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8章
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『仁さんって、狼みたいだね…』
いつの日か、駿は俺にそういったことがある。
確か、情事後。寝そべる俺の髪を指に絡ませ弄びながら、
『真面目で、孤高って言葉が似合う…少し頑固だけどまっすぐで…』
駿は俺を狼に例えた。
狼の様に、強くもないのに…。
言いたい言葉もいえない、いくじなしな男なのに。
『仁さんは、狼みたいな人だよ…』
駿は何故か俺を狼と例えた。
***
いってきます。いってらっしゃい。
おかえりなさい。ただいま。
そんな当たり前のやりとりが出来る相手がいて、その相手が自分が好きな人だったら。
そんな毎日をずっと送れていたら。
それって幸せなことですよね。
何気ない毎日って気づかないだけで、本当は何より大切なもんなんですよね。
グダグダに酔った後輩がしつこく滑舌も曖昧に周りの騒音もものともせずに、大声で俺に絡んだ。
「おい、べとべととくっつくなって…」
「ああん、先輩…」
べったりとひっつく後輩を無理やり引きはがす。
商店街近くの大型チェーン店の居酒屋。
今日は金曜日だからか、店内は少し混んでいた。
大学生らしい若い集団が大声で話している。
人数は、1スペース貸し切るくらいいるようで、先ほどから笑い声が絶えない。
しかし後輩はこの喧噪でも他の店で飲みなおす気はさらさらないようで、ぐだぐだとくだをまきながら俺につっかかっていた。
あまり後輩は酒に強くはないのだが、今日はとことん飲みたい気分らしい。
先ほどから急ピッチで酒を頼んでいた。強くもないのに大量に酒を頼んでいるせいか、顔はタコの様に真っ赤に染まっていた。
「うう…俺は、本気だったんすよ。本気で…」
「あ~。そうかそうか…」
後輩の泣き言におざなりに相槌を打ってやる。
どうやら後輩は予てから付き合っていた子に振られたようで、それまでの愚痴が言いたかったらしく、仕事が終わるや否や俺を呑みへと誘った。
この後輩には一応それなりに恩があり、『俺もう飲まなきゃ駄目っすっ』と必死の剣幕で泣きつかれれば、断ることはできなかった。
後輩の方は彼女にべたぼれだったものの、彼女は別の男を好きになったと彼を振ったらしい。
まりんに振られたとき、俺もこんなヤケクソみたいな感じになっていたんだろうか。
あの時はただ自暴自棄になっていて、周りが見えなかったものの、もし後輩みたいな荒れ方をしていたのだとしたら、きっと自分で思うよりも数倍周りに迷惑を蒙っていただろう。
突然の誘いだったので、駿には今日は夕飯いらない、というメールだけは残しておいた。駿からはすぐに了解、と一文返事がきた。
駿は仕事が終わればすぐに帰宅して食事を用意してくれる。自分も疲れているだろうに、俺の分まで手のこんだ食事を用意してくれるのだ。本当は一緒に住んでいて生活費も貰っているのだから俺も料理をするべきであるが…駿の料理にすっかり慣れてしまった俺は今更自分の料理を作る気も起らず。駿が「僕料理好きだから」という言葉に甘えに甘えまくっていた。
しかしここのところ、駿は体調を崩している。
あまり食事も食べていないようだった。
給料前なのに、後輩の誘いに乗ったのもそんな駿に少しでも楽してほしいが故だった。俺が後輩と飲みにいけば、夕飯は作らなくて済むし一人の時間も増えてじっくりと休むことができると思っての事だ。一緒にいればあれこれ…と世話を焼いてくれるから。
ビールも3、4本あけて少し身体に酔いが回るころ。
あまり酒に強くない後輩はもうべろべろの泥酔状態になっていた。
顔は赤いし呂律は回っていない。喋る口調も乱暴で自分の声のボリュームをわかっていないのか非常に大きな声だった。
「だからね、俺は…」
ああ、またこのフレーズか…とウンザリしながら、コップに口をつける。
何時間も彼女についての愚痴を聞かされていた。
いい加減、俺も飽きていた。
酔っ払いだからか何回も同じ話をリピートし、俺に返答を求めてくる。
初めはちゃんと慰めてやろうとしていたが、彼女が別の男に寝取られたくだりを8回続けられたらさすがの俺もげんなりした。
俺はまりんに振られても誰にも愚痴を吐いたりせずに、勝手に落ち込んでいたけれど、後輩はとにかく話して憂さ晴らししたいらしい
ついでに、後輩がこうしてふられるのは、一度のことではなかった。
その度に呑みに誘われ愚痴を聞かされる。こうして律儀に彼の話に付き合っている俺もなかなか人のいい先輩といえようか。
*
「先輩が羨ましいです、俺」
彼女のことを延々と話し続けていた後輩だったが、不意に声のトーンを落とし呟いた。
「羨ましい…か」
「はい。もてるし…」
もてる…か。後輩の言葉に苦笑してしまう。
今までの人生で付き合ってきたのは、まりんだけだ。
そのまりんには長年思い続けた挙句に振られてしまっており、後輩が羨ましがるような恋愛事情はない。
沢山恋愛している後輩のほうが場合によっては、〝恋愛〟を満喫しているかもしれない。
まりんと付き合っていた時を後悔はしていないものの、あの頃が楽しい恋愛だったかと尋ねられればけして、楽しいだけの思い出だけというわけでもなかった。
「俺もお前と一緒で全くもてないんだけど…」
「またまたぁ…。嘘ついちゃって」
「嘘ね…」
まりんと付き合う前は、母さんの看病で忙しく、母さんが死んでからはまりんばかりを追っていた。
もし、母さんの事で病んでしまいショックで倒れた時、あの時もしまりんが俺の見舞いに来なかったら、俺はまりんに恋していなかったんだろうか。
あの優しい手がなければ、俺は今頃どうしていたんだろう。後輩が言う様にまりんじゃない別の誰かと恋に落ちていたんだろうか。
考えたところで、今更、たらればな話である。
どんなに想像したところで今現在は変わらない。
「絶えず恋人いたんじゃないんすか」
「いないいない…。いまも…」
今、一番恋人に近い位置にいるのは駿だけれど…、恋人同士ではない。
駿は甲斐甲斐しく俺の世話をするものの、好きだとか付き合ってほしいと言われたことはない。
泣いている駿に好きだと告げたけど、駿は俺に対しての態度を変えなかった。
俺がまだまりんに未練があると思っているからだろうか。
あの写真たてを自分の手で捨てることができれば、駿は笑ってくれるんだろうか。
昔のように。
まりんなんて関係なく、一から関係をはじめることができれば。そうしたらこの歪な関係はきちんとした形になるのだろうか。
「イケメンだし、高身長、仕事真面目。しかも出世街道まっしぐら。
更にいい彼女がいて…」
「か、彼女…?」
「そうそう、スッゴイでろでろな彼女いるんでしょ?
ネタはあがっているんですよ…」
「そんなん…」
「それに、先輩なんか発散しているせいか肌つやつやしてますし…」
後輩の言葉に、ごほっと咽びかえった。
汚いですよ…と後輩は顔を顰めて遠巻きにおれを見つめる。
「彼女なんて…」
「いないって?またまたぁ。スッゴイ溺愛の彼女がいるって噂になってますよ」
「噂…?」
「そうそう。
この間、急いで帰ってきた日があったじゃないですか。いつも残業してもなんともないです…って仕事の鬼な先輩がその日は急いで帰って…。
ちらちらと携帯を気にしているようだったんで、課内じゃ噂になりましたよ。主に噂好きの女子の…ね」
急いで帰った日というのは、駿が俺に電話をかけてきた日のことだろう。
あの日は確かに自分でもびっくりするくらい平静ではいられなかったが、まさか噂になっていたとは。
目ざとく見ていた課内の人間に脱帽する。
俺みたいなつまらない人間すらもしっかりと観察するくらいだから、課内の女子の観察力は相当なものだろう。
「先輩を狙っていた課内の女の子は、もうがっかりで…。
逆に男からは先輩も愛の前ではでれでれになるんだなぁ…って称賛してましたよ」
「愛の前って…」
「愛ですよ、愛。
先輩一回すっごい落ち込んでいたことあったじゃないすか。
自分ではちゃんとしているつもりでも成績落ちていたし。
たまに目の下に隈作りながら仕事やってたんすよ。顔色も悪かったし、いつ倒れるか…って実は同僚とかけてたっす。
あ、俺は先輩は倒れないの方にかけたっすよ」
まぁ倒れちゃいましたけどね…と後輩は人で賭けていたことを悪びれもせずに言った。
「お前なぁ…」
「もう先輩駄目かな…って入院した時に思って。
でも入院した後、急に先輩落ち着きましたよね。なんていうかな…余裕が出た…みたいな。
着ているワイシャツも、いっつもアイロンきいてますし。
先輩、アイロンかけなんて、やれないでしょ。
ネクタイだって、接待かお偉方と会うときぐらいしかしっかり結ばないでゆるゆるで形悪かったし。
それまで…、その先輩ってしっかりしているように見えて、ちょっとずぼらだったし。
なんかたまに苛々してたし。
変なところでミスしたり、しっかりしているように見せて、落ち着きなかったし」
「酷い言われようだな…」
苦笑しながら、ビールを口につける。
後輩の言うとおりであったので、ただただ苦笑を返すことしかできない。
「それがいつからかな…。急に服装もきちんとして、あまり怒らなくもなったし、誰かがミスすればフォローするくらいのおおらかさもあるし…。
それって、新しくできた彼女さんのおかげっすよね」
羨ましいっすよ…と、呟きながら、後輩はぐいっとビールを煽った。
「正直、あの時の先輩俺、キライでした。
もう最低男かってくらい、人の気持ちを無視して横暴で」
「ははは…。そんなにか…」
「はい。そんなにです…。
だから、入院後の変化にびっくりして…。彼女でもできて、支えてんのかな…って思ってました」
まりんが去ってやさぐれていた日々。
入院後、それまでのイライラを駿にぶつけた。
時に、どうでもいいことをあてつけのように言い、駿を苛んだ。
一緒に生活を始めた時は意地になり、ロクに喋りもしなかった。そんな俺なのに、駿はいつも傍にいてくれた。
《あ、の…、美味しい…ですか…? 》
《仁さんに、美味しいって貰えて…良かった…。
初めて…、美味しいって…言ってくれた…》
いつだって駿は、俺の為になんでもやってくれていた。
自分の為だといいながら。誰よりも俺の為に。
「そんなに…変わったか…?」
「はい?」
「俺は、そんなに変わってたかな…?」
周りも気づくくらい、俺は変わったのだろうか。駿といて。
口元に手をあてて、思案する。
「自分じゃ気づかなかったんですか?
案外自分じゃ気づかないものなんすかね。
きっといい人がいるんだねって…課長ですら話してましたよ。先輩をいい男にさせるくらいのいい彼女がいるんだねって…。
やっぱりいいですね、男を支えてくれる女の人って。」
にっこりと大仏のような顔の後輩が、目尻を下げて微笑んだ。
「先輩がここまで変わるくらいです、その彼女は先輩のことそれだけ愛してて…先輩もそんな彼女を愛してるんすよね」
後輩の笑みが、ちょっと気恥ずかしくて、手元にあったビールを一気に煽った。
「愛してる…」
「ええ。相思相愛だと思うッす」
相思相愛。
俺が思うように駿も俺を思ってくれる…?
駿も俺と離れたくないと思ってくれるだろうか。
「俺、彼女におおかみみたいって言われた事、あるっす」
「おおかみ…?そんなけだものだったのか?」
茶化すようにそう返せば、後輩は怒ったようにちがうっす!と返す。
「狼みたいに情熱的だったってことっすよ!
先輩、狼がいかに純愛に生きる生き物か知っていますか!」
「しらん」
「いいですか、俺が教えてあげます。
まず狼ってのは非常に愛情深い生き物なんっすよ。
他に鷲とか鷹とかも愛情深いっす。
猛禽類はわりと一夫一妻が多くて、妻が生きている時は他が見えないんすよ。
っと、今は狼のことっすね。
狼と犬は姿は似ているようで中身はちょっとちがうっす。
犬と大きく違うのは、交尾の相手を選ぶことっすかね。犬は選ばないらしいっす。
あと、別に番オンリーってわけでもないっす。
引き替え、狼はこれだ…って相手を番にするらしいんすよ。
ちなみに、相手への求愛行動も長くて数週間にも以上にも及ぶっす他の雄に雌を奪われそうになれば、戦ったりするんすよ」
「へぇ…」
「だから、男は狼なんて嘘っすよ、嘘。
浮気もしないし、一途なんっす。
狼ってつがいになると、殆どの時間を共に過ごすらしいっすよ。子育てもするし。
雄は獲物を雌にプレゼントすることもあるらしいっす。
ちなみにおしどりは浮気性の鳥っす。おしどり夫婦なんて言葉もあるのに」
「へぇ」
「死ぬまで、番だけを愛し愛される生き物なんす。猛禽類と狼は」
番だけを愛し愛される…番。
死ぬまで一生傍にいる。
死ぬまで一緒に傍にいたい相手…。
そんな熱病みたいな思いを抱くひと…。
ふと、脳裏に思い浮かぶのは…、ただ一人だった。
「番みたいな相手、探せたらいいっすよね」
「ロマンちっくだな」
ずんぐりむっくりした身体の…、大仏みたいなやつなのに。
言っていることは情熱的でロマンチックだ。
「そうっす。俺はロマンチックなんっす。そのときそのときを本気でその人を愛してるんですよ」
「そっか…」
「あいつは…俺の運命の相手じゃなかったっす。
番みたいにはなれなかったんすよ。
お互いがお互いに大人になれなくて…、結局うまくいかなかった。
二人してずれた距離を見ないふりをしていた。
寂しいけれど、これでいいのかなとも思います。これで、前に進めるから…」
「前に…」
「俺、今日であいつを思うのやめるっす。
また次の相手に振られたら先輩に泣きついちゃうかもっすけど。
今日まで付き合ってきたあいつのことは、もう、諦めるっす。
あいつが、悔しがるくらい、もっといい恋がしたいですから。
俺を振って後悔するくらい。
俺を捨てなきゃよかったっていうくらい、みんなが羨むくらいの番のような相手を見つけたいっすから…」
後輩はきっぱりとそういいきって、微笑んだ。
そこには、ぐだぐだ彼女のことを言っていた先ほどまでの顔とは違う。
どこかふっきれた顔をしていた。
「前に…か…」
いい加減、俺も前に進まないといけないかもしれない。
駿と暮らし始めてもう1年はたつ。
俺も、そろそろ駿の気持ちをちゃんと理解したいと思っていたし、俺自身駿に気持ちを知ってほしかった。
俺がいつの間にか駿を誰よりも思っていることを、他でもない駿に伝えたかった。
後輩の言葉で背中を押された気がする。
これからのこと、それをちゃんと考えて俺も前に進まなくてはならない。
いい加減、俺も腹をくくる時期だろう。
「さんきゅ」
「はい…?」
「俺も、ふんぎりついた。
お前のおかげで…。だから、さんきゅ」
礼を言えば後輩は「なんかわからないけど、どういたしまして」と酔った赤い顔をそのままに、俺に返事を返した。
後輩と居酒屋で別れたあと、家までの道をぶらぶらと歩いていた。
後輩はあまりにもべろべろで、タクシーを呼んでいた。
先輩も…とタクシーに誘ってくれたが、それはことわった。
酔いを醒ましたいのもあり歩きたい気分だった。
月明かり。
ほんのり酔いが回った身体に、その季節にしては少し冷たい夜風が気持ちいい。
歩きながら、後輩がいっていた言葉をぼんやりと思い出していた。
『あいつは…俺の運命の相手じゃなかったっす。
番みたいにはなれなかったんすよ。』
番。
きっと、まりんとずっと付き合うようになっていてもいまのような落ち着いた気持ちにはなれなかったと思う。
ふわふわと、蝶のように男の元へと飛び去るまりんに俺は不安になり、まりんはまりんで愛が足りないと不満になって。
お互いがお互いに足りない部分を他で補い、少しずつ距離ができただろう。
俺が求めるものをまりんは持っていなかった。
まりんに対し、ドキドキと胸を高鳴らせることもあった。
それが恋だと思っていた。
このときめきが、ただの憧れだとは思わなかった。
駿という存在が近くにいる今ならわかる。
俺はまりんを芸能人に恋する女のように、まりんに勝手な理想を押し付けて勝手に恋していたつもりになっていた。
そこに愛なんて、ない。
まりんに愛されていないと嘆いていた俺だったが、本当は俺自身も勝手な理想を押し付けてまりんを愛していなかったのかもしれない。
『ずっと一緒にいるわ』
その言葉を意固地になって信じ続けた。
あの手を失いたくないと思ったから。
でも…、今はあの手以上に大切なものが俺にはある。
『お互いがお互いに大人になれなくて…、結局うまくいかなかった。
二人してずれた距離を見ないふりをしていた。』
まりんと、俺。
結局おとなにはなれなかった。
互いを気遣う、そんな関係には。
そう今気づけたのも、駿のお蔭だ。
俺が落ち着いた気分でいられるのも。こうして、まりんのことを考えられるのも。
『今日まで付き合ってきたあいつのことは、もう、諦めるっす。
あいつが、悔しがるくらい、もっといい恋がしたいから。
俺を振って後悔するくらい。
俺を捨てなきゃよかったっていうくらい、みんなが羨むくらいの番のような相手を見つけたいっすから…』
駿の手をとれば、もう元に戻ることはできない。
もしも駿との付き合いが周りにばれれば、周りは白い目で俺たちを見るだろう。偏見だって凄い筈だ。
駿の身体はふたなりであり、けして女のモノじゃない。
それでもいいのか…?
それでも、ずっと駿を愛していけるのか?
自問自答する。
答えは自分の中ではほぼ出ていた。
ふと、視線の先、少し急な坂道に一つの黒い人影があった。
荷台のようなものを押しゆっくりとした足取りで登る影。
影は小さく、暗闇であってもそれは女か子供だと判断できた。
こんな真夜中に…?何故だかその影が気になってしまい、その影のあとを小走りに近づいた。
近づくと次第に荷台とヒトカゲがはっきりとしてくる。
荷台はベビーカーで、影は女のものだった。
女はベビーカーをひきながら、重そうな袋を2つ、手に提げている。よろよろ…と足取りはおぼつかない。
「あの…」
重い荷物を持ちながら、こんな真夜中に女一人歩いているというのはあまりにも不用心であり、心配になったので、つい声をかけた。
「え…」
ベビーカーをおしていた女が立ち止まり、振り返る。
「じん…」
ベビーカーをひいていた女は…、もう一生会えないと思っていたまりんだった。
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