2 / 17
2.
しおりを挟む「……えーと、ごめんなさい?」
疑問系が悪かったのかなと苦笑するも、セシリアの眦はどんどん釣り上がっていく。
「違う! フィリップ様と、さっさと、別れなさい!!」
「……えっと。それは、どうして?」
「あなた私の話を聞いていなかったの? 私とフィリップ様の運命の出会いを!? 彼の為に私はこうして過去へと回帰し、こうして最善の未来を掴む為に動いているというのに! ……私たちの不変の愛の為よ!!」
そう叫ぶセシリアにミランダはじっと視線を合わせた。
ぱっちりと大きな瞳には長いまつ毛が縁取り、瞬きする度にばさばさと音が聞こえてきそうだ。
金の巻き髪、鮮やかな新緑の瞳。
まごう事なき美少女。
そんな彼女は今、勢いに任せて立ち上がっている。
座るミランダと背丈は同じ。
……十歳位だろうか。
「そんな、もしかしてフィリップ様はロリ……」
「お嬢様!!」
思わず口をつきそうになった台詞を執事の叱責に慌てて飲み込む。
「失礼、セシリア様」
未だふーふーと鼻息荒い少女にミランダは淑女の笑みで笑いかけた。
「何よ」と、ぶすっとした返事にミランダは小首を傾げてみせた。
「あなたは何年後からいらっしゃったのでしたっけ?」
「六年後よ!」
「まあ……」
──と、言う事は。彼女の言う事が正しければ彼女は十六歳。
フィリップは今十八歳だから、六年後は二十四歳。
二十四歳と十六歳なら、まあ……普通だろう。
『ほら! これを見て! ──』
そう言って先程意気揚々と見せられた物を、改めて一瞥する。
……全てが作り話だと言うには、視界にあるそれが邪魔をする……ミランダの心に引っ掛かりを感じるもの。
マリッジブルーというのだろうか。ここ最近、妙に落ち着かない日を送っていたけれど。……もしかしてそれはこれが原因だった、とか。
昨夜も見た、後悔と諦念を繰り返す夢を思い出し、ミランダはふうと溜息を吐いた。
「つまり私は、フィリップ様を諦めなければならない程、酷い怪我を負うんですね」
「お、お嬢様」
狼狽える執事に首を振り、一つ息を吐く。
「そうよ、だから早くフィリップ様の為に破婚なさい。そうして彼は今から私と愛を育むの。……彼ったら幼馴染の婚約者が忘れられないだなんて私の求婚を断ってきたけれど。でも今から親しくなれば、きっと私の方を大好きになるわよね」
「断られ……」
さっき「私たちの不変の愛」とか言ってなかっただろうか。
えーと。
(うーんと)
ミランダはフィリップの顔を思い出し、もし破婚なんて口にすればどうなるかと思いを馳せ──身震いしたのでやめた。
……考えたくない。
1
お気に入りに追加
350
あなたにおすすめの小説
婚約破棄を、あなたのために
月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
その愛情の行方は
ミカン♬
恋愛
セアラには6歳年上の婚約者エリアスがいる。幼い自分には全く興味のない婚約者と親しくなりたいセアラはエリアスが唯一興味を示した〈騎士〉の話題作りの為に剣の訓練を始めた。
従兄のアヴェルはそんなセアラをいつも見守り応援してくれる優しい幼馴染。
エリアスとの仲も順調で16歳になれば婚姻出来ると待ちわびるセアラだが、エリアスがユリエラ王女の護衛騎士になってしまってからは不穏な噂に晒され、婚約の解消も囁かれだした。
そしてついに大好きなエリアス様と婚約解消⁈
どうやら夜会でセアラは王太子殿下に見初められてしまったようだ。
セアラ、エリアス、アヴェルの愛情の行方を追っていきます。
後半に残酷な殺害の場面もあるので苦手な方はご注意ください。
ふんわり設定でサクっと終わります。ヒマつぶしに読んで頂けると嬉しいです。
2024/06/08後日談を追加。
死に戻り王妃はふたりの婚約者に愛される。
豆狸
恋愛
形だけの王妃だった私が死に戻ったのは魔術学院の一学年だったころ。
なんのために戻ったの? あの未来はどうやったら変わっていくの?
どうして王太子殿下の婚約者だった私が、大公殿下の婚約者に変わったの?
なろう様でも公開中です。
・1/21タイトル変更しました。旧『死に戻り王妃とふたりの婚約者』
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
とある侯爵令息の婚約と結婚
ふじよし
恋愛
ノーリッシュ侯爵の令息ダニエルはリグリー伯爵の令嬢アイリスと婚約していた。けれど彼は婚約から半年、アイリスの義妹カレンと婚約することに。社交界では格好の噂になっている。
今回のノーリッシュ侯爵とリグリー伯爵の縁を結ぶための結婚だった。政略としては婚約者が姉妹で入れ替わることに問題はないだろうけれど……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる