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第一章

招待状 1

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 ――王宮・王の間。
 バルコニーから王都を見下ろすエイラム王の元に、凱旋したアーガス王太子が姿を見せた。

「戻ったか」
「はい、父上。ウィルギスとは無事条約を締結しました。半年もすれば、人流も以前のように戻るかと」

「うむ、よくやった。これでしばらくは血を流さずに済むだろう……お前を誇りに思うぞ、アーガス」
「はっ、ありがとうございます」

 アーガスは姿勢を正して頭を下げた。
 そして、何度か目線を泳がせた後、ゆっくりと口を開く。

「ところで、父上……やっと、気になる女性を見つけました」
「ほぅ、それはめでたい! 心配しておったが、お前もやっとその気になったか……で、相手は?」

 思いがけない言葉にエイラムが顔をほころばせる。

「はい、ウィンローザ家の若き女侯爵をご存じでしょうか?」

 エイラムの顔が一瞬曇る。だが、すぐに笑顔に戻り、
「おお、ウィンローザ卿か、噂は聞いておる」と何事も無く返した。
「彼女を凱旋パーティーに招待しようと思うのですが……いかがでしょう?」

「……うむ、主役はお前だ、好きにしなさい」
「ありがとうございます。では、私はこれで――」

 アーガスは胸に手を当て、会釈をすると王の間を後にした。



    §



「あ~、やっとゴロゴロできる~……」

 背伸びしながらソファに寝っ転がっていると、開け放っていた扉をノックする音が聞こえた。

「リリィ、そんな格好していると、またアルフレッドに叱られるよ?」
 顔を見せたのはロイドだ。

「大丈夫、今は居ないから、へへへ……」

 横になったまま、顔だけ向けて答えると、
「誰が居ないのです?」と、いつの間にかアルフレッドが仁王立ちで私を見下ろしていた。

 慌てて飛び起きて洋服の乱れをなおす。

「もう、ア、アルフレッドはいつも気配なさすぎなんだってば!」

 アルフレッドは「そうですか」とそっけなく答え、
「それよりも、こんなものが届きました」と、指に挟んだ封筒を見せた。

 私は起き上がってそれを受け取った。

「何これ……?」
「ふぅん、招待状だね、しかも王室からの……」

 扉に凭れていたロイドが私の手元を覗き込んだ。

「え……王室?」
「早速、釣れたようで何よりです。上位貴族に話を伺う良い機会となるでしょう」
「釣れたって……誰が?」

「アーガス王子以外に誰がいると言うのです?」
 アルフレッドはさも当然のように答えた。

「えっ⁉ でも、印象最悪だったと思うんだけど……」
「あの御方は、昔から少し変わった方に興味を惹かれるようですね」
「ちょっとそれ、どういう意味?」

「まぁまぁ、リリィが普通じゃないくらい可愛いってことだよ」
 満面の笑みを浮かべたロイドが、恥ずかしげも無く言いのけた。

「なっ……⁉」
「なんとまぁ……」

「え? だって、そうでしょ?」
 きょとんとした顔で、ロイドは私とアルフレッドを交互に見た。

「もう、その辺で結構です――、リリィ様、招待状を開けてみていただけますか?」と、アルフレッドが話を戻す。
「うん」

 封筒を開けて中を見ると、ロイドの言うとおり王室からの招待状だった。

「凱旋パーティー……だって」
「あー、そういや条約が締結したんだよね?」
「となると、かなり上位の面子が期待できますが……リリィ様?」

 王室のパーティーか……。
 面倒くさそうだけど、アルフレッドの言うようにこれはチャンスだわ。
 上位貴族の面々なら、社交界の内情や過去のスキャンダルについても詳しいはず……。

「行くわ、ヴィリアについて何かわかるかも知れない」
「――では、手配いたします」

「じゃあ、僕も予算組まなきゃね」
「予算?」

「そうだよ? ドレスやら宝石やら、パーティーにはお金が掛かるんだから」
「そ、そっか……」
「大丈夫、僕に任せておいてよ」

 ロイドは片目を瞑って、ニッと口角を上げた。
 不覚にも一瞬、可愛いと思ってしまった……。

 これが三十路の男だなんて、世の中間違ってる。
 部屋を出ていくロイドの後ろ姿を見ながら、私は小さく頭を振った。
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