また出会えたらその時は

華月

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記憶編

2.はじめまして

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——ふふ、愛しているわ………と、ずっと
——わたし……こと、忘れ……でね
——忘れる…のか!愛し…いる…




 ハッと目が覚めた。今度はちゃんと天井がある。
視線を少し右に動かすと綺麗な満月がすぐ側の窓から見えた。体を起こすと、月明かりで照らされた部屋の中を観察する。
 そんなに広くはないけれど、狭くもない。家具はシンプルなテーブルとソファ、それと本棚。俺が座っている、床より少し高いここは…………ん!?ベッドだ!ひ、人様のベッドに勝手に上がり込むなどと、なんと失礼なことを!?!?
 ベッドから降りようと、左足をそろりと床へ下ろす。

 ……またあの夢見たな…途切れ途切れにしか思い出せない…

 起きる直前に見た夢は、地球にいた頃から時々見ていた夢。毎回途切れ途切れだけれど、なんだかとても懐かしいような気持ちにさせる。
 一瞬考え込んだ時、ガチャリと部屋のドアが開いた。

どくんと心臓が跳ねる。

 風呂上がりなのか、上半身裸で頭をタオルで拭きながら部屋に入ろうとした青年が目を見開く。

 濡れた金の髪、美しい翡翠色の瞳で彩られた端正な顔が俺を凝視している。
 どくどくと脈打つ心臓と、なんだか泣きたくなるような感覚。初めて会ったのに違うような、もやもや…

 え、なに、なんだこれ………俺この人知って…?そんなわけ…

向こうがハッとして声を張り上げる。

「誰だお前は!」
「ご、ごめんなさーーーーい!!!!」

 威圧感たっぷりな青年と、反射的に土下座をした俺。
初の異世界人との邂逅である。









「では、君は異世界からこちらへ来た…と?…確かに、その髪色や瞳はこちらでは見かけないものだけど…」

 そう言うと、青年は俺の頭から足まで視線を滑らせた。
 黒髪に黒の瞳。事故に遭った時に着ていた、黒のTシャツと白いハーフパンツ。俺の姿はこんなかんじだ。ちなみに身長は百七十センチだから低すぎるわけでもないと思う。

「はい。お兄さんが入って来る直前にここに飛ばされて…。すみません…不可抗力とはいえ、ベッドに見知らぬ他人がいるなんて嫌でしたよね」

 見知らぬ、しかも男がベッドにいるなんて嫌だろうなとしょんぼりすると、青年は少し笑って俺に言った。

「いや、大丈夫だ。ところで君は………あ、そうだな、名前を教えてくれないか?俺はレオナルド・バルテル。レオでいい。」
「レオさん…。俺は黒瀬海斗です。海斗が名前なので、カイでもカイトでも好きに呼んでください。」
「…では、カイ。君はこれからどうするつもりなんだ?この世界のことは全くわからないだろ?」

 そう、そうなのだ。本当に何もわからないから、どうしたらいいのかすらわからない。着の身着のまま来てしまったものだから、本当に何もできないのだ。
 とりあえず…何をするにもお金がないとどうしようもないよな…

「とりあえず、働き口を探そうかなと思っています。お金もなんにもないので…」
「仕事…ねぇ……」

 レオさんはうーんと顎に手を当てて俺をしげしげと見つめている。

「たぶん、街に出た瞬間人攫いに遭うと思う」
「えっ」

 予想の斜め上すぎて変な声が出てしまった。仕事どころか街にすら出られないって、どんだけ治安悪いんだよ…怖すぎだろ…

「丸腰で、その容姿だから…うん。」

 あーそっか、髪と瞳が珍しいって言ってたもんな。なるほど、コレクター(?)とかに売られたりすんのかな?希少動物の気持ちがちょっとわかった気がする…大変だよな。好きでこう生まれたわけじゃないのにな。

「え、じゃ、じゃあどうしたらいいんだろう…多分魔法とかで食べるものには困らないと思うんだけど…………って、あ!?…魔法!?そうだ魔法!」

 そうじゃん!ゼルにいろいろ魔法使えるようにしてもらったんだった!ステータス確認してって言われたのすっかり忘れていた!!!!

「カイ、魔法使えるんだ?」
「元の世界には魔法がなかったので、まだ使ったことないんですけど…多分使えるはずです!」

“ステータス”と念じれば、向こうの世界で見たことのあるようなステータス画面が出てきた。


名前:黒瀬海斗

年齢:17

出身地:地球

レベル:1

使用可能魔法:聖魔法∞、闇魔法∞、干渉魔法∞、阻害魔法∞、生活魔法∞

称号:神の愛し子

特殊:魔力無制限 無詠唱可




 干渉魔法……阻害魔法…?……あぁ、色をつけてやるってこれのことか?…なんか地味な感じだな?

「……もしよければだけど、それ、ちょっと覗かせてもらってもいいか?魔法次第で仕事があるかもしれない。」
「あ、なるほど…そうですよね!お願いします!」


 レオさんはこくりとうなづくと、何やら短く呪文?を唱えた。ステータス画面を見る魔法かな?



「……………………………え?」

 ステータスを見ると、レオさんは固まってしまった。そんなにてんこ盛りじゃないと思うけど、使える魔法はみんなカンストしてるもんな…


「ど、どうですか…?」
「………このステータスは、他の人には見せてはいけないよ。正直魅力的すぎる内容だ。カイを利用しようとする輩が寄ってくる可能性があるから、阻害魔法の上級、閲覧不可の魔法かけておいて。無詠唱可能のようだから、ステータス出した時みたいに念じるだけでできると思う。」

 ステータスを見て固まっていたかと思ったレオさんは、ちょっと険しい顔つきになってそう言った。言われた通りに“ステータス閲覧不可”と念じてみると、ステータス画面の端に鍵マークがついた。無事に魔法がかかったようだ。よく考えてみたら、どんな魔法があるのか把握してないな…あとで魔法の詳細画面開いて確認しておこう。

「できました。…仕事になりそうなのありました?」
「魔法だけ見れば…ね。でもそうだな、カイの元の体力が低いから仕事したいならもう少し体力が欲しいところかな。薬草採取とかなら子供でもできるけど、お小遣い程度にしか稼げないんだよ。」

 あーなるほど、ステータスにレベル1ってあったもんな…レベリングしなきゃだな!体力はつけておいて損はないし。
 地球での俺は特に何するわけでもなく帰宅部で、運動といえばバイトくらいだった。つまりそれぐらいの体力しかない。

「うん、俺も今時間あるし、君ちょっと心配だからしばらく俺と一緒に行動しよう。どう?」
「えっ、い、いいんですか!?俺は願ってもないことですごくありがたいですけど…!」
「いいよ。なんていうか、ほっとけないよ流石にね」

 そうはにかんで言うレオさんの背後に後光が見えた……。いきなり現れた俺の話をちゃんと聞いてくれて、助言までしてくれて、その上一緒にいてくれるなんて。こっちの世界じゃ独りぼっちで不安だったから、本当に嬉しくて。

「ありがとうございます…よろしくお願いします!」

 安心してとびきりの笑顔を向けて言うと、レオさんは目を瞠る。そしてため息を一つついた。

「ほんとにもう……最初に会ったのが俺でよかったよ…悪い奴はいい人のフリして近づいてくるんだ。もう少し警戒しなね?」
「あ…う……はい」
「それと、カイの容姿はこっちの世界だとたぶんすごく魅力的だから、そんな格好でいたらダメだ。明日街に出て、着る物を揃えよう」


 もう遅いしじゃあ寝ようか、とのことなので、俺はソファで寝ると声をかけたけど、ベッドで寝ろと押し込められてしまった。何から何まで気を遣ってもらって本当に申し訳ないな。せめて朝寝坊しないようにしよう。
 
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