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10. 使命感に駆られ? ※ アレン視点
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アリアは綺麗な魂をしていた。
家族や使用人たちにどれ程疎まれようとも、自身を闇に落とす事なく過ごす姿がとても気高くて……悲しみに暮れる表情にこちらの胸が痛んだ。
「……フィラ、お前……ちょっと行って慰めてこい」
「えええ? あの子をですかあ? ご主人……じゃあ無理か。仕方がないにゃあ」
フィラは猫の姿でひょいと生垣を越え、邸に入り込み、驚いた娘の膝に乗りモフモフと慰めた。
毛玉に埋もれさせた瞳は涙に濡れていたのだろう。
戻ったフィラは体毛がびっしょりと湿っており迷惑そうに顔を顰めていた。
しかしそれを見て俺は何故猫又に生まれなかったんだろうと悔やまれる。
フィラは俺の視線に顔を引き攣らせ後退りしているが……あの娘の涙を受け止めた黒猫の身体がひたすら羨ましかった。
そして俺はしばらくの間、娘────アリアから目を逸らせず、邸に通い詰める日々を送った。
「ご主人様ーお仕事しましょうにゃー」
茂みに隠れてリーバ子爵家の様子を伺う俺に、フィラはごろりと横になりながら自分の尻尾を目で追いかけて遊んでいる。
「……確かに結婚して欲しいとは言いましたがにゃ、なんかちょっと行動がおかしく無いですかにゃ?」」
「うるっさい少し待て。っ何なんだ本当に! あの婚約者の目は節穴か!? 優しいアリアに性悪だと!? 性悪は妹の方だ気付け馬鹿!」
「……ご主人様ー、その双眼鏡はどこから持ってきたんですかにゃー」
「こないだ隣領の魔伯爵から五十万GGで買った」
「ボラれてますにゃん」
「ああ、くそ! こんなところで騒いでいても何も解決しない! フィラ! 魔公爵のところに行くぞ!」
「あ、やっと気付きまし……って魔公爵??!」
彼女の境遇にも、この先に訪れる未来にも納得がいかなくて、気付けば俺はアリアの不遇を改善すべく魔公爵閣下の元へ異議申し立てをしに行っていた。
「……アレン、何を言い出すのかと思ったら……人間に干渉して人生を変えるのは大罪だ」
「しかしですね!」
驚いた様子の公爵の発言に納得出来ずに反発すると、公爵はそんな俺に興味を抱いたようだった。
「たまーにいるぞ、お前のような変わり者の死神が」
「……何の事です?」
俺は苛立たしげに公爵を睨む。
今は俺の話では無く、アリアの話をしているのだ。
「人間を妻にする術は……あるぞ、アレン」
「!?」
つつつ妻!?
「お、俺は別にアリアの不幸が納得行かないのであって!」
「まあいいから聞きなさい」
そうして魔公爵からアリアをこちらに連れてくる方法を聞き、俺は────それで全てが収まる気がした。
「俺の方が……あの婚約者よりアリアを幸せに出来る」
「怖いにゃ、ストーカーが何か言ってるにゃ」
フィラが何やらぶつぶつと言いながら着いて来た。
婚約者と妹に崖から突き落とされ、空中で意識を失ったアリアを抱き留める。そのまま不死の川を渡り、彼岸の花でアリアを飾り、仮死の状態であの世へ導いた。
「綺麗な魂だな」
珍しそうに顎を摩る魔公爵を睨みつけ、アリアを姉の黒水姫に渡した。黒水は物珍しそうにアリアを見てから自分の邸に連れ帰った。
黒水はアリアが死神に……神となる資格があるかの検問をする役人だ。
どうか、どうかと両手を組み死人の砂漠で待つこと数時間。
気付けば彼女が目の前で途方に暮れた様子で立っていて、嬉しさに胸が高鳴った。
急いで駆け寄って抱き締めたくなるのを何とか堪え、出来るだけ人好きのする顔で笑いかけた。
その後に彼女に適当な理由をつけて人の世に戻したのは、出来れば彼方での未練を断って貰いたかったからだった。
「ご主人様……囲い込み方が怖いですにゃ」
「いいからお前はアリアに着いていけ。大丈夫だとは思うけれど、それ以上にこれからの事はアリアに見せたく無いからな」
「はいはい、職権濫用もほどほどに。死神の格が落ちますにゃん……大帝陛下」
渋るフィラに命じてアリアの供を任せ、俺は俺の仕事に向かった。
こちらに向かう忌まわしい魂が二つ……
これからまだ増えそうだが、その時はまたアリアを遠ざければ良い話だ。
取り敢えずあの愚か者共は惨めな死よりも終わらぬ苦痛を授けてやろう。俺の……神の愛子を散々痛ぶってくれた礼をしなければならないからな。
肉体の苦痛から解き放たれ、死という安らぎを享受している二つの魂に、俺は心の底から込み上げる笑いに口の端を吊り上げた。
家族や使用人たちにどれ程疎まれようとも、自身を闇に落とす事なく過ごす姿がとても気高くて……悲しみに暮れる表情にこちらの胸が痛んだ。
「……フィラ、お前……ちょっと行って慰めてこい」
「えええ? あの子をですかあ? ご主人……じゃあ無理か。仕方がないにゃあ」
フィラは猫の姿でひょいと生垣を越え、邸に入り込み、驚いた娘の膝に乗りモフモフと慰めた。
毛玉に埋もれさせた瞳は涙に濡れていたのだろう。
戻ったフィラは体毛がびっしょりと湿っており迷惑そうに顔を顰めていた。
しかしそれを見て俺は何故猫又に生まれなかったんだろうと悔やまれる。
フィラは俺の視線に顔を引き攣らせ後退りしているが……あの娘の涙を受け止めた黒猫の身体がひたすら羨ましかった。
そして俺はしばらくの間、娘────アリアから目を逸らせず、邸に通い詰める日々を送った。
「ご主人様ーお仕事しましょうにゃー」
茂みに隠れてリーバ子爵家の様子を伺う俺に、フィラはごろりと横になりながら自分の尻尾を目で追いかけて遊んでいる。
「……確かに結婚して欲しいとは言いましたがにゃ、なんかちょっと行動がおかしく無いですかにゃ?」」
「うるっさい少し待て。っ何なんだ本当に! あの婚約者の目は節穴か!? 優しいアリアに性悪だと!? 性悪は妹の方だ気付け馬鹿!」
「……ご主人様ー、その双眼鏡はどこから持ってきたんですかにゃー」
「こないだ隣領の魔伯爵から五十万GGで買った」
「ボラれてますにゃん」
「ああ、くそ! こんなところで騒いでいても何も解決しない! フィラ! 魔公爵のところに行くぞ!」
「あ、やっと気付きまし……って魔公爵??!」
彼女の境遇にも、この先に訪れる未来にも納得がいかなくて、気付けば俺はアリアの不遇を改善すべく魔公爵閣下の元へ異議申し立てをしに行っていた。
「……アレン、何を言い出すのかと思ったら……人間に干渉して人生を変えるのは大罪だ」
「しかしですね!」
驚いた様子の公爵の発言に納得出来ずに反発すると、公爵はそんな俺に興味を抱いたようだった。
「たまーにいるぞ、お前のような変わり者の死神が」
「……何の事です?」
俺は苛立たしげに公爵を睨む。
今は俺の話では無く、アリアの話をしているのだ。
「人間を妻にする術は……あるぞ、アレン」
「!?」
つつつ妻!?
「お、俺は別にアリアの不幸が納得行かないのであって!」
「まあいいから聞きなさい」
そうして魔公爵からアリアをこちらに連れてくる方法を聞き、俺は────それで全てが収まる気がした。
「俺の方が……あの婚約者よりアリアを幸せに出来る」
「怖いにゃ、ストーカーが何か言ってるにゃ」
フィラが何やらぶつぶつと言いながら着いて来た。
婚約者と妹に崖から突き落とされ、空中で意識を失ったアリアを抱き留める。そのまま不死の川を渡り、彼岸の花でアリアを飾り、仮死の状態であの世へ導いた。
「綺麗な魂だな」
珍しそうに顎を摩る魔公爵を睨みつけ、アリアを姉の黒水姫に渡した。黒水は物珍しそうにアリアを見てから自分の邸に連れ帰った。
黒水はアリアが死神に……神となる資格があるかの検問をする役人だ。
どうか、どうかと両手を組み死人の砂漠で待つこと数時間。
気付けば彼女が目の前で途方に暮れた様子で立っていて、嬉しさに胸が高鳴った。
急いで駆け寄って抱き締めたくなるのを何とか堪え、出来るだけ人好きのする顔で笑いかけた。
その後に彼女に適当な理由をつけて人の世に戻したのは、出来れば彼方での未練を断って貰いたかったからだった。
「ご主人様……囲い込み方が怖いですにゃ」
「いいからお前はアリアに着いていけ。大丈夫だとは思うけれど、それ以上にこれからの事はアリアに見せたく無いからな」
「はいはい、職権濫用もほどほどに。死神の格が落ちますにゃん……大帝陛下」
渋るフィラに命じてアリアの供を任せ、俺は俺の仕事に向かった。
こちらに向かう忌まわしい魂が二つ……
これからまだ増えそうだが、その時はまたアリアを遠ざければ良い話だ。
取り敢えずあの愚か者共は惨めな死よりも終わらぬ苦痛を授けてやろう。俺の……神の愛子を散々痛ぶってくれた礼をしなければならないからな。
肉体の苦痛から解き放たれ、死という安らぎを享受している二つの魂に、俺は心の底から込み上げる笑いに口の端を吊り上げた。
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