58 / 366
執事コンテストと亀裂。
執事コンテストと亀裂⑯
しおりを挟む木曜日 沙楽学園1年5組
「昨日、柚乃とはどうだった?」
結人は今、自分のクラスで夜月と一緒に話をしている。 昨日から夜月は柚乃の彼氏役となり、ストーカーの正体は一体誰なのかを探ろうとしてくれていた。
「んー、いや、特には」
「・・・そっか」
―――特に変わりがないなら、よかった。
だが、いつそのストーカーが動き出すのか分からない。 油断していると、きっとやられる。 彼には難しい役をやらせてしまって申し訳ないと、結人は改めて思った。
「あ、そういやさ。 何か昨日、喧嘩している集団に遭遇したわ」
「喧嘩?」
「そうそう。 まぁ、ただの不良たちのくだらない喧嘩だったしさ。 ユイからの命令もないし柚乃さんも隣にいたから、スルーしたけど」
この時の結人は、その喧嘩に対して特に深くは考えなかった。
だがこの時、その喧嘩の本当の意味にいち早く気付いていたら、この先あんな酷い目に遭わなくても済んだというのに――――
「・・・色折」
「?」
誰だろう。 今の声は夜月のものではない。 結人の名を呼んだ声は、あまり聞き慣れない声だった。
そんなことを思いながら声のする方へ顔を向けると、そこに立っていたのは―――――
―――・・・伊達?
―――どうして・・・伊達が、ここに?
―――つかお前・・・何だよ、その顔。
「何?」
伊達の異様な姿に戸惑いつつも、平静を装いながら用件を尋ねた。
「・・・藍梨、知らない?」
―――藍梨?
そう言われ、隣の席へ視線を移す。 だが、彼女の姿はない。
―――今日はまだ、学校に来ていないのかな。
「悪い、今日はまだ見ていないわ」
「そっか。 ありがとな」
礼を言うと、その後は特に話すことなく伊達は教室から出ていった。 そして彼の背中を見ながら、夜月は静かに口を開く。
「・・・アイツ、何であんなに傷だらけ?」
それは――――結人も思った。 昨日まで、あんなに怪我を負っていなかったのに。 そんな中、結人は一つの考えが頭の中を過る。
―――まさか、伊達が喧嘩を・・・?
突然隣からの視線が気になりふと夜月の方へ目をやると、彼は目を細くしながら結人のことをじっと見ていた。
「え・・・。 何?」
「もしかして、ユイがやったんじゃねぇだろうな」
「は!? んなわけねぇじゃん!」
「ははッ、だよな」
「・・・」
―――何だよ、夜月。
―――俺をからかったのか。
―――でも伊達は、喧嘩をするような奴には見えないし・・・。
そんなことを考えていると、真宮が結人たちのもとへやって来た。
「おう、真宮。 何か話すの久しぶりだな。 どうした?」
久々に話す真宮に向かって、無理に笑顔を作りながら言葉を発する。 そして彼は、申し訳なさそうな表情をしながら返事をした。
「うん、ちょっとな。 えっと・・・夜月」
「・・・あぁ、いいよ。 それじゃ、また来るわ」
夜月は空気を読んで、真宮が口にする前に自ら教室から出ていった。 そんな夜月に感謝しつつ、再び用件を切り出す。
「何だよ、真宮」
「あぁ、うん。 そのー・・・。 最近、藍梨さんとはどう?」
「・・・別に。 何も変わんねぇよ」
そう言いながら、彼から視線をそらした。
真宮は心配して自分に声をかけてくれたというのに、自分は彼の期待には応えることができず、気まずくなって思わず目をそらしてしまった。
こんな自分が――――嫌になる。
「じゃあさ。 俺に何か、できることはないか?」
「・・・できること?」
「少しでも、ユイの力になりたいんだ」
真剣な表情をしたまま、真宮はそう言葉を放つ。
―――真宮に、できること・・・。
それは――――
「みんなのことを、真宮に任せたい」
“みんな”というのは、もちろん結黄賊のことだ。 彼には当然“みんな”というワードの意味は伝わっているだろう。
「俺と夜月は、これから忙しくなりそうでさ。 だから、他のみんなが事件を起こさないように見ていてほしい」
「・・・」
そう言うが、彼は何も返事をしてこない。
「駄目、か・・・?」
小さな声でそう尋ねた瞬間、真宮は突然笑顔になった。
「もちろんするよ! それが、ユイの支えになるのなら」
―――・・・そんなに喜んでもらえると、俺も嬉しいな。
「もちろん支えになるよ。 真宮、ありがとな」
この後も二人で話をしていると、自分の隣に誰かが来るのを感じた。
「結人」
「・・・藍梨」
結人の名を小さな声で呼んだのは藍梨であり――――彼女の顔へ視線を移すと、目は赤くなっていて少し腫れていた。
―――昨日・・・たくさん泣いたりしたのかな。
「どうした?」
「その・・・」
藍梨は何か言うのを躊躇っている様子。 そんな彼女の背中を押そうと、結人が口を開こうとした瞬間――――先に真宮が、口を開いた。
「いいよ、行ってこいよ」
どうやら真宮は、結人と藍梨を二人きりにしてくれるみたいだ。 だけど――――今の彼女の表情を見る限り、いい話ではないのだろう。 きっと真宮も、そう思っている。
結人はそんな彼に礼を言い、藍梨と一緒に教室を出た。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
婚約者に親しい幼なじみがいるので、私は身を引かせてもらいます
Hibah
恋愛
クレアは同級生のオーウェンと家の都合で婚約した。オーウェンには幼なじみのイブリンがいて、学園ではいつも一緒にいる。イブリンがクレアに言う「わたしとオーウェンはラブラブなの。クレアのこと恨んでる。謝るくらいなら婚約を破棄してよ」クレアは二人のために身を引こうとするが……?
婚約者に心変わりされた私は、悪女が巣食う学園から姿を消す事にします──。
Nao*
恋愛
ある役目を終え、学園に戻ったシルビア。
すると友人から、自分が居ない間に婚約者のライオスが別の女に心変わりしたと教えられる。
その相手は元平民のナナリーで、可愛く可憐な彼女はライオスだけでなく友人の婚約者や他の男達をも虜にして居るらしい。
事情を知ったシルビアはライオスに会いに行くが、やがて婚約破棄を言い渡される。
しかしその後、ナナリーのある驚きの行動を目にして──?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました
新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる