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第4章 第4話 小競り合いからのギルド追放
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「で、ハートチャンもlunar eclipse projectを始めたの?」
「父に頼まれたので…」
桃香と鼎は、ハートを見てすぐに戦闘態勢になった。ハートはそんな彼女達を見て、嫌そうな表情をして肩をすくめた。
「なんでいきなり武器を構えるんですか…」
「あなたは朱音を救出した時に妨害した。信用できない」
鼎はハートに対する警戒を解かずに、彼女を睨み続けた。ハートは研究のためと言って、朱音の帰還を阻止しようとしたのだ。
「ちょっと、なんでピリピリした雰囲気になってるの?」
「いきなり喧嘩はやめてくれよ!」
ワウカ達は、いきなり戦闘態勢になった鼎と桃香に驚いていた。ワウカの取り巻きの男の一人は、明らかに怯えていた。
「あなたのお仲間も怯えているみたいですし、武器を構えるのをやめてください」
「分かったよ…他のプレイヤーとは仲良くしなきゃね…」
桃香は周囲のギルドメンバーの様子を見て、武装を解いた。これからミッションというタイミングで戦うのは流石にまずいからだ。
「あなたの父の目的は何なのか…」
「このゲームの調査です。私は自分でやればいいって言ったけど聞いてくれなくて…」
鼎はハートの父親が、なぜ直接調査しないのかを考えていた。何か表に出られない理由があるのか、それとも怠惰なだけなのか…
「それじゃあ、早くミッションを始めましょう。桃香達に任せても良いですか?」
「ボク達のペースで進めるから、文句言わないでね」
「ちょっと鼎、こっちにも初心者がいる事を忘れないで」
「汐音ちゃんもいるから、初心者のペースに合わせるよ」
桃香はハートに対してムキになっていて、冷静さを欠いている。それに対して鼎とワウカは、汐音達がいるのを忘れていない。
「あの…大丈夫ですか?」
「どーもゲーム外で因縁があるみたい。という訳で離れてましょうね~」
「ワウカちゃんが初心者に優しく接してる…」
「俺達も真似した方が良いかな…」
普段周囲を男で囲う事にしか興味が無いワウカが初心者に優しくしている様子を見て、囲っている男達が驚いていた。それを見て初心者には優しくしようと思い始める者も多かった。(動機は“姫”であるワウカから嫌われたくないと言うものだが)
「じゃあミッション開始だよ」
「フィールドが広い…見通しは良いけど逃げ場も無い」
ギルドマスターである桃香がミッションを開始すると、早速敵の群れが現れた。汐音は怯えていたが、周囲のプレイヤーが的確に敵を倒していく。
「大丈夫だよ汐音ちゃん。初心者でも弱い敵を相手にすれば勝てる!」
「わっ、分かった。えい!」ビシュッ!
汐音がlunar eclipse project内で選んだ武器は、弓矢だった。接敵する必要が無い武器なので、初心者からの人気が高かった。
「やった!ちゃんと当たった!」
「ダメージは入ってるが油断するな!」
矢を当てて喜ぶ汐音に、ワウカの取り巻きの一人が忠告した。彼もワウカの姿勢を見て、だいぶ初心者に対して協力的になっている。
「えいっ!」
「おっ、敵の頭部に当たった…やるじゃ~ん」
汐音が放った2発目の矢は敵キャラの頭部に当たった。大ダメージを喰らった敵は撃破されて、汐音の撃破カウントが1になった。
「やった!勝てた!」
「私も続くよ!」
ミクは後方から、光の魔法を使って援護していた。威力はそこまで高く無いが、ほぼ確実にダメージを与える事が出来る。
(この前みたいな変な技じゃない…色々聞くのは後かな)
「初心者達は大丈夫そうです」
「問題はアイツらか…」
ハートは鼎と桃香の近くで戦っていたが、全く連携を取ろうとしなかった。特に桃香は、攻撃がハートに当たりそうになっても気にしていなかった。
「ちょっと危ないですよ!そこそこやってるプレイヤーなら気をつけてください!」
「ハートチャン前戦った時滅茶苦茶強かったじゃん。そっちこそ上手く避けてよ」
ハートと桃香は言い争っていて、周囲のギルドメンバーは彼女達から離れていった。争いながらも、鼎も一緒に敵を撃破していたが…
「そっちこそ危ないじゃん!気をつけてよ!」
「私初心者ですから…雑魚敵の攻撃と一緒に避けてください」
ハートは桃香の事を気にせず二丁拳銃を乱射していた。本当に頭に来た桃香は、ミッションを無視してハートに対してビームを撃ち込んだ。
「いきなり何するんですか!」
「え~この前ログアウトエリアでビーム撃って来たじゃん」
桃香は相変わらず戯けた様子で、ハートを煽っていた。それに対して本気で憤りを感じたハートは、桃香に向けて銃弾を放った。
「ちょっと…桃香さん何やってるんですか?!」
「ハートチャンが邪魔してくるんだもんしょうがないじゃん!」
汐音は争う様子を見て引いていたが、桃香は気にしていなかった。鼎はそんな彼女に呆れて、距離を置いて汐音達に近づいた。
「アイツらは放置して、早くミッションをクリアしよう」
汐音と合流した鼎は、他のギルドメンバーと協力してボスを倒そうと思っていた。ハートはもちろん、桃香もアテに出来ないと判断したのだ。
「わっ、分かりました」
「私も行くよ!」
汐音だけでなく、ミクや他のギルドメンバーも鼎について来た。もはやギルドマスターである桃香は、完全に放置されていた。
ーー
「あれがボス…」
「マンティコアだね。物理攻撃が強力だから気をつけて!」
マンティコアは厳つい人面のライオンと言った容貌の、不気味なモンスターだった。爪や牙による攻撃は、かなりの威力となるだろう。
「私が前に出て戦うから」
「えっちょっと鼎…もう」
鼎は剣を持って、マンティコアへと向かって行った。グローブを装備しているワウカも、仕方無さそうに鼎に続く。
「きゃっ?!」
「鼎さんもまだ慣れてないんでしょ?気をつけてね」
鼎は、マンティコアの攻撃を受け止めきれずに、後方へ押される。ワウカは彼女に代わって、マンティコアへ猛攻を仕掛ける。
「汐音、ミク、援護お願い!」
「了解です!」
汐音は弓矢、ミクは光の魔法を駆使してワウカを援護した。どちらも威力はそこまで高くなかったが、マンティコアを怯ませるには十分だった。
「鼎さん、やれる?」
「勿論…!」
鼎も立ち上がって、ワウカと一緒にマンティコアへ立ち向かった。ワウカはマンティコアの顔面にアッパーを喰らわせ、その隙を狙った鼎の剣が喉に刺さった。
「よし!これでコイツはもうまともに動けないよ!」
「じゃあ魔法撃ちまくるね!ほら、汐音も続いて!」
「う、うん!」
ミクは光の魔法での攻撃を続けて、汐音も弓矢を撃ち続けた。小さいダメージだったが、マンティコアの顎に当たり続けた。
「倒れた…?」
「小さいダメージが重なった結果だね。これは汐音ちゃんとミクちゃんの協力の結果だよ」
ワウカは手練れのプレイヤーだけでなく、初心者2人の助けがあったからだと強調した。彼女なりに、記憶の無い姉と接する汐音への配慮をしているのだ。
(ワウカ…気遣いするタイプじゃないと思ってたけど…)
ワウカは彼氏募集中である事を隠しておらず、周囲を男で囲うタイプである。鼎からすれば、そんな彼女が他の女性プレイヤーに気を遣う光景は予想外だった。
「しつこいですよ!」
「そっちこそちゃんとボクと戦いなよ!」
一方で、桃香は未だにハートに対してしつこく攻撃していた。ハートの方もうんざりしながら、二丁拳銃で対処していた。
「アイツらいつまでやってんの…」
「ちょっとワウカ、何する気?」
ワウカはグローブを装備したまま、ハートと桃香の方へ向かった。鼎は、ワウカが桃香達を止めてくれるなら何でもいいと思っていたので、彼女を制止する事は無かった。
「桃香~聞こえるー?」
「今取り込み中だよ!」
桃香は目の前にいるハートへの攻撃で、手一杯だった。ワウカは桃香を放って置くことにして、ハートの方へ向かった。
「…何ですか?あの人をどうにかするので忙しいので…え?」
「あんたは聞かれても答えないタイプでしょ」ガンっ!
ワウカはハートの後頭部を、グローブを装着した手で思い切り叩いた。予想外の攻撃を、ハートは避けることが出来なかった。
「えっ?!」
(すごいな…思ったより躊躇ないね)
汐音はワウカの行動に驚き、鼎も意外な一面の数々に興味を持っていた。桃香も驚いていたが、ハートがやられた事にホッとしていた。
「ありがとう。ワウカが助けてくれるなんて思わなかったよ」
「…ギルドメンバー放って置いて、よく分かんないプレイヤー喧嘩するタイプだったんだね」
「え…だって因縁がある相手だったから…」
「今回の件…というか醜態、多分他のプレイヤーも知ると思うよ」
lunar eclipse projectはプレイヤー数の少ないマイナーなゲームである。そのせいでギルドの垣根を越えて、村社会のようなものが形成されてしまっている。
「え…ボクにギルドマスターやめろって?」
「当分ギルドに出入り禁止。ギルマスは私が代行する」
「それでメンバーは…納得しそうだなぁ…ワウカだもんなぁ…」
「ついでにギルド名も変えるから」
桃香はショックを受けて、ギルドメンバーに視線を送ったが反応は無かった。大半のギルドメンバーにとっても、桃香の事はどうでも良かったのだ。
「まぁ…一緒に活動してる事ほとんど無かったからな…」
「ワウカちゃんがギルドマスターやってくれるんなら、改善してくれそうな所いっぱいあるだろ」
「…この様子なら、放って置いても大丈夫そうだね。ギルドマスターやる必要無くなった桃香には、事件の調査に引き続き協力してもらえると嬉しいけど」
「ボクがいなくなって寂しくなる…なんて事も無さそうだしなぁ~」
ミッションは無事クリアしたが…側から見ればギルドマスターが初心者に喧嘩を売っている様にしか見えない場面もあった。“アルティメット気持ち良すぎだろギャラクシー”の評判もかなり落ちてしまっただろう…
ーー
「あっ、アリスさん。そっちから会いに来てくれるなんて…」
「…さっきのミッション、初心者に対して攻撃しまくってた様に見えました」
ミッション終了後、様子を見ていたアリスが会いに来た。やはりというか、桃香を怪訝そうな目で見ていた。
「アリス、さっきのは…」
ーー
「えっ?!あの初心者はアナザーアースの開発者だったんですか?!」
「開発者本人じゃなくて、その娘。後声が大きい」
アリスに対しても、過去に巻き込まれた事件について多くを伝えた。鼎は彼女にも、事件の調査に協力してもらえないかと思ったのだ。
「私のところにはペルタがいるので…一切関係ないとは言い切れませんが…」
「それぞれの生活も仕事もあるし…無理にとは言わない」
アリスはギルドに加入せず、ペルタと2人でlunar eclipse projectを調査していた。それ以外の事情は、最近初めて会った鼎達が知るはずが無かった。
「あなた達の調査に協力しても良いけれど…ブラックエリアに踏み込むのは…」
「私達の調査対象には含まれてる。でも、無理について来てとは言わないから…」
「…そろそろログアウトします…色々と現実世界でじっくり考える時間も必要です」
「分かった…桃香、一旦月食エリアから出よう」
アリスはログアウトしてアナザーアースを去り、鼎達は月食エリアからストリートに移動した。鼎達は、いつも今後の方針を決める時に利用しているカフェへ向かった。
ーー
「で、これからどうする?またブラックエリアで聞き込みでも…」
「いや、私も何度もあそこに出入りしたくない…そうだ」
思い立った鼎は、早速ある人物に連絡を取ってみた。相手が応答するまでの時間は、普段よりも長かった。
「…今何時だと思ってるの…これから寝るところなのに…」
「ひょっとして、今現実の方にいるの?」
「とっくにログアウトしたよ…もう23時50分…」
「あ…その、巴の方は何か進展あるかなって…」
西園寺巴は、不機嫌そうかつ眠たそうな声で対応していた。鼎は少し申し訳なく思ったが、巴は素早く要点だけ伝えた。
「…アイリって子の目撃情報があったんだけど…本当かどうか怪しくて…」
「えっ?!水瀬愛莉が見つかったの?!」
「だからまだはっきりしてないって…目撃情報のアバターと、私が以前見たアイリで見た目が違うし…」
「…分かった。明日になったらまたメッセージ送るから」
鼎が言い終わる前に、早く寝たかった巴は通話を切っていた。鼎と同時にログアウトして寝る支度をしていた桃香は、彼女の様子を気にしていた。
「…愛莉チャンの行方が分かったの?」
「うん…でも流石に眠いし、明日にする。起きたらすぐに巴にメッセージ送る」
そう言った鼎は、寝る前にシャワーを浴びに行く。鼎は温めのシャワーを浴びながら、愛莉の行方について考える。
(この情報が大きな進歩になる…そう信じるしか無い)
「父に頼まれたので…」
桃香と鼎は、ハートを見てすぐに戦闘態勢になった。ハートはそんな彼女達を見て、嫌そうな表情をして肩をすくめた。
「なんでいきなり武器を構えるんですか…」
「あなたは朱音を救出した時に妨害した。信用できない」
鼎はハートに対する警戒を解かずに、彼女を睨み続けた。ハートは研究のためと言って、朱音の帰還を阻止しようとしたのだ。
「ちょっと、なんでピリピリした雰囲気になってるの?」
「いきなり喧嘩はやめてくれよ!」
ワウカ達は、いきなり戦闘態勢になった鼎と桃香に驚いていた。ワウカの取り巻きの男の一人は、明らかに怯えていた。
「あなたのお仲間も怯えているみたいですし、武器を構えるのをやめてください」
「分かったよ…他のプレイヤーとは仲良くしなきゃね…」
桃香は周囲のギルドメンバーの様子を見て、武装を解いた。これからミッションというタイミングで戦うのは流石にまずいからだ。
「あなたの父の目的は何なのか…」
「このゲームの調査です。私は自分でやればいいって言ったけど聞いてくれなくて…」
鼎はハートの父親が、なぜ直接調査しないのかを考えていた。何か表に出られない理由があるのか、それとも怠惰なだけなのか…
「それじゃあ、早くミッションを始めましょう。桃香達に任せても良いですか?」
「ボク達のペースで進めるから、文句言わないでね」
「ちょっと鼎、こっちにも初心者がいる事を忘れないで」
「汐音ちゃんもいるから、初心者のペースに合わせるよ」
桃香はハートに対してムキになっていて、冷静さを欠いている。それに対して鼎とワウカは、汐音達がいるのを忘れていない。
「あの…大丈夫ですか?」
「どーもゲーム外で因縁があるみたい。という訳で離れてましょうね~」
「ワウカちゃんが初心者に優しく接してる…」
「俺達も真似した方が良いかな…」
普段周囲を男で囲う事にしか興味が無いワウカが初心者に優しくしている様子を見て、囲っている男達が驚いていた。それを見て初心者には優しくしようと思い始める者も多かった。(動機は“姫”であるワウカから嫌われたくないと言うものだが)
「じゃあミッション開始だよ」
「フィールドが広い…見通しは良いけど逃げ場も無い」
ギルドマスターである桃香がミッションを開始すると、早速敵の群れが現れた。汐音は怯えていたが、周囲のプレイヤーが的確に敵を倒していく。
「大丈夫だよ汐音ちゃん。初心者でも弱い敵を相手にすれば勝てる!」
「わっ、分かった。えい!」ビシュッ!
汐音がlunar eclipse project内で選んだ武器は、弓矢だった。接敵する必要が無い武器なので、初心者からの人気が高かった。
「やった!ちゃんと当たった!」
「ダメージは入ってるが油断するな!」
矢を当てて喜ぶ汐音に、ワウカの取り巻きの一人が忠告した。彼もワウカの姿勢を見て、だいぶ初心者に対して協力的になっている。
「えいっ!」
「おっ、敵の頭部に当たった…やるじゃ~ん」
汐音が放った2発目の矢は敵キャラの頭部に当たった。大ダメージを喰らった敵は撃破されて、汐音の撃破カウントが1になった。
「やった!勝てた!」
「私も続くよ!」
ミクは後方から、光の魔法を使って援護していた。威力はそこまで高く無いが、ほぼ確実にダメージを与える事が出来る。
(この前みたいな変な技じゃない…色々聞くのは後かな)
「初心者達は大丈夫そうです」
「問題はアイツらか…」
ハートは鼎と桃香の近くで戦っていたが、全く連携を取ろうとしなかった。特に桃香は、攻撃がハートに当たりそうになっても気にしていなかった。
「ちょっと危ないですよ!そこそこやってるプレイヤーなら気をつけてください!」
「ハートチャン前戦った時滅茶苦茶強かったじゃん。そっちこそ上手く避けてよ」
ハートと桃香は言い争っていて、周囲のギルドメンバーは彼女達から離れていった。争いながらも、鼎も一緒に敵を撃破していたが…
「そっちこそ危ないじゃん!気をつけてよ!」
「私初心者ですから…雑魚敵の攻撃と一緒に避けてください」
ハートは桃香の事を気にせず二丁拳銃を乱射していた。本当に頭に来た桃香は、ミッションを無視してハートに対してビームを撃ち込んだ。
「いきなり何するんですか!」
「え~この前ログアウトエリアでビーム撃って来たじゃん」
桃香は相変わらず戯けた様子で、ハートを煽っていた。それに対して本気で憤りを感じたハートは、桃香に向けて銃弾を放った。
「ちょっと…桃香さん何やってるんですか?!」
「ハートチャンが邪魔してくるんだもんしょうがないじゃん!」
汐音は争う様子を見て引いていたが、桃香は気にしていなかった。鼎はそんな彼女に呆れて、距離を置いて汐音達に近づいた。
「アイツらは放置して、早くミッションをクリアしよう」
汐音と合流した鼎は、他のギルドメンバーと協力してボスを倒そうと思っていた。ハートはもちろん、桃香もアテに出来ないと判断したのだ。
「わっ、分かりました」
「私も行くよ!」
汐音だけでなく、ミクや他のギルドメンバーも鼎について来た。もはやギルドマスターである桃香は、完全に放置されていた。
ーー
「あれがボス…」
「マンティコアだね。物理攻撃が強力だから気をつけて!」
マンティコアは厳つい人面のライオンと言った容貌の、不気味なモンスターだった。爪や牙による攻撃は、かなりの威力となるだろう。
「私が前に出て戦うから」
「えっちょっと鼎…もう」
鼎は剣を持って、マンティコアへと向かって行った。グローブを装備しているワウカも、仕方無さそうに鼎に続く。
「きゃっ?!」
「鼎さんもまだ慣れてないんでしょ?気をつけてね」
鼎は、マンティコアの攻撃を受け止めきれずに、後方へ押される。ワウカは彼女に代わって、マンティコアへ猛攻を仕掛ける。
「汐音、ミク、援護お願い!」
「了解です!」
汐音は弓矢、ミクは光の魔法を駆使してワウカを援護した。どちらも威力はそこまで高くなかったが、マンティコアを怯ませるには十分だった。
「鼎さん、やれる?」
「勿論…!」
鼎も立ち上がって、ワウカと一緒にマンティコアへ立ち向かった。ワウカはマンティコアの顔面にアッパーを喰らわせ、その隙を狙った鼎の剣が喉に刺さった。
「よし!これでコイツはもうまともに動けないよ!」
「じゃあ魔法撃ちまくるね!ほら、汐音も続いて!」
「う、うん!」
ミクは光の魔法での攻撃を続けて、汐音も弓矢を撃ち続けた。小さいダメージだったが、マンティコアの顎に当たり続けた。
「倒れた…?」
「小さいダメージが重なった結果だね。これは汐音ちゃんとミクちゃんの協力の結果だよ」
ワウカは手練れのプレイヤーだけでなく、初心者2人の助けがあったからだと強調した。彼女なりに、記憶の無い姉と接する汐音への配慮をしているのだ。
(ワウカ…気遣いするタイプじゃないと思ってたけど…)
ワウカは彼氏募集中である事を隠しておらず、周囲を男で囲うタイプである。鼎からすれば、そんな彼女が他の女性プレイヤーに気を遣う光景は予想外だった。
「しつこいですよ!」
「そっちこそちゃんとボクと戦いなよ!」
一方で、桃香は未だにハートに対してしつこく攻撃していた。ハートの方もうんざりしながら、二丁拳銃で対処していた。
「アイツらいつまでやってんの…」
「ちょっとワウカ、何する気?」
ワウカはグローブを装備したまま、ハートと桃香の方へ向かった。鼎は、ワウカが桃香達を止めてくれるなら何でもいいと思っていたので、彼女を制止する事は無かった。
「桃香~聞こえるー?」
「今取り込み中だよ!」
桃香は目の前にいるハートへの攻撃で、手一杯だった。ワウカは桃香を放って置くことにして、ハートの方へ向かった。
「…何ですか?あの人をどうにかするので忙しいので…え?」
「あんたは聞かれても答えないタイプでしょ」ガンっ!
ワウカはハートの後頭部を、グローブを装着した手で思い切り叩いた。予想外の攻撃を、ハートは避けることが出来なかった。
「えっ?!」
(すごいな…思ったより躊躇ないね)
汐音はワウカの行動に驚き、鼎も意外な一面の数々に興味を持っていた。桃香も驚いていたが、ハートがやられた事にホッとしていた。
「ありがとう。ワウカが助けてくれるなんて思わなかったよ」
「…ギルドメンバー放って置いて、よく分かんないプレイヤー喧嘩するタイプだったんだね」
「え…だって因縁がある相手だったから…」
「今回の件…というか醜態、多分他のプレイヤーも知ると思うよ」
lunar eclipse projectはプレイヤー数の少ないマイナーなゲームである。そのせいでギルドの垣根を越えて、村社会のようなものが形成されてしまっている。
「え…ボクにギルドマスターやめろって?」
「当分ギルドに出入り禁止。ギルマスは私が代行する」
「それでメンバーは…納得しそうだなぁ…ワウカだもんなぁ…」
「ついでにギルド名も変えるから」
桃香はショックを受けて、ギルドメンバーに視線を送ったが反応は無かった。大半のギルドメンバーにとっても、桃香の事はどうでも良かったのだ。
「まぁ…一緒に活動してる事ほとんど無かったからな…」
「ワウカちゃんがギルドマスターやってくれるんなら、改善してくれそうな所いっぱいあるだろ」
「…この様子なら、放って置いても大丈夫そうだね。ギルドマスターやる必要無くなった桃香には、事件の調査に引き続き協力してもらえると嬉しいけど」
「ボクがいなくなって寂しくなる…なんて事も無さそうだしなぁ~」
ミッションは無事クリアしたが…側から見ればギルドマスターが初心者に喧嘩を売っている様にしか見えない場面もあった。“アルティメット気持ち良すぎだろギャラクシー”の評判もかなり落ちてしまっただろう…
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「あっ、アリスさん。そっちから会いに来てくれるなんて…」
「…さっきのミッション、初心者に対して攻撃しまくってた様に見えました」
ミッション終了後、様子を見ていたアリスが会いに来た。やはりというか、桃香を怪訝そうな目で見ていた。
「アリス、さっきのは…」
ーー
「えっ?!あの初心者はアナザーアースの開発者だったんですか?!」
「開発者本人じゃなくて、その娘。後声が大きい」
アリスに対しても、過去に巻き込まれた事件について多くを伝えた。鼎は彼女にも、事件の調査に協力してもらえないかと思ったのだ。
「私のところにはペルタがいるので…一切関係ないとは言い切れませんが…」
「それぞれの生活も仕事もあるし…無理にとは言わない」
アリスはギルドに加入せず、ペルタと2人でlunar eclipse projectを調査していた。それ以外の事情は、最近初めて会った鼎達が知るはずが無かった。
「あなた達の調査に協力しても良いけれど…ブラックエリアに踏み込むのは…」
「私達の調査対象には含まれてる。でも、無理について来てとは言わないから…」
「…そろそろログアウトします…色々と現実世界でじっくり考える時間も必要です」
「分かった…桃香、一旦月食エリアから出よう」
アリスはログアウトしてアナザーアースを去り、鼎達は月食エリアからストリートに移動した。鼎達は、いつも今後の方針を決める時に利用しているカフェへ向かった。
ーー
「で、これからどうする?またブラックエリアで聞き込みでも…」
「いや、私も何度もあそこに出入りしたくない…そうだ」
思い立った鼎は、早速ある人物に連絡を取ってみた。相手が応答するまでの時間は、普段よりも長かった。
「…今何時だと思ってるの…これから寝るところなのに…」
「ひょっとして、今現実の方にいるの?」
「とっくにログアウトしたよ…もう23時50分…」
「あ…その、巴の方は何か進展あるかなって…」
西園寺巴は、不機嫌そうかつ眠たそうな声で対応していた。鼎は少し申し訳なく思ったが、巴は素早く要点だけ伝えた。
「…アイリって子の目撃情報があったんだけど…本当かどうか怪しくて…」
「えっ?!水瀬愛莉が見つかったの?!」
「だからまだはっきりしてないって…目撃情報のアバターと、私が以前見たアイリで見た目が違うし…」
「…分かった。明日になったらまたメッセージ送るから」
鼎が言い終わる前に、早く寝たかった巴は通話を切っていた。鼎と同時にログアウトして寝る支度をしていた桃香は、彼女の様子を気にしていた。
「…愛莉チャンの行方が分かったの?」
「うん…でも流石に眠いし、明日にする。起きたらすぐに巴にメッセージ送る」
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