心の交差。

ゆーり。

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うそつきピエロ。

うそつきピエロ㉜

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数日後 朝 沙楽学園


日向は無事に退院し、久しぶりに学校へ登校することになった今日。 仲のいい牧野たちとは家が少し遠いため、いつも一人で登校している。 
病院の先生からは『安全のため今日は運動を控えるように』と言われていた。 だが運がいいのか悪いのか、体育の授業は今日はないため心配する必要はないだろう。 
ただ一つ、言えることは――――今日はコウに手を出すことができない。 それだけだ。 学校へ着き上履きに履き替え、その足で1組へと向かう。 
体調は万全で痛いところもない。 今日もまた、いつも通りのつまらない日常が始まるのだ。 

“今日も一日かったるいな”と感じながら、1組の教室の目の前まで来た。 教室の中はいつもと変わらず騒がしい。 そんな中、自然と溶け込むように教室の中へ入っていく。
―ガラッ。
教室の扉が開くと同時に、この付近にいた生徒は日向のことをじっと見てきた。 それは特に大した問題もない。 突然音がしたら、注目がいくのは当然だから。
そんな彼らを無視し、自分の席へ向かおうとした瞬間――――日向はある少年らに目が付いた。

―――神崎と・・・瀬翔吹。

コウと優、そして御子紫が楽しそうに話をしている。 御子紫に関しては同じクラスのため、何も問題はない。 だけど――――
―――どうしてあの二人がこの教室にいるんだ! 
―――つか、アイツら仲直りでもしたのか。 
―――・・・まぁいい。 
―――仲直りをしても、神崎を標的にするのは変わんねぇんだから。
そんな彼らを睨み付け、自分の席に大きな音を立てながら荒々しく座った。 その音のせいか、教室にいる生徒は一斉に日向を見る。
―――何だよ・・・コイツら。
コウたちのこともありこの教室にいるクラスメイトのこともあり、少し不機嫌になった。 
―――俺が少しの間入院していただけで、何が変わるって言うんだ。
この教室にはまだ牧野たちの姿はなく“まだ学校に来ていないのか”と察した日向は、寝たフリでもしてこの場をやり過ごそうとする。
だが――――その行為は、隣の席にいる女子の発言によって阻まれた。

「ねぇねぇ、日向くん。 日向くんって、シスコンなの?」

「・・・はぁ?」

隣に座っている女子が興味津々になりながら、こちらへ身を乗り出してくる。 確かに日向には姉がいた。 
だがシスコンなんて一度も思ったことはないし、姉に関しては何の感情も抱いていない。 
―――何を言っているんだ、コイツは。
「日向くんはシスコンだって、今凄く噂になっているよー? ねぇ、お姉さんのどこが好きなの?」
「俺はシスコンなんかじゃねぇ! 誰だよそんなデマを流した奴」
「さぁ・・・。 それは知らないけど。 で、お姉さんのどこが好きなの?」
「だからシスコンじゃねぇつってんだろ!」
日向が突然大きな声を出したことにより、先程まで黒板に落書きをしていた生徒が驚いて一歩後ろへ下がった。 その行為と同時に、自然と日向は黒板の方へ視線を移す。
その黒板には、色んな色でこう書かれていた。 

“日向くんはお姉さんが大好き!” “シスコンシスコン” “まだまだお子様な日向くん”

―――は・・・何だよ、これ。
日向はついに限界が来て、席から立ち上がりクラスにいる生徒に向かって怒鳴り付けた。
「おい、何だよこれ! 誰だよこんなデマを流した奴! 出てこいよ!」
そう言って、日向はある人物を見た。 ――――瀬翔吹優だ。 彼は無表情のままだった。 
そんな優に向かって、言葉を発しようとした瞬間――――これも誰かによって、遮られることになる。
「おい日向!」
「あぁ?」
声のした方へ振り向くと、そこには牧野が立っていた。
「・・・何だよ、牧野」
牧野の方へ身体を向けると、彼は突然日向の目の前に携帯を突き出してくる。
「・・・これ、流出させたのはお前だろ」
「は?」
そう言われ、牧野の携帯を覗き込んだ。

「俺の彼女の写メをこの掲示板に載せたのはお前だろ! 何でこんなことをするんだよ! 俺の彼女が狙われたら、どうしてくれんだ!」

「は・・・。 何を言ってんだよ、牧野・・・」

確かに牧野に彼女がいるということは知っていたが、彼女に会ったこともないし顔すらも知らない。 
―――何でそんな俺が、流出させた犯人になってんだよ!
そう思っていると、日向の気持ちを読み取ったかのように牧野はこう付け足してきた。
「彼女の写メが載っているこの書き込み。 投稿した奴のハンドルネームが“HYUGA”ってローマ字で表記されていたんだよ。
 俺に彼女がいるっていうことは、秋元と日向くらいにしか言ってねぇ。 ・・・だから、この写メを流出させたのはお前なんだろ」
―――何を言ってんだよ・・・牧野。 
―――俺はそんなことしてねぇ。 
―――そもそも、そんな写メを貰った憶えなんてないぞ!
「俺じゃねぇつってんだろ! つか、どっからそんな掲示板を見つけてきたんだよ!」
「秋元から聞いたんだよ! 『これ、お前の彼女じゃないか』って」
「俺はそんな書き込みなんてしてねぇ。 俺じゃないんだ、信じてくれ!」
「・・・いや。 もうお前のことなんて、信じらんねぇよ。 ・・・本当、最低だな」
そう言い捨てて、牧野は教室から荒々しく出ていった。
―――何だよ・・・どうなってんだよ。 
―――ドイツもコイツも、俺を馬鹿にしやがって! 
―――・・・マジムカつく。

結局今日一日、牧野とはあれから一切口を利かなかった。 
秋元に関しては彼と絡もうと近付くが『先生に呼ばれた』だとか『委員会がある』とか言われ、まともに話すことができなかった。 

そんなこんなで――――放課後を迎える。 
日向は帰りのホームルームを終えた後、すぐに教室から出た。 こんな場所に――――居たくなかったから。 正門から出て、一人考える。 今日起きた出来事について。 
シスコンというデマ。 牧野の、彼女の写メの流出。
―――あぁ・・・マジでイラつく。 
―――今すぐにでも神崎を殴りに行きてぇ。 
―――・・・でも、今日はできないんだよな。 
―――なら明日まで、我慢すっか。 
―――また入院だなんて、ごめんだしな。
日向は今の苛立ちを何とか抑えつつ、とても長い一日を終えた。


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