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9. 嫁探し ※ アレン視点

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「────ご主人様、結婚して下さいにゃ」

「はっ? なんだフィラ急に」

 従僕の猫娘ねこむすめであるフィラが真剣な眼差して告げてくるのは、俺の結婚話だ。
 別にフィラが俺に求婚しているのではなく、ただ身を固めろとせっついているだけ……なんだが、どうしたんだ急に?

 胡乱気な眼差しを向ければフィラは得意気に一枚の書状を掲げて見せた。

「昇級通知……」

「はい! 私この度、下級の使い魔から中級に位が上がりましてにゃ! 引いてはご主人様の従僕を卒業させて頂きたいのですにゃ!」

 なんだそんな事か……
 つまりそろそろ雑用を辞めたいという事だ。
 で、嫁。

 結婚をした死神にはもれなく邸と使用人が付いてくる。数年前に死神界でワークライフバランスが騒がれてそんな特権が付与されたんだっけ。

 死神は数が少ないし、働きすぎで、お金はあっても使う時間も遊ぶ時間も無いとか何とかいうストもあり創設された制度だ。

 結局あまり人材不足に対応した制度とはならなかったのだが、一部の死神を味方に付けたこの制度は死神界で空前の結婚ブームを呼び起こしている。
 ────まあ、権利は行使してなんぼだからな。
 でも俺結婚とか興味ないし……

「死神は使い魔との行動が原則だからなあ……」

 正直新しい使用人なんて面倒臭い。
 フィラには悪いがもう暫くこの役を頼まれて貰いたいところだ。ちらりと目を向ければフィラは口元をにんまりと引き上げて自身の胸をどんと叩いた。

「ご心配なくにゃ! ちゃんとご主人様の好きそうな女性を見つけておきましたにゃ!」

「何を言ってんだお前は……」

 そんな女あの世にいない。
 死に携わる女性のたちの悪い事ったら無いんだぞ。たまに詐欺まがいの事までして魂取って帰ってくる奴とか見てると怖くて一緒に暮らそうなんて思えねーよ。

 思わず顔を顰めればフィラは得意顔でもう一枚の書状を渡してくる。それを見れば……

「人間じゃないか!」

 思わず声を張り上げる。何を馬鹿な事を言い出すんだ。

 人間は死んでからじゃないと、こっちに来られない。そもそも魂の在り方が違うから共に生きるなど出来る筈もない。

「いやいやいや、それがですにゃ、ご主人様。見て下さいよその娘。不遇数値が二百を越えたレアケースなんですにゃ」

 その言葉に俺はぴくりと反応する。
 レアケース────
 とは……神に慈悲を掛けられる存在の事だ。

 その神には俺たち死神も含まれる。背負った運命が過酷過ぎる為、その分補助を受けられる……別名、神の愛子いとしご
 一般的な人間のそれらの数字は二十~三十程度だ。これを人間自身がどう感じるのかは俺たちには分からないが……

「しかも運のいい事にご主人様の担当地区に住む娘でにゃして……私も一度見に行って見たのですが、不幸指数もかなり高めでヨダレが出そうでしたにゃ?」

 そう言って舌舐めずりをする様は妖怪が本性を現したようにしか見えない。それを横目で見てから俺はフィラが持ってきた書面をなんとなしに眺めて呟く。

「……その手の人間は破滅に落ちていくもんだ……」

 人間は不遇や不幸に耐えられる生き物では無い。
 悪に手を染め、あっという間に破滅への道を転がり落ちる。
 そう言った汚れた魂は死神の好物でもあるのだけど……そうなるとその娘を敢えて破滅に導こうとする死神に目をつけられてもおかしくない。昇進よりも己の欲を優先する下級の死神もいるのだから……

 俺の担当地区にいるレアケースの魂を穢すのを見過ごせば、後から天界のうるさい神達の小言に付き合う事になるだろう。それも面倒臭い……
 いずれにしても様子を少し見ておいた方がいいか。

「まあ、見るくらいならいいか。どのみち俺の獲物だからな」

 上手く魂を刈り取れば死神の格上げ出世にも繋がるし。

 そう言えばフィラは嬉々として黒猫の姿に模し、案内役を買って出た。
 そうして俺はアリアに出会ったんだ。
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