心の交差。

ゆーり。

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結人の誕生日とクリアリーブル事件2。

結人の誕生日とクリアリーブル事件2㊸

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路上


ここでは、男女一組の影が夕日によって作られていた。 倉庫へと続く人気がない道路を、二人の影だけが動き進んでいく。
未来はこの気まずい空気を、持ち前の明るさで何とかしようとした。 
だがクリアリーブル事件はまだ終わっていなく不安が募るばかりのため、無理して明るく振る舞う気力すら今はない。 かつ、今隣にいるのは僅かに恋心を抱いている相手だ。
彼女の隣にはいつも結人がいるため、あまり二人きりになる機会はない。 だから今がたくさん話せるチャンスなのだが、未来の気持ちはあまり上がらなかった。

「怪我は・・・大丈夫か?」
頑張って選んで、頑張って発した最初の一言。 藍梨の顔を見ずに、小さく問いかけた。
「うん。 怪我はしていないし、大丈夫だよ」
それに対して丁寧に返してくれた彼女に、未来は言葉を続ける。
「清水って奴と、知り合いだったんだな」
「え?」
「ん?」
即座に聞き返され思わず彼女の方へ目をやり、互いに見つめ合ってから数秒後。
「あ・・・。 さっきの人?」
「・・・知らなかったのか?」
「うん、名前はね」
まさかの発言に、少し動揺を見せる。
「・・・悪い」
「大丈夫だよ。 あ、さっき貰った名刺、ちゃんと見ていなかった私が悪いね」
「・・・」
「前にあの人と出会ってから、気に入られちゃったみたいで。 今困っているんだ」
可愛らしい苦笑を見せる彼女に、瞬時に視線をそらした。
「そっか。 まぁ、アイツに連絡をする時は気を付けろよ」
「うん、大丈夫だよ」
「ユイを放っておいて、二人でどこかへ行くなよな」
「ありがとう」
未来の優しさに、藍梨は素直に頷き礼の言葉を述べる。 そんな彼女に、もう一度謝りの言葉を入れた。
「・・・歩くの、遅くて悪い」
「私は大丈夫だよ。 早くその怪我、治るといいね」
「あぁ、ありがとう」
歩くスピードが遅いという理由は怪我をしているためだと分かったのか、優しい表情で口にする。 そんな藍梨に微笑み返し、再び進む方向へ視線を戻す。

―――そういや・・・ユイは今日クリーブルに呼ばれた時、何を話していたんだろう。

突然そのようなことが頭を過り考えていると、いつの間にか倉庫に到着していた。 結人から預かった鍵を使い、扉を開ける。
「藍梨さんはソファーにでも座っていて」
「うん」
彼女がソファーへ足を進める中、未来はじっとしていることがもどかしく倉庫の中を歩き回っていた。 そんな時結黄賊の旗にふと目が留まり、しばらくそれを見据える。
何も思わず何も考えもえず、沈黙の中ずっと見続けていると――――突然、未来の携帯が鳴り響いた。 電話ではなくメールだ。 
相手は椎野からで『今倉庫の目の前にいる。 開けてくれ』という内容だった。 それを見るなり、結黄賊の旗に背を向け入口へ向かって歩き出す。 中から鍵を開け、扉を開いた。
「・・・早かったな」
「まぁ、空地へ行ったらクリーブルはもういなかったからな」
苦笑しながら椎野が返すと、空地から来た仲間たちは次々と倉庫の中へ入っていく。 だがここで、彼らに違和感を感じた。 
みんなからは活気が感じられなく、どこか重たい空気を醸し出している。 その変化に気付いた未来は、今丁度倉庫の中へ足を踏み入れたコウを呼び止めた。
「コウ! 何かあったのか?」
「え、っと・・・」
珍しくまごついている彼に、更に問いかける。
「教えてくれ」

「・・・夜月が、クリーブルに入ったんだ」

「は!? どうして!」
思いもよらなかった発言に、驚きを隠しきれず思わず大きな声を張り上げた。
「俺はその場にいなかったから、どうして夜月が入ったのかまでは分からない。 ・・・ごめんな」
申し訳なさそうな表情をして口にした後、未来を置いて倉庫の奥へと入っていく。 

突然放たれた言葉にしばらく考え込んでいると、次にクリアリーブル集会へ向かった結人たちが倉庫へと到着した。 
扉は椎野たちが来てから開いたままだったため、彼らは何も言わずに足を中へ踏み入れていく。 
扉の前でなおも立ち尽くしている未来は、彼らのことを迎え入れつつ仲間の様子を一人ずつ見ていった。 最初に入ってきた結人は当然暗く、ずっと俯いたまま。
顔を下げているため、どんなに距離が近くても表情までは窺えなかった。 そして彼らにも違和感を感じた未来は、またもや北野を呼び止める。 
一番事情を知っていそうな結人を呼び止めても、きっと何も答えてはくれないと思ったからだ。
「北野、何があった?」
「・・・」
彼は何も答えたくないのか、未来のことを一瞬見てすぐに目をそらし口を噤む。
「どうして夜月がクリーブルに入ったんだ?」
今は結人がいるため大きな声では言えず、小さな声でできる限り感情の込め言葉を放った。 その様子を見て心が動いたのか、北野はその答えを無理に絞り出す。

「夜月の中で・・・何があったのかは、分からないけど・・・。 ・・・ユイが、偽善者だからって」

「は・・・ッ! 偽善者・・・?」

ここでもまた、未来も過去の記憶が脳内に映し出された。 夜月、結人、未来、悠斗。 そして、もう一人の少年との思い出が――――脳裏に、蘇ってきた。
―――どうして・・・。
―――何なんだよ夜月、どうして今更そんなことを思うんだよ・・・ッ!
―――夜月は今、何を考えているんだ!
何も言えなくなっている未来を横目に、北野は無言で倉庫の中へと足を進めていく。 そして誰も入って来なくなったことを確認すると、静かに扉を閉めた。
だがここで、あることに気付く。

―――そういや・・・伊達たちは帰ったのか?
―――きっと伊達も、夜月がクリーブルに入ったっていうこと、知ってんだよな・・・。
―――だったら倉庫へ来る時『俺も話し合いに参加する』とか言って、付いてきそうだけど。
―――・・・説得でもしたのかな。

ふとそのようなことを思いつつも、未来も仲間たちの方へ足を進めた。


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