先行投資

槇村焔

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先行投資・俺だけの人。

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着替え終わった私は、蒼真に手を引かれて、路上に止めてある車へと案内された。

ちなみに、今の私の格好は、薄い長袖に白いシャツ、それから青いジーパンだ。
あまり服など気にしないから、もちろんブランドものなんかじゃなく、だいぶ前に買ったもの…。これでも私の一張羅なのだが…。

それに対し、蒼真は、ブラックの仕立てのいいジャケットにズボンを履いていた。
足が長いので、一見するとどこぞのモデルのようだ。身体の線がわかる服で、鍛えられた肉体がありありとわかる。
首にはクロスのアクセサリーもつけている。医者の癖に随分おしゃれなやつだ。

どうして、樹といい、こうも私の周りは容姿がいい人間ばかりなのだろうか。
劣等感に、足が重くなる。
樹もほどほどに筋肉はあるが、蒼真はより男らしい、筋肉質な身体をしていた。


「どうした?公久、」
「いや…自分の容姿や身体に絶望しているだけだ」
「はぁ…?」
「いや…お前も樹とはまた別の容姿の良さだから…。私が隣にいると申し訳ないというか、なんというか…」

女じゃないんだから、容姿のことでいちいち女々しいとは思うが、根強く根付いたコンプレックスはなかなか消えるものではない。
沈みがちな私に、蒼真は、ばぁか、と言い、指でピン、とでこをはじく。

「っとに、またくだらないこと考えてるな、ほら、今日はくだらねぇこと考えるの禁止な。
デートなんだから」
「デート…って、」
「二人きり、で、デートだろ。俺は下心あるし。デートでいいんだよ。
それと、今日は自分を卑下するのも禁止、だ。俺はお前をお姫様にするようにエスコートしてやるからな…」
「ば、馬鹿…」

お姫様、だなんて…。そんなキャラじゃない、私は。
もう30近いし、そんな可愛らしい性格も容姿もしていない。
進藤君みたいな、人だったら、お姫様でも可笑しくないだろうけど。
「私なんか…っ」

つい、また自分を卑下した言葉を言いそうになった瞬間、ぐに、っと、蒼真に頬をつままれた。蒼真はむすっとした顔で私の顔を掴んでいる。

「痛いじゃないか…」
「だ・か・ら、卑下するなって。あんたは俺の好みなんだから…」
「はぁ?私が私を卑下しようと勝手だ…」
「俺の好みまで卑下されたようでむかつくんだよ。公久は俺の好みドストライクなんだからな…。可愛いぜ?」
「可愛いって…」

私が?
不愛想で、何考えているかわからないと言われてきた、私が、か?

「俺の理想ドストライクって、ことだ」
「ば、馬鹿っ。目見えているのか?こんななよなよした男が好きだなんて…趣味が悪すぎる…」
「あんたもいい加減、しつこいな。可愛いものは可愛いんだよ。あんたのどんな姿でも、俺はどきどきすんの。わかったか?」
「か、可愛くないったら…。お前だってしつこいじゃないか…」
「あん?そりゃーゆずれないから、な…。公久が可愛い事は」

にやり、とからかうように笑う蒼真。からかわれているだけ…。
きっと、こいつは誰に対してもこうなんだ…。

そうわかっているのに…
何故だろう。顔の方へ血が集まり、顔が赤らむ。
あまり面識もないのに、可愛いなど…こいつは…。

年上のせいか、余裕綽々な態度もいけ好かない。

掌で転がされているようだ。むかつく。

「いくぞ…」
ガチャ、と、ドアを勢いよくあけて車の助手席に乗り込む。
蒼真はそんな私にクスリと笑い、運転席に腰を下ろした。

「それで、どこに行くんだ…」

シートベルトをつけて、今更ながらにどこに行くか尋ねる。

「ん~、そうだなぁ…、今日はゆっくりお互いを知るために話せる場所でも行くか…」
「は、はぁ?リハビリ、は…?」
「彼氏君の依存を直したいんだろ?すぐやきもちとか卑屈になるの。なら、彼氏君以外の男ともっと仲良くする、って、ことで、俺のことをもっと知って俺の事を好きになればいいじゃねぇか?」
「は、はぁ?え…?」
「ま、とりあえず、今日は話せるところ、な…。いくぜ」

蒼真は静かにアクセルを踏んで、車を動かす。
乗りかかった船だ。
多分蒼真も下手なことはしないだろう。

「公久、今日は何時まで平気なんだ?」

車を走らせながら、何気なく問う蒼真。

「…そうだな…。8時くらいまでなら…」
「8時ネェ…。んじゃ、夜の大人のデートメニューはなし、か」
「そ…そんなものはなしだ…」
「へぇへぇ」


(それに…あまり遅すぎると樹に…)

『えっと、待っててね』

はにかんだ、樹の顔。
もし、私が約束を破って帰りが遅くなれば、樹は怒るだろうか。それとも…、どうでもいいと思うだろうか。


「にしても、公久も大人なのに門限8時なんて、厳しすぎやしないか?」

私に言うではなく、独り言のように零す蒼真。
顔は前方を見たまま、ハンドルを回している。

「…樹がいるから…。樹を、一人にしたくないんだ。一人は、さびしいから…。私も昔、あまり親に構われなかったから…」
「自分は散々一人にされてるのに…か?」
「…、」

一人に、されている。
ここ最近は、ずっと一人で樹の帰りを待っている。

「そういうのって、ずるくねぇか?恋人ってのはさ、フィフティーフィフティーな関係、だろ?どっちかが我慢、とか、束縛、とかおかしくないかね?愛している、だけじゃなりたたないだろ。ままごとじゃねぇんだから…。お互いを想いあってこそ、恋人、だろ。独りよがりじゃなくて…さ」
「それは…」
「ま、いいけどよ。俺はあんたの彼氏を知らないし、これから先、わざわざ会うつもりもねぇ。だけどな、あんたの顔見てるとほっとけないし、やつれたあんたを見てると彼氏君にイラつくんだよ」
「関係…ないじゃないか…お前には…」
「ああ?っとに、口説いている相手にそんなこというかねー、普通」
「それは…」

口説かれている…って…。
私は、まだ樹の恋人、だし…。
それに、信じられる訳、ない。会ったばかりなのに、好きだなんて。

それ以上、会話をするのがいたたまれなくなり、私は視線を窓にやった。
見慣れない、施設。見慣れない、自然。

車は、私の知らない土地を走っていた。

どこまでも続く木々。どこかの公園前だろうか?
目の前には、見渡す限りの森林がある。
私は、蒼真になんと声をかけていいかわからず、蒼真は蒼真で、先ほどからむっとしたまま口を噤んでいる。
やがて、蒼真は、私が知らない土地で車を止めた。

「おりろ…」
「え…、」
「ちょっと歩くけど…まぁ、普段の運動不足解消になるだろ…、ってことで、ほら」

蒼真はそういって、シードベルトを外して、車から出る。
私もそれに従い、シートベルトを外し、車を降りた。

私が車から出たのを確認すると、蒼真は車に鍵をかける。

「…んじゃ、いくか、ほれ、」

蒼真は私の隣に立つと、手を差し出す。
咄嗟に差し出された手に首を傾げていると…

「手、繋ごうぜ、デートっぽくていいだろ?」
「なっ…、誰かに…見られたら…」
「見せつければいいじゃないか」
「はぁ?」
「ラブラブなとこ。俺は大いに結構だけど、な。公久みたいな美人とラブラブして、俺としては見せつけたいところなんだけど…?」
「…ば、馬鹿じゃないかっ…」

見せつけて何になるんだ。よくもそんな女に言うようなセリフを私に真顔で言える…。
タラシか…。

「ん?顔赤くしちゃって。照れてんのか?」
「うるさい…」
「可愛い可愛い」

蒼真は、ふんわりと優しく笑い、私の頭を撫でた。
どうも、調子が狂う。

私の事子供扱いしてないだろうか。
まぁ、蒼真にとったら、私は年下だから、確かにこの対応は可笑しくないのだが…。
可笑しくはないが…どうも変な感じ、だ。

私はいつも頼られる立場が多かったから…。

なんだかんだいいながら、蒼真は私の手を握り、そのままどこかへ歩き出す。

「どこへ行くんだ?」
「ん~い・い・と・こ」
「いい…とこ…?」
「ま、いけばわかるさ」

蒼真は行先をはぐらかし、先を歩く。

歩いているのは、どこかの森林公園のようだった。
木々が太陽の光を浴びて、キラキラと輝く。
綺麗な光沢を帯びるそれは、久しぶりに私が見る自然だった。

深呼吸でもすれば、綺麗な空気が肺へと入っていく。
自然が多いからだろうか。
山などは空気がうまいというが、確かにいつもとは空気が違う気がする。
空気が澄んでいる、ように思う。

そよそよと吹いている空気が、梅雨だというのにじめじめしておらず、気持ちがいい。
目を閉じれば、いつものモヤモヤや切羽詰った感じが消えていく。
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