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うそつきピエロ。
うそつきピエロ⑩
しおりを挟むその頃1年2組では、未来一人でこの場を静めていた。
「あー、先生とかには言わなくていいから。 ほら、見なかったことにしてみんな帰んなー。 優は大丈夫だから」
それだけを言って、優の身の回りの物を片付け始める。 落ち着いた口調でみんなにはそう言ったが、未来は今でも動揺を隠し切れずにいた。
声が震えないよう頑張って声を張って発言したが、彼のことを思い出すと何故か怖くなり作業している手が震えてしまう。
―――優は・・・どうしちまったんだろう。
あんな優なんて、今まで見たことがなかった。 というより、見たくなかった。 やはり――――昨日コウに言われたことが、気に障ったのだろうか。
「未来?」
「ん? ・・・あぁ、悠斗か」
「戻ってくるのが遅いから来てみたけど・・・。 何してんの?」
「見たら分かるだろ。 片付けてんの」
「何で? というより・・・ここ、何かあったのか」
優の席が乱れていることと、このクラスが未だに気まずい空気になっているのを察してくれたのか、悠斗はそう聞いてきた。
そんな彼に対し、未来はこう一言を放つ。 小さな声で言ったが――――その言葉には、力強さも感じられるくらいに。
「・・・優の奴、イカれやがった」
「・・・え?」
未来は悠斗に先刻起きた出来事を話しながら片付けをした。 彼の協力により、片付けを早く終えることができこの気まずい2組の教室から出る。
「なぁ悠斗。 ・・・これから俺ら、どうしたらいいと思う?」
そう尋ねると、悠斗は少しも考えもせずに淡々とした口調で語り出した。
「まぁ、まずはコウのことは諦めるだろ」
「え、どうしてだ?」
「優でも、コウをどうすることもできなかったんだ。 ・・・だから、俺たちがコウに付いたとしてもきっと無駄だよ」
「じゃあ・・・どうすんの?」
「ユイは、今の未来の話からして優たちのことに気付いているとしようか。 だからユイに、優のことは任せる。 そしたら残りは日向だ。
日向を止めることさえできれば・・・」
―――なるほど、視点を日向へ向けるのか。
―――んー、そしたら何かいい案は・・・。
そこで、未来はひらめいた。
「あ・・・。 いいことを思い付いた」
「何?」
「日向を尾行しようと思ったけど、今日は止めよう」
「どうして?」
「日向の尾行はまた今度。 今から俺は、牧野たちを捜す」
牧野とは、日向と仲がよくいつも一緒に行動している少年のことだ。 彼ともう一人、秋元という少年も日向とよく一緒にいる。
もしかしたら、彼らもコウのいじめに関わっているのかもしれない。 直接手を出しているのは日向だけで、裏ではあの二人も動いているのかもしれない。
だから今回は日向ではなく、彼らに直接話を聞いてみることにした。 もしかしたら、何か新しいヒントが見つかるかもしれないから。
「未来がその二人のところへ行くなら、俺はその間何をすればいいの?」
「悠斗はコウを追ってくれ」
「え? だってコウはもうとっくに」
「無理してでもいいからコウを引き止めろ! ・・・だったら、俺と役割代わるか?」
「・・・それは、嫌」
「じゃあ分かったな。 何でもいいから、コウを今日一日引き止めてくれ。 日向のもとへ行かないようにな。 その間、俺は二人をあたってみる」
そして――――悠斗と別れ、未来は立川の街を走り回って牧野たちを捜し始めた。 どうせ悠斗のことだから、彼らと言い合える自信がないのだろう。
―――何か適当に理由でも付けて、コウを足止めしてくれたらいいんだけど。
―――・・・にしても、牧野たちはどこだ?
彼らはよく一緒に帰っているのを見たことがあるため、二人は今日も一緒にいるに違いない。
そして、捜し始めて一時間半が経過した。 “もう今日は無理か”と思ったその瞬間――――運よく、その二人の姿を見つける。
「牧野! 秋元!」
「ん・・・? 関口か? 何だよ、そんなに息切らして」
「俺たちに何か用?」
未来は前方にいる彼らに追い付き、呼吸を少し整えてから二人に向かって口を開いた。
「お前らも、コウのいじめに関わっているのか?」
「あ? コウ? ・・・あぁ、神崎のこと? あだ名で言われても分かんねぇよ」
「俺らは何も、関わってねぇよ」
―――何を言っているんだ。
―――実際、日向と一緒に御子柴をいじめていたじゃねぇか。
「でも日向は今、コウをいじめている。 そのことに関しては、流石にお前らだって知っているだろ?」
「知ってはいるけど、今回の件については俺らは関わっていない」
「・・・じゃあ、何で関わっていないんだよ」
未来は素直な質問を彼らにぶつけた。 日向一人でコウをいじめるなんて、有り得ないと思ったからだ。
―――学校にいても、日向と仲よさそうに話しているじゃないか。
「何で、って・・・」
その発言に秋元が困ったような表情で言いよどむと、もう一人の少年牧野は未来から視線をそらし、言いにくそうにこう言葉を発した。
「・・・御子紫の件、でさ。 あれが終わった翌日、日向はあちこちに傷を負っていた。 ・・・日向に怪我をさせたの、どうせお前らなんだろ?」
「え? あ・・・。 いや、俺らじゃねぇけど・・・。 ・・・うん」
日向をやったのは、未来も知らない不良らだ。
―――でも、その男たちから日向を助けたのは俺たちなんだけどなぁ・・・。
「まぁいいや。 俺らも、本当はあんな風に怪我を負うはずだったんだと思う。 でも日向のあんな姿を見て、もう怖くなってさ。 ・・・その、御子紫をいじめたりすんのが」
―――・・・なるほど、傷だらけの日向を見てコイツらは怖気付いたということか。
―――何だ、思っていたよりも弱い奴らだな。
―――それに対して、日向は懲りていないということか。
―――じゃあ、この二人はコウのいじめに関わっていないとすると・・・。
「俺らも言ったんだよ、日向に。 『もういじめは止めた方がいいぞ』って。 『また同じ目に遭うぞ』って。 でも、聞いてはくれなかった。
『だったら俺一人でやるからいい』って言われてさ。 だから今、神崎を一人でいじめている。 ・・・何だよ、日向にまた怪我を負わせる気か?」
「・・・いや、今はそんなこと考えてねぇよ」
彼らは本当にコウのいじめには関わっていないということを信じ、未来は二人に尋ねてみた。
「なぁ。 何で日向はユイをいじめたんだ? まぁ、実際行動に移したのは御子紫にだけどさ」
「ん? それ、言わなかったっけ。 色折が調子に乗っていてうぜぇからだよ。 この気持ちは日向と同じで、俺らも変わんねぇ。 いつ色折を見てもイライラするわ」
―――ユイに対する答えはこの前と一緒、か。
「じゃあ、どうして今回はコウなんだよ」
「さぁ? クラスが近かったからじゃね? 流石に、また御子紫をいじめんのはマズいと思ったんだろ。 だからクラスが隣の2組に目を付けたんだよ、きっと。
それにもし瀬翔吹をいじめたら、神崎が日向に仕返しをするかもだろ? 瀬翔吹よりも神崎の方が、見た目的にも喧嘩強そうだし。
だからその逆で、喧嘩がまだ弱そうで日向でも勝てそうな相手、瀬翔吹が仕返しに来てもいいように神崎を選んだんじゃね」
「・・・へぇ」
―――だから、コウを標的にしたのか。
―――まぁ、確かにコウの方が喧嘩は強いというのは当たっているけどな。
―――・・・でも、日向は最後の最後まで運が悪いな。
「・・・何だよ? 神崎をいじめの対象にしたら、何かマズいことでもあんのか」
「ん? ・・・いや、別に」
―――よりによって、あの二人に目を付けたか。
―――優をいじめるならまだしも、コウをいじめるだなんてな。
―――優はいじめという概念を心底嫌っているというのに。
―――・・・いや、待てよ。
―――もしかして日向は、コウは自己犠牲する奴っていうことを知っていたのか?
―――知らなかったとしたら、喧嘩が強そうなコウを最初にいじめの対象にするのはおかしい。
そして、未来は二人に向かって――――最後に、一言だけを口にした。
「まぁ、一つだけ言えるとしたら・・・。 コウの方を選んで、失敗だったな」
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