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執事コンテストと亀裂。
執事コンテストと亀裂㊽
しおりを挟む伊達は今、色々なことがあり過ぎて頭が混乱していた。
藍梨の件はもちろんのこと、同じ学校で同い年で立場も絶対に同じであるはずなのに、ここにいる彼らは一般の伊達とはどこか違う気がする。 何と言ったらいいのだろうか。
伊達は日常を過ごしているのに、ここにいる彼らは非日常を過ごしている感じ――――と、表せばいいのだろうか。
今彼らのことを見ている限り、そう表現をするのが正しいと思う。 そしてもう一つ、目に付いたもの。 それは、この黄色い布とバッジ。
頭、首、手首、肩など、彼らは色々なところに黄色い布を巻いていた。 バッジはみんな、胸元にしてある。
そしてそれらの疑問を持ち合わせたまま、伊達は結人が言った“中”というところへ入ろうとしていた。 中というのは、公園の隣にある大きな倉庫のことだろう。
これは伊達が小さい頃からずっとあった建物だ。 どうして結人は『ここへ入ろう』と、言い出したのだろう。
―――この倉庫の所有者・・・なわけないよな。
結人はポケットから鍵を取り出し、扉を開いた。 そして彼らが躊躇いもなく倉庫の中へ入っていくのを見て、伊達は戸惑う。
関係のない自分が、こんなところへ入ってもいいのだろうか。 中へ入るのを躊躇っていると、隣から椎野が声をかけてくれた。
「入ろうぜ? 大丈夫だよ、中は何にもねぇから」
“中には危険な物がありそうだから入りにくい”と思われたのか、彼は苦笑しながらそう口にする。 そう言われ、伊達は恐る恐る倉庫の中へ足を踏み入れた。
―――何だ、これ・・・。
この倉庫には、椎野が言った通り本当に何もなかった。 ある物と言えば、真ん中には少し高い台があり、その上には大きなソファーが置かれている。
左側にはブルーシートの上にマットが敷いてあり、右側には遊ぶ用具なのか野球バットやサッカーボールなどが置いてあった。 これだけの物にしてはこの倉庫は広過ぎる。
伊達たちが倉庫の中へ入っても、空間がかなり余る程だった。
「伊達に椅子を出してやって。 地べたに座らせるわけにはいかねぇから」
仲間に小さな声でそう耳打ちをし、結人はソファーの真ん中に堂々と腰を下ろす。 そして他のみんなは、結人の目の前に広がるようにしてその場に座り込んだ。
―――どうして色折が、そんなところに座っているんだよ。
―――・・・まるで、色折がここにいる奴らよりも立場が上みたいじゃないか。
「伊達」
ここにいる彼らの光景を見てそう疑問を抱いていると、隣から悠斗に声をかけられる。
「これ、使って」
そう言いながら、パイプ椅子をみんなが座っている一番端に置いた。 そして彼は、そのパイプ椅子を置いた隣に座る。 それにつられて、伊達も椅子に腰を下ろしながら考えた。
未だにこの光景には慣れない。 どうして悠斗が、椅子を持ってきてくれたのだろう。 彼ではなかったら、この変な感情は生まれなかったのだろうか。
―――・・・そうか、中村は同じクラスメイトだからか。
きっと同じクラスで一ヶ月間ずっと一緒に過ごしていたクラスメイトが、このような形で出会うとは思ってもみなかったのだろう。 だからこんなに違和感があるのだ。
そしてここにいるみんなが結人を目の前にしてその場に座り込み、全員の会話が止まったところで結人はそっと口を開いた。
「話へ入る前に、みんなの怪我を確認する。 まずは御子紫から」
「俺は大した怪我はない。 まぁ、色んなところを殴られてアザになった程度かな」
―――何だよ、これ。
「ん、北野」
「俺も御子紫と同じで、アザができたくらい」
「コウ」
「アザと擦り傷かな」
結人は左から順に、みんなの怪我の程度を聞いていった。
―――みんなが普通に答えているってことは、いつもやっていることなのか?
伊達はどうしたらいいのか分からないため、この光景を黙って見ていることにした。
「未来」
「鉄パイプで頭を殴られた。 ギリ避けることはできたけど、運悪く目の上に当たっちまった」
「ちょ、その傷はそのせいかよ。 北野、今すぐできる限りでいいから未来の手当てをしてやってくれ。 未来、もし痛みが酷いようなら病院へ行けよ。
明日は学校、無理しなくていいから」
「いや、学校には行くよ」
「だから、無理はすんなよ。 ・・・次、優」
「アザと擦り傷!」
「椎野」
「背中を思い切り殴られた、鉄パイプで。 つっても、俺が油断したからなんだけどな」
「笑っている場合かよ。 後で背中を見てやるから待っておけ。 明日体育があんなら、無理せずに休んでもいいからな。 次、夜月」
「アザかな。 素手で鉄パイプ受け止めたら、手がめっちゃ青くなった」
「おいおい、何をやってんだよ夜月。 手は湿布も貼れないから、どうしようもないぞ」
「大丈夫だよこんくらい」
「まぁ、無理はすんなよ。 次、悠斗」
「俺もアザくらいかな」
「ん、伊達・・・は、見たところ大丈夫そうだな。 痛いところはないか?」
「え」
突然話を振られ、伊達は一瞬言葉が詰まってしまった。
「・・・あぁ、俺は大丈夫」
「そっか。 ならよかった」
「ユイは?」
「俺は最初にやられた肩かな。 あとはアザだけだと思う」
夜月の質問に対し、結人はそう答えた。 それを聞いて、再び夜月は口を開く。
「んじゃ、後で悠斗に見てもらうように」
「ん、分かったよ。 悪い伊達、手当てが終わるまで待っていてくれ」
そう言って、大きな怪我を負った者たちはマットの敷いてある方へと集まっていった。 そこには救急箱でもあるのだろうか。
―――やっぱり、色折がここにいるみんなを率いている気がする。
―――何なんだ・・・ここにいる集団は。
―――本当に、ただの高校生なのか?
「伊達、平気?」
困惑している伊達を見て心配になったのか、近くにいた夜月が小さな声で話しかけてくれた。
「あぁ、まぁ・・・。 八代は、手大丈夫なのか?」
「大丈夫。 こんなのはよくあること」
「そのー・・・」
「大丈夫だって。 それに俺らは、別に悪いチームなんかじゃないから」
―――チーム?
今の状況に困惑している伊達の気持ちを察してくれたのか、彼は少し微笑みながらそう口にする。
少しの間夜月と話していると、いつの間にか手当てをしに行ったみんなは元の位置まで戻ってきていた。 そして結人は、再びソファーの上に座る。
「アザはどうだった?」
夜月が結人にそう尋ねた。
「思っていた以上に真っ青だったわ。 まだ痛むけど、そのうち治るから大丈夫だろ。 ・・・それじゃあ早速、本題へ入ろうか」
結人は――――先刻までみんなのことを心配していた表情とは全く違う、覚悟を決めたような顔をしてそう口にした。
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