槇村焔

文字の大きさ
上 下
12 / 50
3章

12ーside駿

しおりを挟む
■■■■■■3■■■■■■
駿side

 仁さんの家に無理やり押しかけて、同居させることを了承させた僕。
僕がまず最初にやったことは部屋の掃除と、仁さんの生活改善からした。

 非力な僕なんかに押し倒されるくらい弱っていた仁さんは、こと健康に対してはルーズであった。

 お酒はのむし、夜更かしもする。
休日は家でゴロゴロし、運動なんかしない。ご飯だってコンビニ弁当がほとんどだ。
仁さんは僕が知らないうちに、煙草を吸うようになっていたようで、イライラすると日に何本も吸っていた。
休日はソファーでごろごろしながら、煙草を加えたまま、スマホ片手に1日をおえることも多かった。
服装も簡単なTシャツやジャージ、それかださいスウェットがほとんど。

 真面目でいつもカッチリしていた仁さんも、人が見えていないところでは、だいぶ緩んでやさぐれていた。


「仁さん、それ、今日で何本目?
そんなに吸わないでよ!部屋がけむくなります!」
「…嫌なら出ていけばいいだろう…」
「そんな問題じゃないの!タバコなんて百害あって一利もないんだから。
お金の無駄!タバコなんて辞めて、ガムでも食べてよ。頭とかスッキリするよ」

家ではよく注意する僕。それをうるさそうに交わす仁さんというのがお決まりになっていた。
一緒に住むようになってわかったことだけど、仁さんは実は凄く子供っぽかった。
すぐふてくされたり、むきになったり。

無理矢理居候を承諾させたけど、仁さんはできるだけ僕とは顔をあわせぬように、休日は自分の部屋に籠もっていた。顔をあわせればお小言を言う僕を、内申では凄く追い出したいと思っていただろう。


仁さんは無理に追い出すことはなかった。
ただ必要以上に干渉せず、僕が部屋を掃除しても料理を作っても何もいわず黙っていた。

仁さんは、僕の前ではふてくされている態度はとるものの、基本的には激しく怒ったりすることはなかった。
僕がやることなすこと、無関心を貫いている。
仁さんは昔、テニスやゲームという趣味もあったはずなんだけど、まりんと別れて以来色んなことに無気力になっていた。

ただ、僕がまりんのものを捨てるときは激怒していた。ふっきれた…と、友達にはそういっていたものの、本当は全然ふっきれていないのだ。

「俺のものだ。俺のうちだ…勝手にするな…」

そう忌々しくいって僕の頬を叩いたこともある。
叩かれた頬がじんじん痛み、ショックを受けたけど、僕も負けじと仁さんにビンタを入れた。

「うるさい…!こんなものあるから、いけないんだ…!悔しかったら、自分で捨てろ!」

まりんのものを捨てるのに、それから何度も仁さんと喧嘩した。捨てたがる僕と、残したがる仁さん。

「捨てればいいんだろ…。捨てれば…」

僕が文句を言い、逆上した仁さんは、ある時初めて自分の意思でまりんが残したものをゴミ箱に投げた。
投げ捨てられたのは、まりんに与えた指輪だった。
まりんに置き去りにされ、捨てられた仁さんに重ねられた指輪。

それだけは捨ててほしくなかったから、指輪だけは僕が貰った。
まりんへのプレゼントだったけれど捨てられた指輪は、僕にとって仁さんに重なって見えたから。


「この指輪、僕が貰っていい?」
「なんでそんなお古の指輪なんか…」
「いいの…これで。ね、いいの?悪いの」
「俺はもう捨てたんだ…勝手にしろ…」
「うん、勝手にする」

ゴミとして捨てられた指輪が、僕のものになった日。
まりんのお古だったけれど、その指輪は僕の宝物になった。


 仁さんの為に、掃除だけじゃなく料理もした。
簡単な料理だったら本など見なくてもすぐできる。
高校の時からいまの飲食店でバイトもしてきたから、レパートリーだって少なくない。
ただ家を出たいという一心で飲食店のバイトをしてきたけれど、今ではやっていて良かったと思う。


 僕がやることになにも言わない仁さんだけど、本当に勝手にしろ…って感じで、用意した仁さんのぶんの食事を作ってもなかなか食べてくれなかった。


食事をとらず、僕に冷たくあたりつづければ、僕が嫌気をさしてこの家からでていく、そんな算段があったんだろう。

そんなことじゃ、僕は出ていかないのにさ。

冷たく当たり、子供っぽくふてくされる仁さん。
そんな仁さんに母親の様に叱り本心を隠して傍にいる僕。
しっかりした仁さんのちょっとだらしないところ。
きっとまりんにも…ほかの女の人にも見せられない、だらしない姿。
わがままでも子供っぽくて偏屈な仁さんも。たまらなく愛おしいと思う。
どんな仁さんも、全部好きだなぁ…なんて、そんなことを言える自分を僕は呆れつつも誇りに思うのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嘘〜LIAR〜

キサラギムツキ
BL
貧乏男爵の息子が公爵家に嫁ぐことになった。玉の輿にのり幸せを掴んだかのように思えたが………。 視点が変わります。全4話。

知らぬが仏

キサラギムツキ
BL
正妃付き護衛騎士視点の国王夫妻の話。はじめだけシリアス風ですが、コメディーです。

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

記憶喪失の君と…

R(アール)
BL
陽は湊と恋人だった。 ひねくれて誰からも愛されないような陽を湊だけが可愛いと、好きだと言ってくれた。 順風満帆な生活を送っているなか、湊が記憶喪失になり、陽のことだけを忘れてしまって…! ハッピーエンド保証

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

エル
BL
(2024.6.19 完結) 両親と離れ一人孤独だった慶太。 容姿もよく社交的で常に人気者だった玲人。 高校で出会った彼等は惹かれあう。 「君と出会えて良かった。」「…そんなわけねぇだろ。」 甘くて苦い、辛く苦しくそれでも幸せだと。 そんな恋物語。 浮気×健気。2人にとっての『ハッピーエンド』を目指してます。 *1ページ当たりの文字数少なめですが毎日更新を心がけています。

ハッピーエンド

藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。 レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。 ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。 それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。 ※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

処理中です...