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宗形家

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~お義父さんの悩み。~

自分の恋愛運は最悪なんじゃないか…とふとした瞬間に思う。
自己嫌悪とともに出てくるのは、自分という人間の行動力の悪さ。

自分が男しか好きになれない、いわゆるホモと知ったのは高校時代。
友人たちがAV女優に興奮する中、僕はその女優を抱いている男優に興奮していた。
男優の、自分と同じ性器ばかりに目が奪われ喘いでいる女よりも安っぽい言葉で攻めている男に目が奪われた。
柔らかな女性の身体に包まれるよりも、強靭な肉体の男に貫かれることを望んでいた。
男に貫かれているのが女ではなく自分であったなら。そんな浅ましい思いをこっそり抱いていたのかもしれない。


高瀬先輩に声をかけられたのも…、そんな僕の視線があからさまだったからだろう。
高瀬先輩は、僕より5つ年上の人で、水泳部の先輩・後輩だった。
高瀬先輩は水泳部のOBであり、たまに高校に顔を出しにくる人でセンセイに頼まれ後輩も指導してくれる人だった。

ガッチリとした体躯の先輩は、水泳部でも期待されていた一人であり、大会などにでればいつも賞を取っていた。水泳界では有名な人物で、将来プロで世界を約束されるくらいのタイムも持っていた。
県の記録も打ち立てていた気がする。
僕ら後輩にとって、毎度大会に出て優勝を掻っ攫う高瀬先輩は憧れのような存在で…、
後輩だけじゃなく周りも将来高瀬先輩はプロの世界プレイヤーになるものだと羨望の眼差しで見つめていた。
常に上にたち、人よりリードしていた先輩。

高瀬先輩はそんな周りの期待に応える強気な性格な人で、良く言えば何を言われても捻じ曲げない・悪く言えば我儘な人だった。
高瀬先輩は元々、スポーツ万能でそれに見合った体躯に加え、きりっとした男らしい面持ちをしていた。水泳をしているから無駄な筋肉はないし、体脂肪は10%以下という鍛え方だ。競泳水着を身に着けただけの高瀬先輩がスポーツ雑誌の表紙を飾った日には、そのスポーツ雑誌は近年まれに見ないほどの売り上げをたたき出したらしい。

当然、もてない筈がないし、女もとっかえひっかえだ。
性格が難があるにせよ、やはり極上の男は人はほっとかないらしい。
高瀬先輩がフリーの時はもちろん、空いている席を狙う人間は多々いたし、2股でもいいから…と押しかけてくる女もいたようだ。事実、高瀬先輩は二股三股はしてきたし、時には両手で数えきれないほどの同時進行もしてきたそうだ。


「俺が好きなんだろう…?ホモ野郎。だったら…、俺の為にできるよな…?」

僕にそういったのも…、多分妊娠しないいい玩具を作るためだったのだろう。
数ある人間のひとつ。愛なんてないし、先輩は僕のことなんか知りもしない。
それでも馬鹿な僕は先輩の甘い誘いに乗ってしまった。

ただ、言いように使われていたパシリのような存在であったというのに。

男しか駄目な僕は、そこで先輩を逃すともう一生誰とも付き合えないとも思っていたのだ。
人として誰も愛せない、欠陥人形のような人間だと。

高瀬先輩は僕と違って女の人も愛せるバイだ。真剣に付き合っているのは女の方が多いかもしれない。僕はたまに、高瀬先輩が気が向いた時にだけ抱かれていた。後はただの家政婦のような真似事や金をせびるだけの関係だった。

高瀬先輩に子供が生まれ結婚すると聞いた時。
本当は離れなくては…、と思っていた。愛する人と結婚する人とこれ以上一緒にいられるわけがない。そう思っていたのに…「このまま俺の傍にいろ」という高瀬先輩の言葉に、僕の言葉は揺らぎ…、結局傍にいた。
その言葉で必要とされている、なんて馬鹿な僕は都合のいい勘違いをしてしまったのだ。


 プロで世界の大会でバンバン優勝してきた先輩であったが、23歳の時急にスランプに陥った。結婚しているというのに、日中は練習せずパチンコばかり。初めて訪れた挫折はそれまで栄光に輝いていた先輩の初めての落とし穴だったのだろう。
遅すぎた挫折は取り返しのつかないことになる。
先輩を気遣って、何人も先輩にアドバイスしたらしいが、先輩はそのアドバイスに耳を傾けず堕落した生活を送っていた。

傲慢で俺様だけど、自信満々でいつも前を向いていた先輩。
そんな先輩が堕落した生活を送っているのが嫌で、僕は今まで以上に先輩に干渉するようになった。僕がなんとかしないと…、この人は駄目になる。
そう思っていたのかもしれない。また、そんな思いが先輩にも伝わったのかもしれない。

僕が先輩に構えば構うほど、先輩は僕をストーカー扱いし、僕を邪見していた。
思えば、僕もあの時は栄光が壊れていく先輩を見ていたくなくて必死で、その思いが現れてしまったのかもしれない。先輩に必要以上に連絡をとり、後をつけたり、生活をチェックしたり…ストーカーと言われてもおかしくない行動ばかりしていた。
自分が使えるいい玩具であった僕がストーカーになって、先輩も迷惑したのか付きまとう僕とは反比例し先輩は僕を避けた。


「お前との仲が夏子にばれて離婚だ。責任とれ。ストーカー野郎」

 最後に会話した先輩は携帯越しにそう僕に一言言って姿を消した。

告げられた言葉に、今まで先輩一色のストーカー脳だった僕の頭は一気に真っ白になった。

僕という存在が、ひとつの家庭を壊してしまったという事実。
告げられた言葉に消え入りたくなるくらいの衝動に苛まれた。

夏子さんに会わなければ精神的に弱い僕は本当にこの世からいなくなるという馬鹿な真似もしたかもしれない。

 恋愛感情のようには愛せないけれど、僕という人間を受け入れてくれた夏子さん。
仮初であったけれど、僕と家族になってくれた夏子さん。

僕は夏子さんに多大な恩がある。返しても返しきれない恩が。
だから…。
高瀬先輩の実の息子・博の視線に気づかないふりをする。

若いただの思春期の暴走。そう受け止めて、やり過ごす。

「千尋…、」

高瀬先輩とよく似た面影。いつしかそれが、僕しか見つめていないことに気づいても。


「俺は…、千尋が…」

僕は、その視線に気づかないふりをする。
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