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7. 裏切り

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「おお、お待ちしておりましたぞ! 国王陛下、妃殿下!」

 そう言って出迎えた神官は、人好きのする顔で笑いかける。
 ロレンフィオンたちの話を聞くに偽聖女を仕立てる悪事に加担した人物なのだろうが……とてもそうは見えない。人は見かけによらないという事か……

 ぼんやりと思考を巡らすオーリーに神官は笑いかける。

「それでこちらは……」

 その視線と合うのが嫌で、顔を背ければ頭の上から声が落ちてきた。

「いや、話は変わった。差し出すのはこっちの女だ」

「は?」

「え?」

 ロレンフィオンはオーリーの手を引き、メイルティンを神官に向かって突き飛ばした。

「ちょっ……何するのよ!」

 よろめきながら抗議するメイルティンにロレンフィオンは冷たく告げる。

「お前はもういい。上辺だけの公爵令嬢では王妃などつとまらなかった。所詮は男爵令嬢。お前の贅沢三昧な生活のせいで国は荒れた。その償いはお前が自分で取ってこい」

「な、なっ! 急に何を言い出すのよ!!」

 メイルティンは驚きと怒りに顔を赤くする。

「聖女になるんだろう? だったら神殿に住む事は何もおかしくない。だが国王には妃が必要だ。私は国の為に資質のある女性を選ぶだけだ。なあオリランダ、お前は私の事が好きなんだろう? 嫉妬に狂ってメイルティンを虐めてだなんて……今考えれば何て可愛い事をしていたんだ。今からその償いをしてやろう。やはり私の伴侶にはお前の方が相応しい」

「ちょっと! 何よ! ちょっと大人っぽくなって綺麗になったからって! 子供の相手なんて面倒臭いって散々文句言ってたくせに!!」

「黙れ! 売女! 国が滅んだのはお前のせいだ! 潔くその身体を使って国の為に奉仕してこい!」

「……一体これは……どうした事でしょうか?」

 喚くロレンフィオンたちに困惑する神官。どう動いていいか分からない護衛たち。オーリーも呆然と成り行きを見守っていたが、はっと我に返る。

(どうして私が巻き込まれなくてはいけないの?!)

 この人たちの揉め事に自分は関係が無い筈だ。

(もうこの人たちの都合の良い駒になるのは嫌!)

 オーリーは自分を捉える腕から逃げる為に、踵で思い切りロレンフィオンの爪先を踏み抜いた。

「いっ……!!」

 ヒールのような破壊力は無いかもしれないが、意表を突いた攻撃は充分痛いはず。

 オーリーは急いでロレンフィオンの腕からすり抜け、出口に向かって駆け出した。

「っ待て! 衛兵! 捕まえろ!」

 けれど手を伸ばす兵士にオーリーは鋭く言い放つ。

「下がりなさい! 無礼者!!」

 オーリーの迫力に兵の動きが一瞬止まる。
 育ちは公爵家。父や母がどのように振る舞っていたのか、幼いながらも側で見ていたのだ。この手の者たちが「命令」に弱い事くらい知っている。

「馬鹿! 何をやっているんだ!!」

 衛兵をやり過ごし重厚な扉を押し開けば、後ろからロレンフィオンの叱責が聞こえる。それを振り切る勢いで急いで扉を潜った。

 けれど扉の向こうにはテレスフィオがいた。
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