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結人と夜月の過去。
結人と夜月の過去 ~小学校一年生⑬~
しおりを挟む数日後 昼休み 学校
給食を終え昼休みに入った瞬間、見失う前に理玖は結人の席へと駆け寄った。
「結人! 今日こそは、遊べるよね?」
最近あまり遊べていないせいか、必死になって尋ねてくる。 だが結人は、申し訳なさそうな表情をしながらすぐ返事をした。
「あぁ、ごめん。 今日も行くところが・・・」
「行くってどこへ?」
「・・・理玖には、関係ないよ」
「あ、結人!」
これ以上問われる前に、一人この場からそそくさと立ち去る。 琉樹と出会って以来、結人は毎回昼休みに琉樹と裏庭で会っていた。 会いたくなくても、会っていたのだ。
その理由は、当然――――結人でも、理解していた。
裏庭
「お前って素直だよなぁ」
「・・・」
結人は今、琉樹を目の前に抵抗することもなく、静かに立ちすくんでいる。
「学校のある昼休み、毎日ここへ来てくれる。 俺から殴られることを知っていてな」
「・・・」
「あれか、もしかしてお前はマゾか?」
「・・・」
「まぁいい。 じゃあ今日も、よろしくな?」
―ドゴッ。
―ボゴッ。
結人は琉樹に何と言われようが何をされようが、抵抗をせず全てを受け入れていた。 こうなってしまったのは、仕方がないと思っているからだ。
―――これは・・・使命なんだ。
―――理玖を酷い目に遭わせた・・・罰なんだ。
―――だから、僕が耐えないと・・・ッ!
苦しい状況に置かれている自分に何度も言い聞かせ、この場を必死にやり過ごしていた。
同時刻 教室
琉樹によって結人がいじめを受けている頃、理玖のいる教室ではいつものメンバーが集まっていた。
「よぉ、お二人さん! 今日もユイはいないのか?」
夜月の席にいる理玖のもとへ、未来と悠斗は元気な姿で登場する。 未来の問いに、理玖は心配そうな表情でゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「うん・・・。 結人、やっぱり最近様子がおかしい。 一体この昼休み、何をしているんだ」
少し投げやりになっている彼を見て、悠斗は二人の会話にさり気なく口を挟む。
「そんなにユイのことが心配なら、本人に何をやっているのか直接聞いてみたら?」
「直接聞いた。 ・・・だけど、答えてはくれなかった」
「・・・そっか」
答えた後、少しの沈黙が彼らの間に訪れた。 だがここで、未来が突然大きな声で友達に向かって言い放つ。
「分かった! 今からユイを探しに行くから、お前らはここで待っていろ」
「え?」
「無理に聞いた方が早く解決するんだろ? すれ違いになったら困るから、理玖と夜月はここで待っていて。 俺と悠斗が、ユイを探してくるから」
そう言って、未来と悠斗は教室を出て結人を探し始めようとした。 そんな彼らを、理玖は少し追いかけ廊下で呼び止める。
「二人共!」
「ん?」
足を止め、二人は同時に後ろへ目をやった。 そして理玖は未来と悠斗のことを信じ――――力強く、一言を彼らに向かって言い渡す。
「結人のこと、頼んだよ」
「・・・おう。 任せておけ」
何を言われるのかと思い不安を抱いていた未来だったが、そう言われると彼を安心させるように笑って言葉を返した。
数分後 裏庭
ここではなおも、いじめが続いている。 結人は足や腹などを殴られ蹴られながらも、何とか必死に堪えていた。
「お前って本当に素直で抵抗しねぇよなぁ。 まぁ“自分が悪かった”って、ちゃんと自覚しているんだもんな」
「うッ・・・」
攻撃を全て受けても、その場に倒れ込んだりはしない。
「君とだったら夜月たちと同じように、仲よくできたと思うんだけどなぁ」
「くッ・・・!」
それに結人は――――自分がどんなに苦しい状況にいようとも、涙を見せたことは一度もなかった。
「お前は夜月たちと何かが違う。 だから俺たちと一緒に遊んだら、きっと楽しかっただろうに。 ・・・残念だ」
「ッ・・・」
そう――――理玖と出会ってから何度苦しいことが訪れようとも、泣いたことが一度もなかったのだ。
「ッ、琉樹にぃ! 止めろ!」
―――・・・え?
殴られ続け意識が朦朧としている中、突然聞き慣れた声が二人の耳に届く。 琉樹はその方へ目をやるなり、小さく呟いた。
「・・・未来と悠斗か。 ちッ」
―バゴッ。
「ッ、ユイ!」
だが彼は未来たちが来ようとも、気にせずに結人を殴り続ける。 ひたすら、ひたすらひたすら――――
「おい、琉樹にぃ!」
二人が登場しても止まないいじめに、未来と悠斗は結人たちのもとまで駆け付け配置についた。 未来は琉樹の目の前へ。 悠斗は、今にも崩れてしまいそうな結人を支えに。
「琉樹にぃ、ユイに何をしているんだ!」
これ以上結人に手を出すことができないよう、未来は両手を広げ身体を張って、琉樹の前に立ちはだかる。
結人よりも、そして当然琉樹よりもはるかに身長が小さいせいで、この光景では未来がとてもちっぽけな人間に見えた。 だけど今いる者の中では、一番心が強いのは未来である。
「未来、そこをどけ。 危ないぞ」
必死な形相で睨み付けてくる弟の友達に、琉樹は鋭く見下ろしながら冷たい口調で答えた。 だが負けじと、未来も言い返す。
「どうしてユイにそんな酷いことをするんだ!」
「理玖に事故を遭わせたからに決まってんだろ。 いいから、そこをどけ」
「嫌だ!」
「ッ」
―ドシッ。
「うあぁッ」
一向に動こうとしないことに腹が立ったのか、琉樹はついに我慢の限界がきて少年を軽く蹴り横に突き飛ばしてしまった。
当然未来は避けることができなく、その小さい身体は簡単に吹き飛ばされてしまう。
「ほら、悠斗もそこをどけ」
目の前から一人いなくなると、琉樹は一歩前へ進んだ。
そして結人を支えているもう一人の弟の友達を見下ろしながら言い放つと、悠斗はその場から少し離れ、何も言わずに二人の間に立ちはだかる。
そう――――未来に代わり結人のことを、自分で守るかのように。
「何だよ。 悠斗も、未来みたいになりたいのか?」
「・・・」
溜め息交じりで琉樹は口にするが、悠斗は意地を張ってでもこの場から動こうとしない。
それを見て更にイラついたのか、大きな声で言葉を発しながら右手で拳を構えた。
「ちッ、そこをどけよ!」
「琉樹にぃ!」
―ドスッ。
琉樹が悠斗に向かって殴りかかろうとした、その瞬間――――先程まで近くで倒れ込んでいた未来が最後の力を振り絞って琉樹に突進し、彼の大きな身体を突き飛ばす。
「くはッ・・・!」
攻撃は弱かったためダメージはそれ程受けていないが、悠斗が殴られずに済んだことだけで満足だった。
そして突き飛ばされ倒れ込んでいる琉樹に向かって、今度は未来が彼を見下ろしながら力強く言葉を放つ。
「琉樹にぃ、ユイは理玖を病院送りになんかしていない!」
「・・・は?」
その言葉を聞くと、難しそうな表情を見せてきた。 そんな彼に向かって、続けて決定的な一言を放っていく。
「理玖は、本当に事故だったんだ」
「なッ・・・!」
「どうしてユイが悪者になったのかは知らないけど、理玖は本当に事故だ! ・・・これは、絶対だ」
「それは・・・本当か?」
複雑そうな表情をしながら尋ねてきた琉樹に、未来は小さく頷いた。
「あぁ。 信じられないなら、理玖に直接聞いてみろよ。 理玖なら琉樹にぃに対して、本当のことを言ってくれるはずだぜ」
こうして――――昼休みは終わった。 琉樹と別れた後、未来と悠斗が結人を連れて先生のところまで行き、琉樹にいじめられていたことを全て打ち明けた。
結人は『迷惑をかけたくないから言わなくていい』と言い張ったが、それでは未来たちが納得できないということで、ほぼ強制的に全て報告。
それを聞いた先生は当然驚き、すぐに琉樹の親へ連絡した。
そしてこの日の放課後、琉樹と彼の母は、結人の家まで足を運び謝ってきたのだ。
琉樹と結人の母が互いに何度も頭を下げ、琉樹本人も謝罪の言葉を述べている中、結人は怖くて一度も顔を上げられず、彼らと目を合わすことすらできなかった。
だけどこれを機に――――結人に対する琉樹からのいじめは、なくなった。
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