心の交差。

ゆーり。

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結人と夜月の過去。

結人と夜月の過去 ~小学校三年生②~

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お盆休み キャンプ当日 朝 理玖の家前


「結人! 本当に来てくれたんだ!」
大きなリュックを背負いながら、結人は集合場所である理玖の家へと向かった。 本当は真宮と会えるはずのこの数日が、今年は理玖たちと共に過ごすことになる。
今もなおも断ったことが気になり気が重くなっていたが、折角のキャンプだということでこのお盆を楽しもうと思っていた。
理玖たちと泊まることはこの日が初めてで緊張感のある面持ちのまま向かうが、相変わらずの笑顔で理玖が迎えてくれたことにより結人の表情も少し和らぐ。
「当然だよ」
そう返すと、こちらへやってくる大人の影。
「結人くん、おはよう」
声が聞こえ、その方へと身体を向けた。 そこに立っていたのは、優しい表情をした理玖の母。
「おはようございます。 キャンプの間は、よろしくお願いします」
挨拶をし丁寧に言葉を綴った後、深々と頭を下げる。 少しでも理玖の母と打ち解けたところで、みんなは彼女の車に乗り込みキャンプ場へと出発した。





キャンプ場


綺麗に広がる緑色の芝生。 その上には、全体に広々と青く染め上がっている清々しい空。 キャンプにとっては、とてもいい天気だった。
車からいち早く降りた理玖は、元気よく芝生の中へと走っていき溶け込んでいく。
「着いたぁー!」
両手を大きく広げながら駆けていく彼につられ、未来、悠斗、夜月も順に車から降り後を追いかけた。
―――わぁ・・・凄く広い。
キャンプ場に初めて来た結人は、目の前に広がる自然いっぱいでキラキラと輝かしい光景に釘づけとなる。
車を降りてから一歩も歩き出すことができない程、この光景に圧倒されていた。
―――都会に、こんな場所もあるんだなぁ・・・。
都会の素晴らしさに改めて感心していると、突然目の前に見慣れた少年が現れる。
「結人! 行こう!」
付いてこない結人を心配に思ったのか、理玖は手を引きみんなのいるところへと連れていってくれた。
そこには夜月たちが持っていた荷物が一ヵ所にまとめられており、その横にはテントを張る時に使うのだろうか様々な用具がいくつか並んでいる。
だが何をしたらいいのか分からずその場で一人戸惑っていると、ふっと背中が軽くなるのが感じられた。
「ここに荷物を置いて。 まずはテント張りだ!」
どうやらその感覚に陥ったのは理玖が結人のリュックを下ろしたからのようで、荷物を地面に置くなり再び腕を掴んで誘導してくる。
「理玖の両親は?」
“子供だけでこんなことをしてもいいのか”と危険を感じ尋ねるが、彼は無邪気な声で返してきた。
「今頃きっと受付だよ。 その間にテントを張って、ご褒美として明後日にある夏祭りのお小遣いを貰うんだ!」
あまりにも眩しい程の笑顔で言われ、結人も思わず優しい表情になる。
「それじゃあ結人、そっちを引っ張って!」
そうして二人は、夜月たちと交ざりテント張りを行った。 全てのテントまではいかなかったが、二つのテントは理玖の両親が来る頃には張り終えることができた。
「あら凄い、テントが完成しているじゃない! 張り方、よく憶えていたわね。 偉いわ」
母から褒められ、理玖たちは満足気な顔をする。 そして明後日の夏祭りでのご褒美も約束できたところで、理玖の両親は二人で散歩に出かけてしまった。
ここからは、子供である理玖たちの自由時間だ。
「何するー?」
全てのテントを張り終えすることがなくなると、未来が声を上げみんなに問う。 それに対し、理玖が元気よく返事をした。
「よし、今からみんなで川へ行こう!」





キャンプ場付近 川


その提案に即賛成したみんなは、理玖を先頭に川へと向かっていく。 しばらく歩いていると、人の声が聞こえてきた。 
どうやらここは人気の場所らしく、たくさんの子供が川の中へ入り楽しそうに遊んでいる。
「この川は浅くて流れも凄く遅いから、安心して遊べるんだ。 そうだ、川の中でフリスビーをしよう!」
結人に向かって説明をしてくれた理玖は突然の思い付きに、背負っているリュックから遊び道具を取り出した。
特にフリスビーをすることに関しては否定する者はいなく、彼の言う通りにみんなは川の中へと入っていく。 結人も彼らにつられ、靴を脱ぎ足を川の中へと入れてみた。
「冷たっ・・・」
暑い日差しの中、冷たい水の気持ちよさを感じながらみんなのいる方へと歩いていく。 深さは15センチ程で、遊ぶには丁度いい深さだった。
「夜月ー!」
最後に川の中へ入ったのは理玖で、彼は持ってきたリュックを置いてから川の中へと入り、夜月に向かってフリスビーを投げる。
みんなが綺麗な輪になったところで、投げ合いが始まった。
「悠斗悪い! 高過ぎた!」
「あっ、大丈夫!」
夜月が高く放ってしまったため身長の低い悠斗は取ることができず、彼は自分を追い抜いていったフリスビーを取りに行く。
「悠斗ー!」
遠くにいる友達に少しでも楽させるため、理玖は近付いてからパスを受け取ろうとした。
「いくよ!」
その合図と同時に悠斗は放つが――――そのフリスビーも悠斗と同様、頭上を越えるような弧を描いていく。
「おっと・・・!」
パスを受け取ろうと、理玖は真上に手を伸ばした。

―バシャン。

自分の真上に来たフリスビーをタイミングよく触れようとその場で軽くジャンプするが、着地に失敗し川の中でしりもちをつく。
「いってぇー・・・」
「ははッ! 濡れてやんのー」
「ごめん理玖! 大丈夫?」
痛がっている理玖に、理玖を指差し腹を抱えながら笑っている未来、理玖を心配している悠斗。 
それぞれ違う感情を抱いている彼らを見守っていると、理玖は苦笑いをしながらその場に立ち上がった。
「あぁ、平気平気」
それを見ていると未来は笑っている表情から急に難しそうな表情になり、一人呟く。
「そういや、今年も琉樹にぃは来ないんだな」
「「「・・・」」」
その言葉にこの場にいる理玖、夜月、悠斗は少しの間黙り込んだ。 だがその沈黙が続かないよう、理玖は慌てて口を開きこの場を和ませようとする。
「うん。 今年も、友達と遊びたいからって」
「・・・そっか」
「?」
未来は理玖の異変に気付いたのか、これ以上は何も言ってこない。 少しの間だが空気が重くなったことに、結人は違和感を覚えた。

―――琉樹さんが、どうしたんだろう・・・?

夜月は琉樹にいじめられていたということを知らない結人は、彼らがどうして暗い表情になっているのか全く見当がつかなかった。
「じゃあ僕転んで濡れちゃったから、そこらへんで乾かしながらみんなのことを見ているね」
「えー」
「結人、パス!」
キャッチしたが転んだ時に落としてしまったフリスビーを再び手に取り、近くにいる結人にパスを繋げる。 
未来は理玖が抜けることに不満があるようだが、彼は構わず川から上がりその場にそっと腰を下ろした。
そこで更に違和感を覚えた結人は、フリスビーを持ったままその少年のことを見つめ続ける。
「ユイー! パスー!」
「あっ」
未来の呼ぶ声によって我に返り、慌ててパスを回した。 そして無事にキャッチしたところまで見届けると、再び理玖の方へと視線を移す。
彼はその場で小さく体育座りをして、みんなのことを見渡しながらどこか寂しそうな顔をしていた。

―――理玖・・・?

心配になりしばらく見続けていると、偶然目が合ってしまう。
「ッ・・・」
「ユイいくよ!」
タイミングがいいのか悪いのか、理玖と目が合いどうしようかと戸惑っていると、悠斗から名を呼ばれすぐにそちらへと視線を戻す。
それからの時間は4人で、沖からくる視線に耐えながらもフリスビーの時間を楽しんだ。 

そして数分後、遊び飽きたのか彼らはフリスビーから違う遊びをしようと考える。
「夜月! 水切りやりてぇ!」
未来と悠斗が夜月へ向かって歩いていくのをよそに、結人は彼らとは正反対の方へと足を進めた。 向かう先は――――理玖のもと。
「理玖? どうしたの?」
「・・・」
「・・・理玖?」
「! え? あ、何が?」
彼はぼーっとしていたのか、結人の声が耳に届いていなかった様子。 名を呼び続けると、やっとこちらを向いてくれた。
「いや、何か寂しそうだったから・・・」
素直な気持ちを伝えると、理玖は笑顔になってその場に立ち上がる。
「そんなことないよ。 ズボンも乾いたし、そろそろ僕も交ざりに行こうかな。 行こう、結人!」
言うが早いか、結人よりも先に夜月たちのもとへと走っていった。 そんな小さな背中を悲しそうに見つめながら――――彼に聞こえぬよう、小さな声で一人呟く。

「理玖は・・・嘘が下手だよね」





夜 ご飯作り


その日の夜。 無事理玖の両親と合流できたみんなは、一緒に晩御飯作りをしていた。 メニューはカレーだ。 
みんなが楽しそうに調理している中、結人はふと一人になって寂しそうな目をしている理玖に気付く。 心配そうにじっと見つめていると、またもや目が合ってしまった。
「あ、一緒に作ろう! 結人は料理とかする?」
「・・・いや」
先程まで寂しそうな表情をしていたのに、彼は目が合うとすぐ笑顔になり声をかけてきた。 
無理しているのだと分かっていても、気を遣う暇もなく理玖によって話がどんどん進んでいく。 まるで“何も聞かないでほしい”と、言っているかのように。
「結人、これ切れる?」
近くにあった人参を手に取り、結人に手渡した。 それを受け取るなり、まな板の上に置いてある包丁をそっと握って感覚だけで切り始める。
料理をやったことのない結人には難しい課題だったが、何とか切り終えることができた。
「お、結人凄い! 本当に料理、やったことがないのか? センスあるなー」
「そうかな」
「そうだよ! ねね、切り方、僕にも教えて?」
「うん、いいよ」
結人は気付いていた。 

理玖は僕たちに、何かを隠している――――と。


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