上 下
11 / 15

11. あなたはわたしのもの (※ファビーラ)

しおりを挟む
 一方ファビーラは、アウロアの出て行ったドアを睨みつけ歯軋りをしていた。
 結婚したと告げれば諦めるのでは無いかと思ったのに、見込み違いだったらしい。
 こんな事ならずっと何の意思も示さない人形のままでいてくれた方が良かった。
 

 彼を部屋に閉じ込め自分だけのものにして日々を過ごした。
 ただ彼は、とりつくしまも無く誰も彼も怯え拒むものだから、関係を深める事が出来なかった。
 尽くす自分を見れば彼だって……なのに……

 どうして誰も彼も自分を否定するのか。
 自分は何も間違えた事はしていない。
 正しい事を求めただけだ。

 アウロアは年上の女性に一時惑わされただけ。
 本来なら家格の下の子爵家との縁談など、こちらは鼻にもかけないものなのに。
 両親はイリーシアが何かよからぬ事をしたに違いないと口にしていた。ファビーラもまた、そうに違いないと頷いた。
 そして最後にはアウロアは何故ファビーラを選ばないのかと、こんなに美しく可憐な娘は他にいないのにと嘆いた。
 ファビーラもまたアウロアより年上だが、たったの一歳だ。何の問題も無い。

 ファビーラも不思議に思っている事の一つだ。
 何故ならアウロアのみでなく、社交界でファビーラに声を掛ける者は皆無なのだから。

 それでもデビュタントの頃には随分と持て囃されたものだった。しかし、ファビーラが話し始めると、紳士たちは一様に表情を無くしていった。

 構わずファビーラが話し続けると一人二人と人が減り、やがてファビーラはいつの間にか一人になっていた。
 場所を変え何度かそう言う場に訪れたが、ついにファビーラに声を掛ける紳士は誰もいなくなってしまった。

 淑女から話し掛けるなど、はしたない事。
 でもこんな状態で、どうやって婚約者を探せばいいのかと途方にくれるファビーラに、両親は、世には見る目の無い男ばかりなのだと嘆いていた。
 そしてファビーラが無理に彼らに合わせる必要は無いのだと教えてくれた。

 それから伯父にアウロアとの仲を取り持って欲しいと何度も談判しに行くようになったのだ。

 父は次男だったので、爵位は継げなかった。
 なので平民ではあるが、文官として城に勤めていた。
 伯父という有力な後見人がいる為だ。だから貴族と同等に扱われていた。

 ただ……
 ある日訪れた夜会で、たまたまファビーラは両親の悪口を耳にした。
 どうせやっかみだろうと切り捨てた話は酷いもので、父は仕事のお金を使い込み、近々宰相閣下に呼び出され城への登城を禁止されるというものだった。

 後見人である伯爵も処罰の対象となるが、直に息子に爵位を譲る話が出ているので、被害は最小限であるだろうと。
 こちらをチラリと見て口元を歪めて笑う令嬢に怒り、その場で掴みかかって会場から追い出された。

 ファビーラは何も間違えていない。
 両親は自分を大事に愛し、育んでくれた。
 だから両親が否というものはファビーラも否定するのだ。
 ファビーラもまた、両親を愛しているのだから。




 やがて十歳も年上の男に嫁がされる事が決まり、ファビーラは泣きたくなった。
 しかも相手は平民だ。
 母は泣いていたが、それでも行き遅れという世間の目に晒されるよりはと苦渋の決断なのだと話して聞かせた。
 ファビーラもまた頷いた。仕方がない事なのだ。
 けれど自分には伯爵位の高貴な血が流れていると言うのに……

 美しい従弟と結婚したかった。
 自分の結婚式で、従弟の隣で婚約者として並び立つ、あの女が許せなかった。



 初夜に夫が媚薬について教えてくれた。
 つまり女性の苦痛が和らぐものだと教えられたが、それを使った翌朝、ファビーラは思い付いたのだ。


 これだと


 従弟を手に入れる方法


 けれど従弟は自分を拒んだ。
 はっきりとしない意識の中ですら、口にするのはあの女の名前。
 ファビーラはいらいらした。
 自分に染める為、部屋を自分の趣味で一杯にし、大好きな薔薇を飾り、香を焚いた。


 そしてどんどん効果の強い薬に変えていった。


 けれど、いつの間にか薬は尽きていた。
 ファビーラが自由に使えるお金は、既に無かった。


 常に焚いていた香すら買えなくなり、部屋にフリージアの香りが漂って来た。大嫌いなあの花。
 あの女の為に植えたと従弟が誇らしげに語っていた。
 まさに今庭に咲き誇るあれは、近々花屋に全て売ると決めている。


 そんな中、従弟は目覚めたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】姉の代わりに婚約者に会いに行ったら、待っていたのは兄の代わりに婚約者に会いに来た弟でした

藍生蕗
ファンタジー
婚約が嫌で逃げ出した姉の代わりに姉の婚約者に会いにいけば、相手の家からは、同じく婚約が嫌で逃げ出した兄の代わりに弟が来た。 王命による婚約の失敗を恐れ頭を抱える両親たちを他所に、婚約者の弟────テオドラが婚約を解消しようと持ちかけてくる。 それは神託を授ける火竜に会いに行くというもので……

幼稚な貴方と婚約解消したい。

ひづき
恋愛
婚約者の浮気癖にブチ切れて暴れたら相手が記憶喪失になって口説いてくる。 婚約解消して欲しい!破棄でも可!

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる

田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。 お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。 「あの、どちら様でしょうか?」 「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」 「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」 溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。 ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

処理中です...