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第一章

爵位継承 2

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「――セフィーロ宰相がお見えになりました!」

 王宮付の侍従の言葉に、皆が胸に手を当て低頭した。
 私もそれに倣い頭を下げる。

 しかめっ面のセフィーロが重そうな身体を揺らしながら、置かれた椅子に腰を下ろす。ため息交じりに片手を上げると、皆が顔を上げた。

「はぁ、さてさて……今年は何やら懐かしい匂いがするな」
 セフィーロは、まるで汚いものでも見るような瞳をリリィに向けた。

「ああ、あの気取った女侯爵の匂いか――それとも卑しい孤児の臭いか?」

 場が一瞬で凍り付く。
 だが、これも想定内――何ら動じることはない。

 セフィーロはヴィリアを嫌っていた。
 大勢の前で恥をかかされた過去を、未だ根に持っているのだろう。
 つまらなさそうに禿げ上がった頭を掻き、ふん、と鼻で笑った。

「なんと虐めがいのない……まぁよい。では、宴の前に職務を全うするとしよう。ほら、早く来たまえ」

 手招きされた私は、皆の視線を一身に浴びながら、中二階へ続く広い階段を上る。
 セフィーロの手前で立ち止まり、丁寧に礼を執った。

「ふん、躾はできておるようだな」
 臣下に手を伸ばして書状を受け取ると、セフィーロがだるそうに読み上げる。

「えー、リリィ・ウィンローザ――其方がヴィリア・ウィンローザ侯爵の後継者として爵位を継ぐことを、アルフォード・レイセオン王の名において正式に認める……と、これには書いてある」
「……」

 セフィーロは書状をひらひらと揺らし、顔を歪めた――。

「白紙の――しかも、王印付きの授爵状を女狐にくれてやるとは……先王も物好きなものだ」

 会場がざわめく。
 王の授爵状というだけでも、とてつもない価値を秘めている。

 しかも、それが白紙ともなれば、たとえ孤児や奴隷でも爵位を継げる。
 悪意があれば、他人の爵位を合法的に奪うことさえ可能だ。

 これはそういう類いの、決して金では買えない代物。
 セフィーロが呆れるのも無理はない。

「だがまあ、法は絶対である。リリィ・ウィンローザよ、お前が侯爵を名乗ることに異論は無い――」

 そう言って、セフィーロは授爵状を私の目の前に落とした。
 嘲るような目付きで私を見据える。

 本当に落とした――。
 アルフレッドの言った通りね。

「ならば、次からはお前では無く、ウィンローザ卿とお呼び下さい」
「……なっ⁉」

「――アルフレッド」
「はい、ここに」

 私が声を上げると、いつの間にか隣に控えていたアルフレッドが、床に落ちた書状を拾い上げた。

「それではセフィーロ宰相閣下――、これで失礼いたします」

 膝を折って礼をした後、私は颯爽と踵を返した。
 優雅に階段を下り、出口に向かって進むと、階下に居た貴族達が慌てて道を空ける。

「皆様、どうぞごゆっくりお楽しみを――」

 そう言い残し、私はホールを後にした。
 我ながら鮮烈で、華々しい社交界デビューデビュタントになった。
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