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1話 藤野誠也には秘密がある
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翌朝。
誠也が探偵事務所に行くと、頬に大きな引っ掻き傷を作った流星に遭遇した。
どうやら、あの後、喧嘩はヒートアップしてしまったようだ。
流星は仏頂面で、資料に目を通していた。
「愛が重すぎると、逃げられるぞ。
ったく、女にモテモテで百戦錬磨だった兄貴はどこにいったんだか」
「おまえは、誰かを本気で好きになったことがないからそんなこと言えるんだ。
足が不自由になった俺の側にもいてくれる千歳は天使なんだ。あんな天使他にはいない」
「…天使ね…」
「おまえにもいつか愛しているやつができたらわかるさ。寝ても醒めても、そいつのことだけしか考えられない想いがな」
「……。
寒いし、俺のキャラじゃねぇよ。
俺はね、とりあえず誰かとやれればいいの。
今気持ちいいことだけやれればいいんだし。愛してるとか愛してないとか、そんなのうざったくて仕方ないし。面倒でくそくらえだね。束縛されるのなんて、絶対嫌だし
とりあえずむらむらしたら、誰かとやれればいいかなって」
「…なげかわしい…。
そんなんじゃ、いつかおまえも、今流行の“バラ”の事件に巻き込まれるぞ」
「バラの事件?」
「最近、警察の間で噂になっているおかしな連続殺人事件だ。
このまま事件が続いたら、そのうち俺にも依頼がくるだろうな…ー」
流星は、そういうと読んでいた資料を誠也に投げ渡した。
流星は、今の探偵の仕事を付く前は警察官をしていた。
事件に巻き込まれ、足が不自由になったことで、辞めることになってしまったのだ。
だが未だ流星の頭脳を頼って、警察関係者が極秘で流星に協力を仰ぐことがある。
その頭脳で、警察にいたころは迷宮入りだと言われていた事件も、いくつも解決に導いていた。
流星が警察をやめた今でも、警察内部では彼を慕うものは多いという。
流星がいう薔薇の事件とは、殺人現場に薔薇の花が置かれているという連続殺人らしい。
「この事件って、テレビのニュースでやってなかったよな?」
「箝口令が敷かれているからな。
それに、あまり上が捜査に乗り気じゃないらしい……。
おかしなことに、殺人を取り扱う一課ではなく、5課が積極的にこの事件に関わっているらしい」
「ふぅん…。ま、俺には関係ない話だな。
勝手に捜査してろや」
誠也は、渡された資料へあまり目を通すこともなく、興味なさげに流星へ投げ返した。
「お前に関係ないとも言い切れない…ーー」
「あ?なんでだよ」
「殺された被害者の1人が、俺たちが知っている男だからだ。
ほら、代議士の息子で、女を何人も襲ったクズ男いただろ。
証拠を探偵事務所で集めて、裁判を起こしたはいいものの、結局真実は葬り去られたから、変わりにお前が仕置きのしごとしただろう?」
「ああ、そういえばいたな。そんなやつ」
「お前がその男を仕置きして、その男はすっかり女は駄目になったらしくてな。
お前を求めて、夜の店を探し回っていたらしい」
「へぇ…。俺ってばモテモテじゃん。俺の夜の凄腕テクにやられたのか」
「お前なぁ……。笑い事じゃないぞ。
そいつは、お前のことを探しだしたら、監禁するとまでまわりに言ってたんだからな。
家にも怪しげなグッズが沢山あったらしいし、睡眠薬も多数あったらしい」
「俺の身体がそんなに気に入ったのかね……。いや、モテル男は辛いね。あんな女好きなクソヤロウだったくせに」
誠也が茶化して言えば、流星から冷たい視線が返される。
「その男は、セックスドラックにも手を出していたみたいで、日本じゃ禁止されているクスリにも手を出していたらしい。
だから…ーー」
ふと流星は、いいかけて「いや…やっぱり」と言葉を濁した。
「なんだよ、中途半端に言いかけて…、気持ち悪りぃな」
「いや、ただの噂だからーー」
「…噂…?」
「ある麻薬組織が、日本で危険なセックスドラックを広めているって噂だ。
強い依存性がある麻薬で、強い幻覚を見せるらしい。
今回の殺人も、組織犯罪管轄の5課が動いている辺り、背景にこのクスリがあるのではないかと、1課で話題になっているそうだ。
数年前に未解決のままに終わった、資産家の屋敷で9人が謎の死を遂げた事件も、それに関わりがあるって話でーーー」
「あー、なんかわかんねぇけど、そんなの考えすぎじゃねぇ?刑事ドラマじゃあるまいし…ーー。
ただの愉快犯なだけじゃない?
そんなドラマみたいな話、普通ねぇよ」
「他人事だな…。
お前だっていつ危険な目に合うか」
「あ?俺は薬とは無縁の気質だっての。」
「お前は使わなくても、相手が使うかもしれないだろう?」
「はいはい。気をつけますって。
まぁ、襲われても返り討ちにするけどな」
あくびをしながら、呑気に返す誠也。
流星は、だらしなく寝そべる誠也を一瞥し、深いため息をついた。
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