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御子柴からユイへの想い。
御子柴からユイへの想い⑧
しおりを挟む放課後 1年5組
今日は朝に起きた机のいじめ以来、特に何も起こらず放課後を迎えた。 これから結人は藍梨と一緒に帰ることになっている。 帰りのホームルームを終えた今、真宮が結人のもとへやってきた。
「ユイー。 今日は藍梨さんと一緒に帰るんだろ?」
「あぁ、悪いな」
「いいって。 じゃあ、ユイのことは俺からみんなに言っておくから。 じゃあな」
そう言って彼は、手を振りながら教室を出て行く。 そんな真宮に、結人も手を振り返した。
隣を見ると藍梨は帰りの準備ができたようだが、このまま教室を出ると結黄賊の仲間に遭遇してしまうかもしれないと思い、ここは話を振って時間を稼ごうとする。
「なぁ、藍梨の好きなことって何?」
結人は今日、藍梨の色々なことを知った。 彼女の好きなこと、好きな物、好きな食べ物、好きな色、好きなスポーツ。 藍梨と一緒に話しているこの時間が、結人にとってはとても幸せな時間だった。
昨日からあまり元気がなく人に向かって作り笑いをすることしかできなかったのだが、今は自然と笑顔になれている。
藍梨といる時間は本当にあっという間で、いつの間にか一時間が経過していた。 まだ結人たちは帰宅しておらず、二人で教室に残っている状態。
時計を見て『そろそろ帰ろうか』と言おうとした瞬間、藍梨が突然声を張り上げた。
「あっ! 本を返していなかった!」
「本? 図書室の?」
「うん! 結人、すぐに返してくるからここで待ってて!」
そう言うと、結人の返事も聞かずに走って教室を出ていってしまう。 それを止めるようなことはせず、結人はただ目だけで彼女を追った。
―――すぐっつっても・・・流石に、時間はかかるよな。
結人たちのクラスから図書室までは校舎内で一番距離が遠く、一分程で戻ってこれるわけがない。 だから多少時間はかかると思い、ふらりと教室を出た。 そして誰もいない長い廊下を見て、ふと思う。
―――・・・1組でも、見に行ってみるか。
特に意味はないのだが、一人1組へ向かって歩き出した。 生徒は誰もおらず静かな廊下のため、自分の歩く足音だけがこの場に大きく響き渡る。
が――――4組、3組を通り過ぎるにつれ、かすかに人の声が結人の耳に届いてきた。
―――・・・あれ?
―――まだ誰かいんのか?
2組の方から声が聞こえ“こんな時間に誰かが残っているなんて珍しいな”と思いつつも、さり気なく2組の教室の前を通り過ぎようとした――――その瞬間。
「あ、ユイ!」
突然自分の名を呼ぶ声に、咄嗟にその方へ視線を移す。
「・・・あぁ、お前らか。 まだ残っていたんだな。 みんなとは一緒に帰らなかったのか?」
2組に二人しかいない優とコウに向かって、彼らに近付きそう尋ねた。 その問いに対し優が、苦笑を浮かべながらこう言葉を返していく。
「真宮から『今日ユイは藍梨さんと一緒に帰る』って聞いたから、別に俺たちも公園に行かなくていいかなーと思って。 それに、少し学校に残りたかったし」
そう言う優に続き、彼と対面した形で座っているコウも口を開いた。
「ユイはどうしてここにいんだよ。 藍梨さんは?」
「藍梨は今、図書室へ行ったよ。 待っている間暇だから、1組を見に行こうと思ってさ。 お前らも行くか?」
二人はその言葉に黙って頷き、3人で隣のクラスへ向かうことにした。
1組の教室を覗くと、当然誰もいない。 何も音が聞こえないからか、今は不気味な程に静かである。
御子紫の席は特に変化がなく、安心しながら教室の中へ入ると――――ふと、一つの席に目に留まった。 日向の席だ。 どうして彼の席が、目に付いたのかというと――――
「うわッ、何これ!」
結人が先に異様さに気付くと、優も日向の机の有様を見て声を上げる。
彼の机の中には――――中から溢れる程の紙屑が、たくさん詰め込まれていたのだ。
「・・・ユイの言った通り、誰かが日向を標的にしようとしてんのかな」
日向の席に近付きながら静かに口を開いたコウに対し、優は再び声を荒げる。
「えっと、じゃあ・・・片付けよう! 俺、ゴミ箱持ってくる!」
教室にはゴミ箱がなく、各教室前の廊下にしか設置されていなかった。 優が戻ってくると、結人たちは3人で協力し机の中を片付ける。 そこでふと、机上に視線を移した。
ほとんどの生徒の机の上には何も物が置かれていないのにもかかわらず、彼の机の上には教科書や本がやたらに置いてあったからだ。
つまりこれはわざわざ教科書を取り出し、それを隠さずこの場に残してから犯行をしたということは、きっとそれは日向をいじめている奴らの小さな親切なのだろう。
「ねぇ、ユイ」
作業をしていると、突然優が声をかけてきた。
「さっきコウと一緒に話していたんだけどさ。 日向のこと、俺たち尾行した方がいい?」
「尾行?」
「うん。 尾行っていうか・・・うん。 もし今後、日向に直接手を出してくる奴が現れたら大変でしょ?」
「・・・」
正直そこまではしなくてもいいと思ったが、確かに彼の言う通り今後何かあった時のためには、尾行してくれていた方がいいのかなとも考えた。
だからどちらにせよ、尾行していた方が安全なのは確かだろう。 そう思い、結人はその意見に乗ることにする。
「任せてもいいか?」
そう言うと二人は力強く頷いていくれ、日向の尾行は早速明日から始めることになった。
数分後片付けが終わり、教科書を中へ戻そうといくつかの冊子を手に取る。 するとその中に小さな本が埋まっていることに気付き、何気なく取り出してみた。
だがこれはカバーがかかっているため、外さないとタイトルまでは分からない。
「それ、何の本?」
「んー、何だろうな。 俺、今日これを持って帰って家で読もうかな」
そう言って本を高々と持ち上げ、目を細めてカバーを眺める。 特に理由もなく、ただの興味本位でそう言っただけだった。
「借りるのか?」
「まぁ、今の状況じゃ“盗む”っていう言葉の方が正しいけど。 ちゃんと返すよ。 それに、これを読んだらアイツの思考とかも分かるかもしれないし」
心配そうに尋ねてくるコウに、結人は苦笑しながら言葉を返していく。 最終的にはその本を持ち、片付けを終えたコウたちと別れ自分の教室へと戻った。
するといつの間にか図書室から戻ってきていた藍梨は、結人の姿を見るなり驚いた表情を見せる。
「結人! どこへ行っていたの?」
「悪い悪い。 まぁ、帰ろうぜ?」
軽く謝りながら教室を出るも、藍梨はまだ結人に対して怒っていた。 だけどそんな彼女でも、結人は心の底から愛おしいと思っている。
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