335 / 365
結人と夜月の過去。
結人と夜月の過去 ~小学校一年生⑪~
しおりを挟む冬休み後 朝
何事もなく年が明け、冬休みが終わった後の初めての学校。 冷たくキンキンとした空気が、小学生らの周りに鋭く纏わりつく。
だがそれに反するよう、みんなは登校しながら、元気よく走り回っていた。
「学校久々だなー!」
友達とはしゃぎながら楽しそうにしている彼らとは反対に、ある少年二人はゆっくりと歩きながら学校へ向かう。
久しぶりに背負ったランドセルを嬉しく思いながら、理玖は笑顔で言葉を発した。
「学校は別に好きじゃないけど、三ヶ月も空いたら流石に行きたくもなるよね」
そして夜月は、楽しそうに話す彼のことを隣で微笑んで見守っている。
「それにさぁ! 僕の冬休みの宿題がみんなと同じって、何かおかしくない!? 僕は学校へ行っていなくて、宿題を出されても何も分かんないのに!」
「まぁ、そうだな」
「んー、でも、夜月が教えてくれたからよかったよ。 一人だったらさっぱりだったし。 夜月がいてくれて、本当に助かったー!」
そんなことを話し、夜月も理玖と再び一緒に登校することができて嬉しく思う中、二人は学校へ着き自分の教室へと向かった。
理玖は久々の学校が嬉しく、そして理玖とまた生活を送れることを嬉しく思っている夜月は、互いに軽い足取りのまま進んでいく。
そして教室へ着き、足を一歩中へ踏み入れると――――理玖はある一人の少年をすぐさま発見し、一瞬にしてより笑顔になった。
「結人だ!」
「ッ・・・」
早々放たれた言葉に、夜月は険しい表情になる。 だがそれに気付いていない理玖は、笑顔で結人のもとへと駆け寄った。
「結人!」
「ッ、理玖・・・」
彼の声を久々に聞いた結人は、喜ぶことよりも一瞬顔を強張らせてしまう。 そんな二人をよそに、夜月は彼らのもとへは行かず自分の席へと着いた。
「結人久しぶり! 元気だった?」
笑顔で何事もなかったかのように言葉を発してくる理玖に戸惑いながらも、無理に笑顔を作りぎこちなく答えていく。
「あ・・・。 うん、元気だったよ」
「よかったぁ! しばらくの間ずっと会えなかったら、心配していたんだよ」
「ごめんね。 理玖も無事、退院できたみたいだね。 おめでとう。 理玖も元気そうでよかったよ」
「ありがとな。 でも本当に、今日からまた結人と一緒に過ごせるなんて嬉しい!」
そんな彼らのやりとりは、理玖のテンションのせいか大きめな声で繰り広げられていた。
そのため、教室の中で一番後ろの端にいる夜月の席でさえも、二人の会話が耳に届いてくる。
―――色折・・・その笑顔とその言葉は、全て本心からなのか?
そんな結人を横目で見ながら嫌な思いを抱いていると、背後から幼馴染二人がやって来た。
「夜月ー!」
夜月は未来の声に反応するが、後ろを振り向かずに何も言葉を返さない。 だが彼はそんなことには意に介さず、教室全体を見渡して大きな声を上げた。
「あれ、理玖もいる! そうか、理玖も今日から学校か!」
それに続けて、悠斗も微笑んで口にする。
「理玖、ユイに会えて凄く嬉しそうだね」
「だな。 理玖がいると、やっぱり雰囲気が違う。 クラスが一気に明るくなったような気がするな」
そんな未来の発言に、夜月はなおも振り向きもせず淡々とした口調で口を挟んだ。
「理玖がいるかどうかじゃなくて、理玖が入院してみんなは心配していたから、今元気に登校したのを見て安心しただけだろ」
「いやまぁ、そうかもだけどさ」
鋭い突っ込みに苦笑しながらもそう返し、夜月の腕を掴み続けて言葉を放つ。
「よし! 俺たちも理玖のところへ行こうぜ!」
「俺はいい」
「そうかぁ? でも俺たちは行っちゃうぞ?」
「勝手にしろ」
「じゃあ勝手にする。 理玖ー!」
そう言いながら未来は腕を放し、理玖と結人のもとへと駆け寄った。 そして彼の後ろを、悠斗は小走りで追いかけていく。
「あ、未来! 悠斗!」
理玖も二人に気付き、更に笑顔になった。
「このメンバーで会うの、久しぶりだね」
悠斗も彼らの輪に交ざり、優しく笑って口にする。 来てくれた彼らに向かって、理玖も笑顔で言葉を返した。
「だな。 二人も、入院中の見舞いや冬休みとかも来てくれてありがとな」
「いいって。 まぁ、夜月みたいに毎日は行けなかったけどな」
未来と悠斗も会話に交ざり、徐々に話が盛り上がっていく。 楽しそうに談笑している彼らを見て、聞いているのも嫌になり、夜月はついに席を立った。
苦い現実から逃げるよう、教室から出て廊下を歩く。
―――ったく、何なんだよ・・・!
何に対してイラついているのかも分からない夜月は、落ち着きを取り戻すために行く当てもなく校舎内を歩き回った。 だけど、そんな時――――
「あ、夜月!」
「ッ・・・。 琉樹、にぃ?」
突然名を呼ばれ、少し驚きながらも立ち止まって声の方へと視線を移す。 そこに立っていたのは、理玖の兄である琉樹だった。
夜月がその場に立ち止まったことを確認すると、二人の間を横切っている生徒たちを避け、彼はこちらへ駆け寄ってくる。
「夜月、ちょっと聞きたいことがあるんだ。 こっちへ来てくれるか?」
朝比奈琉樹(アサヒナルキ) 琉樹は理玖の実兄で、夜月たちより3つ上。 理玖は琉樹のことが大好きで、よく兄の自慢話を聞かされる。 それと同時に、琉樹も弟思い。
だから二人の関係は凄くいいものだった。 夜月、未来、悠斗も琉樹と知り合いで、とても仲がいい。 放課後や休日でみんな揃った時、遊び相手にもなってもらったりしていた。
そして5歳から行っている毎年恒例になりつつあるキャンプでも、当然琉樹はいて夜月たちと遊んでもらったりもしている。 そしてみんなは彼のことを“琉樹にぃ”と呼んでいた。
カッコ良くて強くて、とても頼りになるため――――みんなにとっても、琉樹は兄的存在である。
「琉樹にぃ。 話って?」
呼び出された夜月は、校舎を出て学校の裏庭へと来ていた。 ここは行き交う生徒はほとんどいなく、今はまさに二人きり状態。
そして琉樹は一度周囲を見渡し誰もいないことを確認すると、夜月のことを真剣な表情で見据えながらゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「あぁ。 理玖さ、秋頃に入院しただろ? そのことについて聞きたくて」
「・・・」
少し嫌な予感がしながらも、彼から出る次の言葉を待つ。 そして琉樹は――――躊躇いもなく、ある質問を直球で投げかけてきた。
「理玖は、本当に事故だったのか?」
「ッ・・・」
どうして夜月は、この時一瞬言葉に詰まってしまったのだろうか。
「えっと・・・。 どうして、それを俺に?」
「いや、夜月は理玖と一番仲がいいからさ。 だから、何か知らないかと思って」
どうして夜月は、この時最低なことを思い付いてしまったのだろうか。
「・・・」
「まぁ、事故なら仕方ないけどな。 ただ・・・意図的なものだったら、何か許せなくて」
どうして夜月は――――この時、あの少年の名を口にしてしまったのだろうか。
「それは・・・色折のせいだよ」
「シキオリ?」
琉樹が聞き返してくるその言葉に、夜月はゆっくりと頷く。
「色折結人。 色折は俺と理玖と今同じクラスの奴で、最近よく理玖と一緒にいるんだ」
「色折・・・」
そして覚悟を決め、次の一言を力強く放った。
「その色折っていう奴が・・・理玖を、病院送りにしたんだよ」
何てことを言ってしまったのだろう。 この時はまだ、夜月は結人の存在を認めてなんかいなかった。 結人の全てを、肯定できなかった。
だからそのようなことを、軽々と口にしてしまったのだ。
ここで彼の名を出さなければ――――夜月はこの先、苦しい思いをしなくても済んだというのに。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
この『異世界転移』は実行できません
霜條
ライト文芸
どこにでもいるサラリーマン、各務堂一司《かがみどうかずあき》。
仕事ばかりの日々から離れる瞬間だけは、元の自分を取り戻すようであった。
半年ぶりに会った友人と飲みに行くと、そいつは怪我をしていた。
話しを聞けば、最近流行りの『異世界転移』に興味があるらしい。
ニュースにもなっている行方不明事件の名だが、そんなことに興味を持つなんて――。
酔って言う話ならよかったのに、本気にしているから俺は友人を止めようとした。
それだけだったはずなんだ。
※転移しない人の話です。
※ファンタジー要素ほぼなし。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタの村に招かれて勇気をもらうお話
Akitoです。
ライト文芸
「どうすれば友達ができるでしょうか……?」
12月23日の放課後、日直として学級日誌を書いていた山梨あかりはサンタへの切なる願いを無意識に日誌へ書きとめてしまう。
直後、チャイムの音が鳴り、我に返ったあかりは急いで日誌を書き直し日直の役目を終える。
日誌を提出して自宅へと帰ったあかりは、ベッドの上にプレゼントの箱が置かれていることに気がついて……。
◇◇◇
友達のいない寂しい学生生活を送る女子高生の山梨あかりが、クリスマスの日にサンタクロースの村に招待され、勇気を受け取る物語です。
クリスマスの暇つぶしにでもどうぞ。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
神様のボートの上で
shiori
ライト文芸
”私の身体をあなたに託しました。あなたの思うように好きに生きてください”
(紹介文)
男子生徒から女生徒に入れ替わった男と、女生徒から猫に入れ替わった二人が中心に繰り広げるちょっと刺激的なサスペンス&ラブロマンス!
(あらすじ)
ごく平凡な男子学生である新島俊貴はとある昼休みに女子生徒とぶつかって身体が入れ替わってしまう
ぶつかった女子生徒、進藤ちづるに入れ替わってしまった新島俊貴は夢にまで見た女性の身体になり替わりつつも、次々と事件に巻き込まれていく
進藤ちづるの親友である”佐伯裕子”
クラス委員長の”山口未明”
クラスメイトであり新聞部に所属する”秋葉士郎”
自分の正体を隠しながら進藤ちづるに成り代わって彼らと慌ただしい日々を過ごしていく新島俊貴は本当の自分の机に進藤ちづるからと思われるメッセージを発見する。
そこには”私の身体をあなたに託しました。どうかあなたの思うように好きに生きてください”と書かれていた
”この入れ替わりは彼女が自発的に行ったこと?”
”だとすればその目的とは一体何なのか?”
多くの謎に頭を悩ませる新島俊貴の元に一匹の猫がやってくる、言葉をしゃべる摩訶不思議な猫、その正体はなんと自分と入れ替わったはずの進藤ちづるだった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる