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永遠編
126.冬の日の別れ
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あれから少し冬の色が強くなり、俺はすっかり穏やかな日々を過ごしていた。
あの日以降、桐矢が俺の護衛に新たに加わった。パオロとヴェネリオとも仲良くやっているようだ。歳も近いから、気が合うんだろう。友達に護衛してもらうってなんか申し訳ないような複雑な気分ではあるけど、結構話せるからそこはとてもいい。
ロラン元王子は、結局今は研究対象ということで落ち着いたようだ。俺はどんな研究をしているのかは知らないけど、ラニエロさんの機嫌が毎日すごくいいらしいことは聞いた。
俺はあの日から数日間だけ襲われる悪夢を見たぐらい。そのたびレオの名前を呼ぶもんだから、レオによしよしと宥めてもらって眠りにつく、そんなかんじ。今は悪夢もなくなって、毎日快眠だ。
午前中の勉強が終わった頃、ラヴィが部屋を訪ねてきた。珍しいな? と思いつつソファに座るように促して、俺はその向かいに座る。エレナが紅茶を淹れてくれた。
「急に来てしまってごめんなさい。」
「いや、いいけど……どうした? 何かあった?」
「その、お伝えしたいことがあって。」
なんだか神妙な面持ちになっているラヴィに、何を言われるのだろうかとそわそわしてしまう。
「あの、わたくし……あと三週間ほどで輿入れすることになって。」
「輿入れって……え、ついに?」
「ええ。だから直接、カイトさんにお伝えしたくて!」
ラヴィは晴れやかな顔でにっこりと笑った。幸せそうなオーラが出ている……。俺までなんだか嬉しくなるなぁ。
ラヴィのお相手は、もう一つの隣国アリュンベルの王太子だ。ラヴィは王太子妃になるってことだな。実にめでたいけど、ちょっと寂しくなるなぁ。ラヴィには、ソニアと一緒によくお茶に誘ってもらって沢山話をしたから。
「ありがとうラヴィ。話して貰えて嬉しい! 本当におめでとう。」
「カイトさん……! ありがとう。まだ日はあるから、演奏やお茶、付き合ってね!」
「もちろん! たくさん話しとかなきゃなぁ。寂しくなるな~」
「ふふ、寂しがるにはまだ早くてよ♪ 連絡するから待っていて? 今日のところはこれでおいとまするわね。」
「うん、わかった。」
扉を開けてやると、ラヴィは優雅な足取りで出ていった。結婚……結婚かぁ……そっか。王太子妃なんてすごいな。でもラヴィはしっかりしているから、きっとうまくやるんだろうな。
それからラヴィは、お茶会を設定したり、王子様方と演奏会を計画したり、仲のいい友人を呼んだりと詰め込み放題予定を詰め込んでいた。王子妃になったら、もう中々こちらへは帰ってこられないから……やり残すことのないように。俺も友人達とのお茶会に混ぜてもらったりと引っ張り回されていて、中々に忙しい日々だ。ラヴィには優しいレオですら、俺との時間が減って少々イラついていたぐらい。でもその忙しさが、ラヴィとの別れがもうすぐだということをいやでも感じさせた。
◆
その日は、快晴。澄み切った冬の空に、柔らかな太陽が輝いていた。幸先よし! そんな日。
嫁入り道具や献上品……様々な荷物を積んで、馬車が列を成している。その馬車に乗り込もうというところで、国王一家は別れを惜しんでいた。
「それでは、行ってまいりますわ。お父様お母様、お兄様たち…ソニア、カイトさん。今まで大事にしてくださってありがとうございました。わたくし、立派な伴侶になれるよう頑張ってまいります!」
「元気でやるんだぞ。結婚式を楽しみにしている。」
「ラヴィちゃんなら大丈夫よ。今まで頑張ってきたのだもの。自分らしく、ね!」
「お父様お母様……! ……っ、うん……!」
ラヴィは今にも涙が零れそうだ。俺ももらい泣きしそうになって耐える。こういうの弱いんだよ……。
「兄様達は、いつでもお前を想っているよ、ラヴィ。……こんなにちっこいと思ってたのに、いつの間にか素敵なレディだな。」
「そうだね。でも昔も今も、大事な妹に変わりはないね。」
「お姉様……っ、うう、お手紙いっぱい書きますわ……!」
「兄様たちありがとう……あらやだ、ソニア泣かないで? わたくしもお手紙書くから。ね?」
姉妹の抱擁に、ほわ、……と場が和む。
「ラヴィ、元気でな。」
「レオ兄様は、カイトさんとお幸せにね?」
「それはもちろん。」
「……無理させちゃダメよ?」
「……わかってる。」
……なんの話かな。公共の場でしていい話なんだよな? …………。ま、わかんないフリしとこ。
「ラヴィ、俺も手紙書くから……! 元気で。」
「はい! カイトさんもお元気でね。」
ラヴィは最後ににこりと笑って馬車に乗り込むと、窓をいっぱいに開けた。馬車が動き出すと、レディらしい淑やかさも忘れて窓から乗り出し、見えなくなるまで目いっぱい手を振って行った。俺たちも大きく手を振って、ラヴィの門出を見送った。
あの日以降、桐矢が俺の護衛に新たに加わった。パオロとヴェネリオとも仲良くやっているようだ。歳も近いから、気が合うんだろう。友達に護衛してもらうってなんか申し訳ないような複雑な気分ではあるけど、結構話せるからそこはとてもいい。
ロラン元王子は、結局今は研究対象ということで落ち着いたようだ。俺はどんな研究をしているのかは知らないけど、ラニエロさんの機嫌が毎日すごくいいらしいことは聞いた。
俺はあの日から数日間だけ襲われる悪夢を見たぐらい。そのたびレオの名前を呼ぶもんだから、レオによしよしと宥めてもらって眠りにつく、そんなかんじ。今は悪夢もなくなって、毎日快眠だ。
午前中の勉強が終わった頃、ラヴィが部屋を訪ねてきた。珍しいな? と思いつつソファに座るように促して、俺はその向かいに座る。エレナが紅茶を淹れてくれた。
「急に来てしまってごめんなさい。」
「いや、いいけど……どうした? 何かあった?」
「その、お伝えしたいことがあって。」
なんだか神妙な面持ちになっているラヴィに、何を言われるのだろうかとそわそわしてしまう。
「あの、わたくし……あと三週間ほどで輿入れすることになって。」
「輿入れって……え、ついに?」
「ええ。だから直接、カイトさんにお伝えしたくて!」
ラヴィは晴れやかな顔でにっこりと笑った。幸せそうなオーラが出ている……。俺までなんだか嬉しくなるなぁ。
ラヴィのお相手は、もう一つの隣国アリュンベルの王太子だ。ラヴィは王太子妃になるってことだな。実にめでたいけど、ちょっと寂しくなるなぁ。ラヴィには、ソニアと一緒によくお茶に誘ってもらって沢山話をしたから。
「ありがとうラヴィ。話して貰えて嬉しい! 本当におめでとう。」
「カイトさん……! ありがとう。まだ日はあるから、演奏やお茶、付き合ってね!」
「もちろん! たくさん話しとかなきゃなぁ。寂しくなるな~」
「ふふ、寂しがるにはまだ早くてよ♪ 連絡するから待っていて? 今日のところはこれでおいとまするわね。」
「うん、わかった。」
扉を開けてやると、ラヴィは優雅な足取りで出ていった。結婚……結婚かぁ……そっか。王太子妃なんてすごいな。でもラヴィはしっかりしているから、きっとうまくやるんだろうな。
それからラヴィは、お茶会を設定したり、王子様方と演奏会を計画したり、仲のいい友人を呼んだりと詰め込み放題予定を詰め込んでいた。王子妃になったら、もう中々こちらへは帰ってこられないから……やり残すことのないように。俺も友人達とのお茶会に混ぜてもらったりと引っ張り回されていて、中々に忙しい日々だ。ラヴィには優しいレオですら、俺との時間が減って少々イラついていたぐらい。でもその忙しさが、ラヴィとの別れがもうすぐだということをいやでも感じさせた。
◆
その日は、快晴。澄み切った冬の空に、柔らかな太陽が輝いていた。幸先よし! そんな日。
嫁入り道具や献上品……様々な荷物を積んで、馬車が列を成している。その馬車に乗り込もうというところで、国王一家は別れを惜しんでいた。
「それでは、行ってまいりますわ。お父様お母様、お兄様たち…ソニア、カイトさん。今まで大事にしてくださってありがとうございました。わたくし、立派な伴侶になれるよう頑張ってまいります!」
「元気でやるんだぞ。結婚式を楽しみにしている。」
「ラヴィちゃんなら大丈夫よ。今まで頑張ってきたのだもの。自分らしく、ね!」
「お父様お母様……! ……っ、うん……!」
ラヴィは今にも涙が零れそうだ。俺ももらい泣きしそうになって耐える。こういうの弱いんだよ……。
「兄様達は、いつでもお前を想っているよ、ラヴィ。……こんなにちっこいと思ってたのに、いつの間にか素敵なレディだな。」
「そうだね。でも昔も今も、大事な妹に変わりはないね。」
「お姉様……っ、うう、お手紙いっぱい書きますわ……!」
「兄様たちありがとう……あらやだ、ソニア泣かないで? わたくしもお手紙書くから。ね?」
姉妹の抱擁に、ほわ、……と場が和む。
「ラヴィ、元気でな。」
「レオ兄様は、カイトさんとお幸せにね?」
「それはもちろん。」
「……無理させちゃダメよ?」
「……わかってる。」
……なんの話かな。公共の場でしていい話なんだよな? …………。ま、わかんないフリしとこ。
「ラヴィ、俺も手紙書くから……! 元気で。」
「はい! カイトさんもお元気でね。」
ラヴィは最後ににこりと笑って馬車に乗り込むと、窓をいっぱいに開けた。馬車が動き出すと、レディらしい淑やかさも忘れて窓から乗り出し、見えなくなるまで目いっぱい手を振って行った。俺たちも大きく手を振って、ラヴィの門出を見送った。
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