心の交差。

ゆーり。

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結人の誕生日とクリアリーブル事件2。

結人の誕生日とクリアリーブル事件2⑫

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土曜日 クリアリーブル集会当日 正午 路上


「結人、本当に一人で大丈夫?」
結黄賊は一度、最終確認をするために正彩公園へ集合することになっていた。 藍梨を家に一人で置いていくわけにはいかなく、彼女も連れて公園へと向かっている最中だ。
これから結人はメモに書かれた場所へ一人で行くことになるのだが、そのことで心配になった藍梨はそう尋ねてきた。
問いに対し、家から持ってきた救急セットを腰に巻きながら淡々とした口調で答えていく。
「大丈夫。 藍梨は心配せずに、みんなと待っているといい。 ちゃんと、俺は生きて帰ってくるからさ」

そして――――結人たちが公園へ着く頃には、入院している悠斗と用事があって来られない未来以外の仲間は、既に集まっていた。 
それはもちろんリーダーよりも先に集合するのは当たり前のことなので、そのことに関しては何も疑問は抱かない。 だが結人は、彼らの様子が何かおかしいことに気付く。
何故ならば皆異様な程に密集しており、一つのベンチを囲っていたからだ。 
何かを話し合っているのか、結人たちが到着したことには誰一人気付かないため――――仕方なく、彼らに向かって自ら声をかける。
「お前ら、何をしているんだ?」
「ッ、ユイ!」
その声に反応した結黄賊らは、一斉に結人の方へ振り向き――――夜月が、そっと一枚の紙を手渡してきた。 
あまりにもさり気ない行為に戸惑いながらも、そのメモに視線を移すと――――刹那、再び結人は恐怖に包まれその場に固まる。
「これ・・・俺たちも、行った方がいいのかな?」
北野が心配そうな面持ちで尋ねてくる。 

今見たメモに書かれていたのは――――『残りの結黄賊らは、今日土曜日14時にここへ来い』という内容だった。 

もちろん下には簡単な地図も描いてある。 その紙を見てから結人は何も言葉を発せられずにいると、北野の問いに対し御子紫がそっと口を開き結人の代弁をした。
「俺たちは行かなくてユイだけ指示に従うのは、流石におかしいだろ・・・。 きっと、これを書いた奴は同じ人物だし」
「・・・」
結人と同様、この場にいるみんなは静かに黙り込む中――――夜月が、突然話を切り出す。
「やっぱりこれ、おかしいだろ。 ユイへの指示とクリーブル集会、そして俺たちを呼び出したのも今日だ。 それに時間も近い。 これは何か、裏があるぞ」
その言葉にここにいる彼らは皆一様に考え出し、突然何かを閃いたかのように椎野が慌てて口を開いた。
「あ・・・。 も、もしかして・・・クリーブルは、俺たちをハメようとしているんじゃ・・・」
この紙の差出人は誰か分からないが、高確率でクリアリーブルからだろう。 
結黄賊のことはそんなに知られていないし、わざわざ呼び出すということは結人たちと関わりのある人物だと予想できた。
「つーことは・・・クリーブル集会を利用して、俺たちに襲いかかってくる気なのか・・・?」
真宮たちのその言葉を聞き、必死に頭を働かせる。

―――クリーブル集会を利用して・・・俺たちをハメる・・・。
―――もし本当に、俺たちをハメることが目的なら・・・これから、クリーブルの連中は・・・ッ!

流石人の心を読み取ることができる椎野と真宮といったところか、彼らの発言を整理していくうちに結人は突如とてつもない懸念を抱き始めた。
「このままだと・・・伊達が・・・」
「え?」
結人が独り言のように震えた声で小さく呟くと、ポケットから携帯を取り出し時刻を確認する。
―――12時30分・・・。
―――時間はまだ、少しある。
そして今の状況を全て把握し、仲間に向かってそれぞれに命令を下し始めた。
「お前らの言っていることが正しければ、クリーブル集会が危ない。 そこには今日、伊達が行くと言っていた。 その他、伊達以外にも一般の人がたくさん集まるだろう」
「だから・・・どうするんだよ?」
「御子紫、今すぐ後輩に連絡をしてこっちへ来させろ。 人数が足りねぇ、今来ることができる奴らだけでいいから呼べ! 今すぐにだ!」
「分かった」
夜月の発言をよそに、結人は御子紫に向かってそう言い放つ。 そして続けて、彼らに向かって言葉を発した。
「これらの指示を全てすっぽかして大事になるより、全て行動に移した方がきっとマシだ。 一度しか言わねぇ、お前らちゃんと聞いておけよ」
「「「おう」」」
彼らの意識がリーダーに向いたことを確認すると、結人は一人一人に命令を下していく。

「まずは夜月と北野。 お前ら二人はこの後、すぐにクリーブル集会の方へ向かってくれ。 場所は伊達から聞いていたから分かるよな。 
 クリーブル集会ではこれから何が起ころうとしているのか、全く分かんねぇ。 だから、お前ら二人の冷静な判断が重要となる。 特に夜月、頼んだぞ」

「分かった」
「北野。 お前はクリーブル集会でもし怪我人が出たら、その人たちの手当てを優先してくれ」
「了解」
「でも、俺たち二人だけでいいのか?」
少ない人数で心配なのか、そう尋ねてくる夜月に対し結人は力強く答えを返す。
「あぁ。 クリーブル集会はまだ悪いことが起きると決まったわけじゃねぇ。 だから強い奴をそっちへ寄越しても無駄だ。 
 一応後輩が来たら、何人かそっちへ行かせる」
「・・・分かった」
リーダーの命令だからなのか、複雑そうな面持ちのまま『了解』を口にする夜月。 そして結人は、続けて仲間に向かって命令を言い放つ。

「次は椎野、コウ、御子紫。 お前ら3人はこのメモに書かれている、指定された場所へ行け」

「鉄パイプは持っていってもいいか?」
「別にいいけど、隠しておけよ。 背中でもいいし近くにでもいいから、相手からは鉄パイプが見えないように。 
 相手は喧嘩目的じゃないかもだし、自ら喧嘩を売ったら終わりだ。 ただでさえ人数が少ないんだから。 できるだけ、喧嘩はしないように促すんだぞ」
椎野の問いにすぐさま返事をし、彼らに忠告をする。
「後輩も、お前らの方へ寄越すから。 相手は何人来て何を言われるのかも分かんねぇ。 だから3人でちゃんと話し合って、正しい行動を起こすように」
「「「了解」」」
そして結人は、一人の少年へ視線を移し言葉を紡ぐ。

「優。 お前はこの後、悠斗の見舞いへ行ってきてくれ。 今日は俺たち悠斗の見舞いには行けないかもだから、俺たちの分まで頼んだぞ」

「うん、了解! 頑張って悠斗を見舞ってくる!」
優は松葉杖使用のため当然喧嘩はできなく、そんな彼に気を遣い命令を下した。 そして結人は、残りの二人の方へ視線を移動させ言葉を放つ。

「真宮。 一応これは、結黄賊として行動を起こそうと思っている。 だから、真宮には・・・みんながそれぞれの場所へ行っている間、藍梨のことを守っていてほしい。 
 これは俺からの命令だ。 指定された場所に近付かなければ、どこへでも行っていいから。 藍梨を、頼んだぞ」

「・・・分かった」
「藍梨も、真宮の言うことをちゃんと聞くんだ。 分かったな?」
「うん」
結黄賊としての活動ができない今、真宮には彼らとは違う命令を下す。 そして藍梨からの了解も得たところで、再び時刻を確認した。 
時刻は12時40分になろうとしている。 時間を把握した結人は、仲間に向かって言葉を放った。

「そろそろ時間だから、俺は指定された場所へ行くよ。 あぁそれと、御子紫たちは指定時間のギリギリまでここにいろ。 
 後輩は指定された場所を言っても分からないだろうから、一度ここへ集合させるといい。 後輩の半分は御子紫たちへ、残りは夜月たちの方へ行かせろ」

「了解」
全ての命令を言い終えた結人は、再び不安な気持ちになり――――その思いを抱えたまま、言葉を静かに吐き出す。
「・・・人数が少ないから、やられることは覚悟しておけよ。 今日は俺と未来がいないけど、お前らだけでも大丈夫だよな」
この中で鉄パイプを使えるのは椎野しかいない。 だからやられることは覚悟するよう、そう命令するが――――みんながバラバラになってしまうと考えると、不安で仕方なかった。
だがここで、動揺していても何も事態は変わらない。 彼らに命令を下したことに後悔しないよう、そして今日で全ての決着をつけるよう覚悟を決め――――
「いいか。 もし何かあったら誰でもいい、誰でもいいから仲間にすぐ連絡しろ。 そして互いに助け合え」
不安な気持ちを打ち消すように力強く言い放ち、続けて最後の一言を彼らに向かって放った。

「・・・俺は、お前らを信じている」

そう言って――――結人は彼らから背を向けて、一人前へと歩き出した。


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