昧な発言に、夜月は確定付ける言葉を付け加えた。
「それって、どういう集まりなんだ?」
この先の話をあまり聞きたくないと思いつつも、恐る恐る口を開きそう尋ねる。
「伊達の見ての通りさ。 ただみんなで集まって、遊んで喋って、そんで解散。 それだけのチームだよ。 あぁ、さっきの喧嘩はたまたまってことで」
「さっき喧嘩していた相手は誰なんだよ」
「レッドアイタイガーっていう、俺たちと同じカラーセクトさ。 横浜の奴らだけど、俺たちを追って立川へ来た。 ちょっと去年、色々あってな」
「色折はリーダーなのか?」
「うん、ユイは結黄賊のリーダー。 “将軍”って呼んだりもするけど。 あぁ、結黄賊は俺たちだけじゃなくて、後輩にあと10人はいるから」
―――10人って・・・。 
―――色折たちが“結黄賊”っていうチームを作ったんだろ? 
―――去年ってことは、中学生の時に結黄賊を作ったのか。
―――中学生でその人数を率いるって、結構凄いことだよな。 
―――だって、そのみんなをちゃんとまとめているんだから。
中学生なら、みんな自由に行動してバラバラになるのが当たり前だと思う。 互いに意見をぶつけ合ったり、喧嘩をしたり。 だけど、今日ずっと結黄賊を見ていて思った。
―――・・・みんなは、色折を中心にして動いているんだよな。 
だがどうして同い年である結人に、そんなに従うことができるのだろう。 どうして彼のことを、そんなに信用できるのだろうか。 

―――・・・そんなにみんな、色折に付いていきたいのか?
―――色折は一体、どういう奴なんだよ。

「大丈夫かー? 伊達」
「え? あぁ・・・。 うん」
未来から全ての質問に対しての答えを聞き、一人で長い間考えている伊達を見て椎野が心配そうに言葉を発する。
「まぁ、今は一度に説明したから頭と気持ちが追い付けなくなってんだろ。 もしまた俺たちに聞きたいことがあったら、いつでも聞いてくれて構わないから。 
 あーでも、学校ではあまり話してほしくはないかな」
「分かった。 あとさ、もう一つ聞きたいことがある」
「何だよ?」
そう、もう一つ――――聞きたいこと。

「・・・柚乃さんって、誰?」

「「「・・・」」」
そう尋ねると、みんなは再び黙り込んだ。 そんな彼らを見て次第に不安が募っていく。
―――聞いてはいけないことを、聞いてしまったか・・・? 
―――どうしよう、何て言って今の発言を取り消そう。
伊達は考え彼らが静まる中、結人はそっと口を開きこの場の代表としてゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「俺の元カノだよ。 柚乃っていって、横浜で出会ったんだ。 柚乃とはもう別れているけど、曖昧な形で別れちまってさ。 それが今となって、返ってきたんだ。
 ・・・まぁ全て、俺のせいなんだけどな」
元カノ。 伊達は思い出した――――あの時の、喧嘩のことを。
「日曜日、八代と色折と一緒にいた女の人か?」
「・・・え、どうして知ってんだよ」
「あ・・・。 いや・・・」
思わず口が滑ってしまったことに、今となって後悔する。 

―――ここまで言うと、修羅場的なことになるんじゃ・・・。

だが、実際はそんなことはなかった。
「・・・そうだよ。 柚乃のこと、知っていたのか」
結人は苦笑しながらそう言葉を付け加える。 だけど伊達は『喧嘩もその時に見た』ということは口にしなかった。 
とりあえず、ここにいる結黄賊のことはなんとなくだが分かった。 カラーセクトの一部で、喧嘩目的のチームではなくただの集まり。
伊達が今まで結黄賊の喧嘩を見てきた二回共、赤眼虎というチームと何かしらあって喧嘩をしていたのだろう。

―――チーム・・・だったのか。 

結人が結黄賊リーダーで、ここにいるみんなを率いている。 学校ではみんな仲がよくて、ずっと笑っていて。 
入学してから数日後に起きた未来が停学になったという話も、きっと結人は関わっているのだろう。 
今までの話を聞いている限り、彼はみんなのことを大事にしていると思ったから。 みんなが傷付かないように、心配をかけないように自分一人で抱え込んで。
だけどそんな自分に厳しくしている結人に対し、みんなは彼に優しく接してくれている。 『もっと俺たちを頼れよ』と、言いながら。 これこそが、絆と呼べるものなのだろう。
―――色折は、俺が思っていたよりも凄い奴だったんだ。 
結人はみんなのことを信頼していて、みんなは結人のことを信頼していて。 こういう関係が生まれたのも、結人はきっと凄い人だから。 
仲間の期待を裏切らない、ここにいるみんなを照らしてくれる太陽みたいな存在。 伊達はここにいるみんなが、とても輝いて見えた。 そして――――憧れだった。

「・・・喧嘩、強いんだな」

彼らに聞こえないよう、伊達は小さく一人そう呟いた。


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