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御子柴からユイへの想い。
御子柴からユイへの想い②
しおりを挟む昼休み 1年1組
午前中の授業が全て終わった今、御子柴は昼食もとらず日向のもとへと駆け寄っていた。
「ちょっと来いよ」
友達と一緒にいるところを誘い出し、彼を連れて屋上へ向かう。 日向は何も言わず、ただ御子紫の後を素直に付いてきてくれた。
そして屋上へ着くと早々に御子紫は振り返り、朝からずっと思っていたことを冷たい口調で淡々と言い放つ。
「朝ユイに対して言った言葉、全て撤回しろ」
「嫌だと言ったら?」
その発言に躊躇いもなく、ニヤリと笑って即答する日向。 そんな彼を睨み付け、更に言葉を続けていった。
「そしたら、お前を殴る」
そのような行為は――――当然、許されるはずもないのに。
「やれるもんならやってみろ」
余裕な態度を見せながらそう口にする日向に、御子紫は高ぶる感情をどうにかして静めようと一度深呼吸をする。 そこで彼に、ふと今思ったことをさり気なく尋ねかけた。
「お前は、ユイのどこが嫌いなんだよ?」
「全部」
その質問に対しても躊躇うことなく、無表情のまま冷たく言い放った目の前の少年。 そのような姿に腹が立ち、無意識で拳を握り締める。
「ッ、お前にユイの何が分かるって言うんだ!」
「逆にどうしてお前はそんなに色折の味方をする? ・・・あ、もしかしてホモか?」
呆れ口調で聞き返した後、日向は御子紫を馬鹿にするよう小さく笑ってみせた。
一方それを聞いて思わず俯いてしまった御子紫は、音にもならないくらいに掠れた小さな声で、精一杯に反論していく。
「・・・好きで、悪いかよ」
「あ?」
小声で、かつ聞き取れない程の喋り方だったため、顔をしかめながら素直に聞き返してくる日向。 御子柴はそんな彼に向かって一気に顔を上げると、必死に自分の思いを訴えた。
「ダチのことを第一に考えてくれていつも俺らの味方をしてくれるユイを、好きになって悪いかよ!」
その答えを聞いた日向は呆気にとられ、一瞬で冷めた顔を浮かべた。 そしてその表情を変えぬまま、御子紫を同情するような目で見つめ静かに言葉を紡いでいく。
「・・・え、マジで言ってんの? あんな偽善行為に騙されるなんて、御子紫は可哀想だな」
「・・・ッ!」
大切な仲間のことを侮辱され、ついに我慢の限界がきた御子紫は彼の顔面に向かって思い切り殴りかかった。
が――――惜しくもその拳は、日向の顔の目の前で止まることになる。
そのような行為を目の当たりにする彼だが、驚く表情なんて一切見せず、代わりにこちらを睨んできた。
「・・・殴れないくせに」
「ッ・・・」
その言葉を残酷な程に冷たく吐き捨てると、日向は御子柴を置いてこの場から立ち去ってしまう。 そんな彼を止めることもできなかった御子柴は、一人静かにその場に立ち尽くし、一歩も動けずにいた。
同時刻 空き教室
昼食は、1年の廊下にある空き教室で結黄賊のメンバーみんなと食べることになっていた。 だから午前中の授業が全て終わった後、みんなは自然と同じ場所に集まる。
「腹減ったー」
真宮はそう言いながら、弁当を持って適当に席に座った。
「俺も腹減ったー! お腹と背中がくっつくわー」
椎野と北野も、授業が終わり二人同時に空き教室へ入ってくる。 相変わらずな仲間を見ながら結人も一緒に昼食をとろうとした時、タイミングよく未来と悠斗もやって来た。
そんな未来が教室へ入るなり、結人に向かって純粋な質問を口にしていく。
「ユイー。 さっき御子紫が誰かを連れてどこかへ行ったんだけど、アイツ今日は来ねぇの?」
―――え、御子紫?
―――誰かって・・・。
―――・・・ッ!
その問いを聞くと、自然と結人の頭の中は整理されていった。 今朝起きた出来事が、再び脳裏に映し出される。
御子柴と言えば日向と言い争っていたということを思い出し、彼が連れていったのは日向だという予測がすぐにできた。
「ッ、未来! 御子紫はどこへ行った?」
未来の発言を聞いて数秒後、結人は咄嗟に立ち上がり今度はこちらから質問をする。 すると彼は首を傾げながら、曖昧な言葉を並べていった。
「さぁ、どこだろう・・・? そこまでは見ていないよ。 あぁ、上には上がっていったかな」
その返事を聞いた瞬間、彼に礼の言葉も何も言わず勢いよく教室を飛び出した。 “御子柴が向かったのは屋上だ”と推測した結人は、急いでその場所へと向かう。
「おい、ユイー?」
突然な行動に未来は驚き、走っていく結人の後ろ姿を見て叫びかけるが、結人は構わず屋上へ向かって駆け出していた。
そして――――階段をほとんど上り終え、屋上のドアが見えるところまで辿り着いた結人は、一度足を止め呼吸を整える。
この奥には御子柴がいて、これからは大変なことに巻き込まれるだろうと思いながらも、彼を助けるために気持ちを引き締め、残りの階段に足を踏み入れた。
その瞬間――――勢いよく開いた、屋上のドア。 そこから、現れたのは――――
―――あ・・・コイツ!
突然目に映った一人の少年を見て、思わず息を呑み睨んでしまった。 結人が今、目にしている者は――――先刻御子紫と言い合っていた、御子柴と同じクラスの男子。
この少年が、御子柴から聞いた“日向(ヒュウガ)”なのだろう。 一体彼らはここで、何を話していたのだろうか。 身なりがちゃんと整っているため、喧嘩はしていなさそうだ。
「・・・何見てんだよ」
日向のことをじっと見据えていると、彼は不機嫌そうな顔をしてボソリとそう呟き、結人の横を通り過ぎようとした。
そんな日向を引き止めるよう、丁度すれ違ったところでさり気なく尋ねかけた。
「御子紫に、何を言われた?」
そう問われた日向はその場に立ち止まり、結人と対面するような形になって、そっと口を開く。
「・・・お前さ」
「・・・」
一度そこで区切った日向は気まずそうに視線をそらすも、口では容赦ない言葉を吐き出した。
「いい加減、そういうの止めろよ。 ・・・そうやって、偽善ぶるのをさ」
「・・・」
―――俺が、偽善者?
その発言だけでも分かる。 日向が、自分を嫌っているということを。 そして更に言えば、今結人は日向に喧嘩を売られているということを。
だがこの時の結人は日向に反抗するということをすっかり忘れていて、違うことに意識を向けていた。
―――・・・まさ、か・・・。
―――コイツが俺の悪口を言っていたから、御子紫はあんな・・・!
一方何も反論してこない結人を見て日向は何も言うことがなくなったのか、先程の一言を言い残したまま静かにこの場を離れていった。
“偽善者”
この単語が、結人の心に重くのしかかる。 同時に苦しい過去が蘇り、結人を更に苦しめた。
―――偽善者・・・昔も、そう言われていたっけ。
「・・・ユイ?」
突然背後から自分の名を呼ぶ声が聞こえると、それに引かれるように振り返る。
「真宮・・・」
そこには、真宮が心配そうな面持ちでその場に立っていた。
「どうしたんだよ? ・・・御子紫は?」
「・・・屋上にいる」
その返事を聞いた真宮は、戸惑ったのか少しの間黙り込んだ。
きっと彼は“御子紫がいる場所は分かっているのに、どうしてそこへ行かないんだろう?”と、素直に疑問を抱いているのだろう。
だがそんな結人のことを見て察してくれたのか、彼は小さく微笑んでこう言ってくれた。
「いいよ、俺が行く。 御子紫のところ。 だからユイは、教室に戻っていて」
そう言って結人の肩に優しく手を置き、安心もさせてくれたのだ。 そして何も返事を聞かぬまま、真宮は屋上の扉を開けその奥へと進んでいった。
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