奏でる旋律は貴方と共に

うみすけ

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ジンジンと鳴く蝉の声が外で聞こえて、元々暑いこの夏が更に暑く感じる。今年度、高校生になった私は吹奏楽部に入って、扇風機しか無い部室で練習をしているので、汗が顔を伝って気持ち悪い。


心奏かなで!全体合わせ!」

「分かった~。」


私はトランペットを演奏していて、一言で言えば天才。小さい頃からずっと吹いてきたトランペットは、私に取っては人生そのものみたいなもので、誰かに劣るなんて考えられないし考えた事も無い。だから、皆で合わせる時も私が先導を切って行かないと!


「じゃあ、最初から皆で合わせます。」


そう、先生が言うと皆が金管を構える。私もそれを見てゆっくりと構える。この口元に持ってきた時の楽器の冷たさや重さ、まるで私と一体化してる気分になる。何も見なくても私のしたいがままにメロディーを奏でてくれる。

と、気持ち良く吹いていると肩をトントンと叩かれた。私はトランペットを膝に降ろして後ろを振り向くと慎一郎しんいちろう先輩が私を見下ろしていた。


「なんですか?」

「ちょっと、お前こい。」


そう言うと、一足先に部室を出て行った。特に呼ばれる理由も思いつかないので、なんだろうと私も少し遅れて部室を出る。と、廊下の少し奥で壁にもたれてる先輩がいた。先輩は同じトランペットを吹いている、1つ上の先輩で、まぁこの人も一言で言うなら天才かな。中々、吹いてる所を見たり聴いたりは出来ないけど、この人が吹くと音だけでも分かるくらいには綺麗な旋律を奏でる。私も同じくらい上手だけどね。

そんな先輩の元へと行き、問う。


「なんですか?」


気持ち良く吹いていた事もあって、少し不機嫌な雰囲気を醸し出して声をかけたが、それを気にせずに続ける。


「お前は、確かにトランペットの腕は確かだな。」

「ありがとうございます。」

「かなり上手いし、音もしっかりしている。周りの奴らとは違うのは一目瞭然。」


私は、こんな褒め言葉を貰えるなんて思って無かったから、あっけにとられた。でも褒められて嬉しいのは間違いなくて、少しだけ口角が上がってた。私が上手い事は分かりきっていても人に言われるとやっぱり嬉しい。そんな感じでいると先輩がまた口を開く。


「でもな、お前は皆で演奏するのには向いてない。」


????

褒めてたのに、そんな事を言われるとは思って無かったので思わず、「は?」と口ずさんでしまった。


「お前は上手いけど、周りの音を聴いてない。ソロで演奏してるんじゃないんだから。周りが合わせるんじゃなくて、お前が合わせれないとダメだよな。」

「は?私は上手いんだから皆が合わせるべきでしょ。音を聴いてない?聴いてますけど。」

「聴いてるのに、さっきの演奏をする奴はハッキリ言って下手くそ。お前皆でやるのに向いてないよ。」


意味わかんない!意味わかんない!
私は怒りそうになった。上手だと言われ続けてきたのに、初めて下手くそと言われた。それだけでもムカッとしたのに、向いてないなんてもうイライラしかしない。言い返そうとしたら、既に先輩は部室に向かって歩き出していた。


「ちょっと!先輩!私まだ言いたい事あるんですけど!!」


少しだけ声のボリュームを上げて言ってみたものの、先輩はスタスタと部室に戻っていった。


「なんなのよ………。意味わかんない………。」


私はイライラはしていたが、先輩を追いかける気も起きなくて、その場で座り込んで頭を抱えた。下手って、向いてないって、そんな事………。なんて脳内でグルグルしていた。私は、誰よりも上手なはずなのに、先輩も私の事褒めてたじゃん………。ふと耳を澄ますと、スタスタと足音が聞こえてきて、誰だと顔を上げてそちらを見ると先輩がトランペットを2つもって私の元へと来た。1つは私ので、当たり前だけどかなり丁寧に私に渡してきて、口を開く。


「今から2人で演奏するぞ。」
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