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第一章
爵位継承 1
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リロイ・アイフォレストは、家の付き合いでエスコートをした令嬢と別れ、ホール奥に用意されたアイフォレスト公爵家専用の貴賓室に入った。
「ふぅ……」
大きなソファに座り、一つに束ねていた翡翠色の髪をほどき、軽く頭を振る。
「お直しいたします」
「頼む」
側近が手早くリロイの髪を結い直す。
「まさか、ウィンローザ家とはね……いまさら亡霊が何をしに舞い戻ったのやら」
「さあ……しかし、ヴィリア卿の美しさは耳にしておりましたが、彼女の立ち振る舞いは……天使のようでもあり、悪魔のようにも見えました」
「彼女ではなく、リリィ卿、だよ」と、リロイは側近をたしなめた。
「あ、これは失礼しました!」
低頭する側近に、リロイは「わかればいい」と手を振る。
「しかし、あの美しさは認めざるを得ないですが、孤児を養子に……しかも、侯爵位を継がせるなど、他家がどう思われるか……それに、いくら侯爵とはいえ、宰相殿に対してあのような振る舞いが許されるのでしょうか?」
「まあ、先王とはいえ……王印の押された授爵状がある以上、彼女は正式な侯爵ということになる。しかも、建国より国を陰から支えたウィンローザ家ときたもんだ。現王でさえ、おいそれと手は出せないだろうな……」
「例の元暗部の執事……ですか?」
「あくまで噂だがね、あの家には色々と謎が多い」
リロイはリリィ・ウィンローザの立ち振る舞いを思い返し、
「なぜ今になって社交界に現れたのか……ふふ、楽しくなってきたね」と、頬を緩ませた。
§
――数時間前。
豪奢なシャンデリアの下、煌びやかなホールでは、大勢の着飾った貴族達が噂話に花を咲かせていた。
もっぱら話題は、ウィンローザ家の新当主である私の話だ。
『ご覧になりましたか?』
『ええ、素敵な御方でしたわ』
『今年の社交界は面白くなりそうだね』
『誰があのご令嬢を落とすのか……』
『どうせ御三家かその親族に決まっているさ……おっと、見ろ、噂をすれば、だな』
ホール中央に集まったのは、今年、社交界デビューを迎える各家の若人達。
見渡す限り、やや緊張気味な者が6割、したたかに周囲を観察している者が2割、そして、他人事のように自由に振る舞う上位貴族達が2割……。
この後は、中二階から宰相が登場し、成人の祝辞を述べる予定になっている。
『どこのご令嬢だ?』
『あんな美しい女性を見たことがない……』
『ウィンローザ女侯爵だそうだ』
皆が噂する声は届いていたが、私は何も気にならなかった。
この日のために、事前にアルフレッドと何度も何度もシミュレーションを重ねた。
考えられる誹謗中傷は、全てこの頭に入っている。
集まった貴族家の顔、名前、家族構成、所属派閥、弱み……。
アルフレッドが集めた情報の全てが――。
「ふぅ……」
大きなソファに座り、一つに束ねていた翡翠色の髪をほどき、軽く頭を振る。
「お直しいたします」
「頼む」
側近が手早くリロイの髪を結い直す。
「まさか、ウィンローザ家とはね……いまさら亡霊が何をしに舞い戻ったのやら」
「さあ……しかし、ヴィリア卿の美しさは耳にしておりましたが、彼女の立ち振る舞いは……天使のようでもあり、悪魔のようにも見えました」
「彼女ではなく、リリィ卿、だよ」と、リロイは側近をたしなめた。
「あ、これは失礼しました!」
低頭する側近に、リロイは「わかればいい」と手を振る。
「しかし、あの美しさは認めざるを得ないですが、孤児を養子に……しかも、侯爵位を継がせるなど、他家がどう思われるか……それに、いくら侯爵とはいえ、宰相殿に対してあのような振る舞いが許されるのでしょうか?」
「まあ、先王とはいえ……王印の押された授爵状がある以上、彼女は正式な侯爵ということになる。しかも、建国より国を陰から支えたウィンローザ家ときたもんだ。現王でさえ、おいそれと手は出せないだろうな……」
「例の元暗部の執事……ですか?」
「あくまで噂だがね、あの家には色々と謎が多い」
リロイはリリィ・ウィンローザの立ち振る舞いを思い返し、
「なぜ今になって社交界に現れたのか……ふふ、楽しくなってきたね」と、頬を緩ませた。
§
――数時間前。
豪奢なシャンデリアの下、煌びやかなホールでは、大勢の着飾った貴族達が噂話に花を咲かせていた。
もっぱら話題は、ウィンローザ家の新当主である私の話だ。
『ご覧になりましたか?』
『ええ、素敵な御方でしたわ』
『今年の社交界は面白くなりそうだね』
『誰があのご令嬢を落とすのか……』
『どうせ御三家かその親族に決まっているさ……おっと、見ろ、噂をすれば、だな』
ホール中央に集まったのは、今年、社交界デビューを迎える各家の若人達。
見渡す限り、やや緊張気味な者が6割、したたかに周囲を観察している者が2割、そして、他人事のように自由に振る舞う上位貴族達が2割……。
この後は、中二階から宰相が登場し、成人の祝辞を述べる予定になっている。
『どこのご令嬢だ?』
『あんな美しい女性を見たことがない……』
『ウィンローザ女侯爵だそうだ』
皆が噂する声は届いていたが、私は何も気にならなかった。
この日のために、事前にアルフレッドと何度も何度もシミュレーションを重ねた。
考えられる誹謗中傷は、全てこの頭に入っている。
集まった貴族家の顔、名前、家族構成、所属派閥、弱み……。
アルフレッドが集めた情報の全てが――。
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