~短編集~≪R18有り≫

槇村焔

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金曜日は眠れない <流され年上×襲い受け>

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強面×襲い受け。
リバっぽいけど襲い受け。


==========




 夏の終わり、生温い風が髪を揺らす。
9月に入ったというのに、日差しは未だに高く焼け付くような凶悪さを秘めていた。
夕方なのに、30度を裕に越しているだろう温度の中、ただ歩くという行為にも気が滅入る。
じわり、とした汗がシャツにはりついて気持ちが悪く、不快指数ばかりが増えていく。


 添継龍馬そえつぐりょうまは、近所のスーパーで買ったビールが入った袋を片手に、だるように暑い9月の夕方、一人暮らしのマンションへと歩いていた。

のっそり、と歩く龍馬の姿は、非常に疲れきった様子を伺わせる。
眉間にシワを寄せた姿は龍馬の強面をよりひきたたせ、近づき難いオーラを纏っていた。
唇を真一文字に結んだその表情は、まるで決戦にでもいくかのようでもある。


添継龍馬。
32歳。独身。
恋人もいない寂しい独り者である。


駅から徒歩30分というマンションが龍馬一人が住む城であった。
2LDKの部屋は、龍馬一人には少し広いものの、使い勝手がよく気に入っている。
会社からも、そう遠くない場所にあり交通の便も悪くない。
都心の住宅街であるが、とても静かなのも龍馬がマンションを気に入っているひとつである。
休日などはクラシックをかけてゆったりとするのが、龍馬の楽しみでもあった。

家に居てまったりと過ごすのが、龍馬にとって癒される時間でもあったのに…


今の龍馬の足取りは、安らげる家へ帰れるといった喜びはない。
足取りだけではなく、強面で鋭い瞳が、今日はいつもの3割増しにもなっていた。
商店街で龍馬の顔をみた子供は泣き出して逃げたほどである。
今の龍馬は、チンピラが裸足で逃げるほど、その顔は凶悪じみていた。


「はぁ…」

深い溜息をはき、視線を腕時計へ移す。

自分への御褒美にとちょっと奮発して買った金のロレックスは、ちょうど夜の7時を射していた。
夜の7時など、普段だったらとっくに家に帰り、テレビで野球中継を見ている時間だった。

それが……。


「あ……」

ウダウダと考えふけている間に、いつの間にか足は自分の家の前に到着していた。

一人暮らしの筈の龍馬の家のドアは、今日は鍵が下りていなかった。

それを目にした途端、苦虫でも噛んだような渋い顔で、龍馬は唇をかみしめた。


「あいつめ…」
龍馬はそうつぶやいて、まじまじ、と鍵が下りていないドアをみつめる。
しかし、どれだけ睨んでも、現状は変わることはない。


「……ちっ…。あれほど帰れと言ったのに……」

深く眉間に皺を作ったまま、苛立たしげにマンションのドアノブを握る。
しかし、龍馬がドアをあける前にガチャリ、っと握っていたドアノブが回った。


「あ、龍馬さん」
龍馬の姿をみとめると、家から出てきた男はにこりと満面の笑みを浮かべた。
龍馬が家に帰りたがらない元凶。
実は、その元凶たる人物は目の前の男にある。


「お帰りなさい。りゅ・う・ま・さ・ん」
「な……」
「お風呂にする?
ごはんにする?それとも…俺?」


龍馬の強面な顔が、ポカン、と一瞬間の抜けた顔になった。
龍馬の家から出てきたヒラヒラのピンクのフリルのエプロンをきた男に、度肝を抜かれ反応が遅れた。

イケメンのピンクのエプロン。
どんなプレイだ。


「なんの真似だ」
「なんの?
このフリルエプロンのこと?
新婚さんごっこかな?ね、かわいいでしょ、俺」


ピンクのふりふりエプロンを身につけ得意そうに男は笑う。
男のフリルエプロンなど、気味が悪い。
気味が悪いに決まっているが……

不思議と、目の前の男にそのフリルエプロンは似合っている。
龍馬よりも背は低いが170は過ぎているはずなのに…
男が中性的な整った顔立ちで、しかも髪の毛も肩くらいまで伸ばしている為か、さほど違和感がない。
これが龍馬であれば、子供はトラウマで泣き出すかもしれないが、目の前の男は着こなしている


呆然としている龍馬と対して、現れた茶髪の男は腕を組み家の中へと促す


「さぁさ、そんな場所にいないで~中へ入って。

あ・な・た。
お風邪をひいてしまいますわん」

「あ、あなっ……
は、離せっ!
く、くるなと言っただろうっ!」

迫り来る男に、龍馬は真っ赤になって怒鳴った。


「何故家に上がりこんでくるんだっ」
「やだ、あなた。妻の顔をお忘れなの?」
「妻?俺に妻などいないっ」
「いやだ、私をおわすれなの」

くねっと身体をくねらせて尋ねる男に、龍馬の眉間の皺は深くなっていく。

「ふざけるな」

玄関先と言うのに、龍馬は近所迷惑など顧みず、剥きになって男に怒鳴りつけた。

「んもう、かわいいんだから。でもね、龍馬さん、今よるだから、静かにしないと、メッダヨ」
「だ、誰のせいだ、誰の…」
「うーん、俺?」
「疑問にするまでもなくおまえだ」
「あはは、俺のせいなの…。
そりゃ、まいったね」




龍馬は不機嫌全開で男を睨みつけたが、男に気にした様子はない。
突然黙ったかと思えば、くすりと小さく笑む。

「な、なんだ……」
「やだなぁ、龍馬さん。
俺の名前忘れちゃったんですか?
あんたじゃないですよ。
俺の名前は東矢。三原東矢。

あんたが数年前付き合っていた綾子のおとーと。
そんでもって…」

男…東矢は挑発的に龍馬に口端をあげ笑ってみせる。
薄い唇は、緩やかな弧を描き、目は誘うように細められ艶めいている。
含みをもったその表情は、男をたぶらかす小悪魔を連想させた。


「一ヶ月前から……、言いましたよね?

金曜日にあんたを俺の自由にするって。
俺、あんたじゃないとぬけなくなりました、責任とって、って言ったよね?」
「なんっ……つぅ……」

龍馬の言葉を遮るように、東矢の唇が重なった。
息をつく暇がない激しいキスを繰り返される。
「貪る」という言葉がぴったりなソレは、考える思考すらも奪われる。

舌先で唇をこじ開けられ、ズカズカと口内へ侵入してきた東矢の舌は、まるであやすように龍馬の舌と戯れた。

「ふっ……んん」

龍馬はそのキスに溺れながら、ぼんやりと東矢との出会いを思い出した。





 数ヶ月前のその日。
龍馬は、グダグダに泥酔していた。

というのも、接待相手にひたすら酒を呑むことを強要されたからである。

この接待相手が、なかなかいけ好かない相手で、飲み屋について早々、強面の龍馬の顔が気に喰わないと面と向かって言い放ち数々のパワハラを受けた。

 龍馬の会社は最近業績を伸ばしているものの、まだまだ大手とは言い切れない。
なので、大手の契約は絶対であったし、その日の接待相手に対しても始終低姿勢でいたのだが…


『君の従兄弟である先代社長は、私に足を開いてまで仕事を取っていたが。
…君には、なにができるというんだ?君も足を開くと?私はすきものじゃないんだがね』


接待相手の侮蔑めいたその一言に切れて、接待を無理矢理打ち切った。


 サラリーマンとは時に理不尽な要求も答えなくてはいけない。
ましてや、龍馬は従兄弟に無理矢理任されたのだが社長である。
会社は大きくもないが、けして小さくもなく龍馬の下には、たくさんの部下が働いている。
取引相手は世界に名だたる会社であり、どれだけ呑まされようと龍馬は耐えていたのだ。
侮辱めいた一言を相手がいうまでは。


従兄弟あいつはあんたに身体を開いて仕事を貰っていたのかもしれないが、俺はそんなことしない。仕事の話でなければ帰らせてもらう』

結局、接待が終わったのは夜の2時未明であった。


「福末の野郎」

公園のベンチに寝そべりながら、龍馬がつぶやいたのは、接待相手ではなく、一緒に接待に同行した部下の名前だった。

龍馬が恨めしく呟いてしまうのも仕方のないことで、接待中は始終、副末は取引相手の顔色をうかがうばかりで社長である龍馬がどれだけ酒を呑まされ具合悪そうにしていても気にかけることもなかった。
仲間であるはずの部下に見捨てられた感じである。


 副末は龍馬が社長に就任してから冷たくなった。
昔は仲がよかったのに、今では口を合わすと小言ばかりである。

きっと、彼は龍馬が社長ということが気にくわないのだろう。
彼は元々、龍馬の従兄弟と仲がよく、彼を慕っていたようだったから…
元々社長の座も龍馬ではなく従兄弟のものであった。
しかし、ある日突然従兄弟はなんの前触れもなく龍馬と福末の前から姿を消した。


龍馬を社長にする、と書き置きを残して。

それ以来、福末は変わってしまった。


人は、変わってしまうのだ。
龍馬の昔の恋人である三原綾子もそうだった。

付き合い始めた頃はほわほわとした世間知らずなお嬢様だったのに、付き合って数年たち、彼女は誰彼構わず抱かれ浮気する女へと変わってしまった。


副末も、綾子も、従兄弟も。
みんな、変わってしまった。

変わって欲しくないと、願っても、月日は人を変えた。


「俺は……変わって欲しくないのに。
そのままが…いいのに。そう思うのは我儘なのか…おかしなことなんだろうか…」

ぽつん、と言葉を零す。

「俺は…」
「失礼ですが…」

寝そべっていた龍馬に声がかかった。
甘さを含んだ色気のある声。
酔っ払いに声をかけるなんて…警察か…。

龍馬は未だに重い頭を動かし、声がした方をみやる。


「だ…誰だ……」
「誰だ、ね……。
そんな事より久しぶりだね。龍馬さん」
「誰……」

見に覚えのない顔に首を傾げる。
東矢の事など、記憶の彼方へと消え去っていた。


三原東矢は、龍馬が昔付き合っていた女の弟であった。
 
綾子は妖艶な女性で、甘え上手な彼女と東矢は目元がとてもよくにていた。
龍馬が三原綾子と付き合っていたのは大学時代のこと。今から十年近く前の頃である。
龍馬も綾子の家に赴いたときには、東矢をみかけたこともあったのだが、直接話をしたのは数回ほどでこれといって、親しくもなかった。

なので、綾子と別れてから今まで一度も思い出すことはなかったのだ。




「誰…」
「誰…ね。あんたを知っている人だよ。まさかと思って声をかけたんだ。どうしたの?龍馬さん」
「………」
「あんた、酒弱かったっけ?こんな潰れるほど酒好きでもないだろう?」
「誰だか知らんがほっといて、くれ」

龍馬は拗ねたように目をつぶった。


「ふぅん、ほっといていいの?」
「俺が風邪ひこうと何しようとどうだっていいだろ?もう、どうだっていいんだ」
「…………」

ヤケになったように龍馬はそう口にすると、視界を覆うように額に腕を当てた。


「へぇ…じゃあ、今夜ナニがあろうと…どうだっていいよね?」
「は?って……」

いいながら、東矢は龍馬の腕をひく。

「な、なにすんだよ」
「家は……変わってないよね?んじゃいこうか」
「は?ちょっと……!」

そのまま、東矢は龍馬をお持ち帰りし……身体の関係を強要され、今にいたる。

龍馬の保身の為に言うと、龍馬は抱かれる方ではなく、東矢が抱かれる側だったのは不幸中の幸いか。


真面目であまり女とも付き合った事がなく、もちろん男とも付き合った事がなかった龍馬にとって、東矢のことは衝撃的な出来事であった。

相性が良かったのかもしれない
淡泊な筈の龍馬が、東矢に至っては何度も東矢の中で果ててしまったのだ。
事が終わると、東矢は晴れ晴れとした顔でこう言ってきた。


「龍馬さんも楽しみましたよね?龍馬さん、今フリーですよね?
なら、俺の旦那様になりませんか?金曜日…金曜日と土曜日だけでいいんで」


当然申し出を嫌がる龍馬に東矢はOKを出すまで、その身体を攻め抜いた。

精も根もなくなった龍馬はしぶしぶ東矢の申し出を呑む事にしたのだ。





いつか飽きる。
人はいつか変わる。
その時を待てばいいんだと、僅かな望みを抱いて。


何故金曜日と土曜日なのか、と尋ねると、会社がある平日は龍馬さんも休むと大変でしょ?足腰とか…と笑いながら言っていた。

「金曜日と土曜日は寝かせませんから。
特に金曜日は」


東矢の言葉通り、東矢は通い妻の如く金曜日になると龍馬の家に侵入し、龍馬を襲う。

龍馬の上に乗りかかり、龍馬を喰うように抱かれていくのだ。


ここ最近は金曜日の夜はほぼ寝ていない。
東矢とのセックスに明け暮れて。



「ん…っ」
「龍馬、さん…」
「やめろ……ここ、まだ玄関だぞ……」


長い間口づけをされていた為、息も絶え絶えに龍馬は東矢を咎める。

東矢は唇を尖らせながらも、龍馬の耳元へ顔をやり


「じゃあ、家の中なら……どれだけ襲ってもいいんですね?」

と囁く。
フェロモン垂れ流しの東矢に、龍馬の前進の血が騒ぐ。
教え込まれた快楽は、ふとした瞬間に瞬時に蘇った。

「龍馬さん?」
「す、好きにしろ……」


龍馬は赤くなった顔を見られぬように、俯きながら自分の部屋へと入っていった。

身体が快楽に、流されているのかもしれない。

じゃなかったら、同じ男を抱くなんて真っ平だしましてや、自分の家というテリトリーに進入させないのに。


なのに………


『俺は…なんでこいつを抱いているんだろう……』

「…龍馬さん……」

うっとりと、熱に浮されたような声で東矢は龍馬を呼ぶ。

龍馬は東矢にされるがまま、熱い口づけを感じていた。

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