9 / 11
9. 嫁探し ※ アレン視点
しおりを挟む
「────ご主人様、結婚して下さいにゃ」
「はっ? なんだフィラ急に」
従僕の猫娘であるフィラが真剣な眼差して告げてくるのは、俺の結婚話だ。
別にフィラが俺に求婚しているのではなく、ただ身を固めろとせっついているだけ……なんだが、どうしたんだ急に?
胡乱気な眼差しを向ければフィラは得意気に一枚の書状を掲げて見せた。
「昇級通知……」
「はい! 私この度、下級の使い魔から中級に位が上がりましてにゃ! 引いてはご主人様の従僕を卒業させて頂きたいのですにゃ!」
なんだそんな事か……
つまりそろそろ雑用を辞めたいという事だ。
で、嫁。
結婚をした死神にはもれなく邸と使用人が付いてくる。数年前に死神界でワークライフバランスが騒がれてそんな特権が付与されたんだっけ。
死神は数が少ないし、働きすぎで、お金はあっても使う時間も遊ぶ時間も無いとか何とかいうストもあり創設された制度だ。
結局あまり人材不足に対応した制度とはならなかったのだが、一部の死神を味方に付けたこの制度は死神界で空前の結婚ブームを呼び起こしている。
────まあ、権利は行使してなんぼだからな。
でも俺結婚とか興味ないし……
「死神は使い魔との行動が原則だからなあ……」
正直新しい使用人なんて面倒臭い。
フィラには悪いがもう暫くこの役を頼まれて貰いたいところだ。ちらりと目を向ければフィラは口元をにんまりと引き上げて自身の胸をどんと叩いた。
「ご心配なくにゃ! ちゃんとご主人様の好きそうな女性を見つけておきましたにゃ!」
「何を言ってんだお前は……」
そんな女あの世にいない。
死に携わる女性の質の悪い事ったら無いんだぞ。たまに詐欺まがいの事までして魂取って帰ってくる奴とか見てると怖くて一緒に暮らそうなんて思えねーよ。
思わず顔を顰めればフィラは得意顔でもう一枚の書状を渡してくる。それを見れば……
「人間じゃないか!」
思わず声を張り上げる。何を馬鹿な事を言い出すんだ。
人間は死んでからじゃないと、こっちに来られない。そもそも魂の在り方が違うから共に生きるなど出来る筈もない。
「いやいやいや、それがですにゃ、ご主人様。見て下さいよその娘。不遇数値が二百を越えたレアケースなんですにゃ」
その言葉に俺はぴくりと反応する。
レアケース────
とは……神に慈悲を掛けられる存在の事だ。
その神には俺たち死神も含まれる。背負った運命が過酷過ぎる為、その分補助を受けられる……別名、神の愛子。
一般的な人間のそれらの数字は二十~三十程度だ。これを人間自身がどう感じるのかは俺たちには分からないが……
「しかも運のいい事にご主人様の担当地区に住む娘でにゃして……私も一度見に行って見たのですが、不幸指数もかなり高めでヨダレが出そうでしたにゃ?」
そう言って舌舐めずりをする様は妖怪が本性を現したようにしか見えない。それを横目で見てから俺はフィラが持ってきた書面をなんとなしに眺めて呟く。
「……その手の人間は破滅に落ちていくもんだ……」
人間は不遇や不幸に耐えられる生き物では無い。
悪に手を染め、あっという間に破滅への道を転がり落ちる。
そう言った汚れた魂は死神の好物でもあるのだけど……そうなるとその娘を敢えて破滅に導こうとする死神に目をつけられてもおかしくない。昇進よりも己の欲を優先する下級の死神もいるのだから……
俺の担当地区にいるレアケースの魂を穢すのを見過ごせば、後から天界のうるさい神達の小言に付き合う事になるだろう。それも面倒臭い……
いずれにしても様子を少し見ておいた方がいいか。
「まあ、見るくらいならいいか。どのみち俺の獲物だからな」
上手く魂を刈り取れば死神の格上げにも繋がるし。
そう言えばフィラは嬉々として黒猫の姿に模し、案内役を買って出た。
そうして俺はアリアに出会ったんだ。
「はっ? なんだフィラ急に」
従僕の猫娘であるフィラが真剣な眼差して告げてくるのは、俺の結婚話だ。
別にフィラが俺に求婚しているのではなく、ただ身を固めろとせっついているだけ……なんだが、どうしたんだ急に?
胡乱気な眼差しを向ければフィラは得意気に一枚の書状を掲げて見せた。
「昇級通知……」
「はい! 私この度、下級の使い魔から中級に位が上がりましてにゃ! 引いてはご主人様の従僕を卒業させて頂きたいのですにゃ!」
なんだそんな事か……
つまりそろそろ雑用を辞めたいという事だ。
で、嫁。
結婚をした死神にはもれなく邸と使用人が付いてくる。数年前に死神界でワークライフバランスが騒がれてそんな特権が付与されたんだっけ。
死神は数が少ないし、働きすぎで、お金はあっても使う時間も遊ぶ時間も無いとか何とかいうストもあり創設された制度だ。
結局あまり人材不足に対応した制度とはならなかったのだが、一部の死神を味方に付けたこの制度は死神界で空前の結婚ブームを呼び起こしている。
────まあ、権利は行使してなんぼだからな。
でも俺結婚とか興味ないし……
「死神は使い魔との行動が原則だからなあ……」
正直新しい使用人なんて面倒臭い。
フィラには悪いがもう暫くこの役を頼まれて貰いたいところだ。ちらりと目を向ければフィラは口元をにんまりと引き上げて自身の胸をどんと叩いた。
「ご心配なくにゃ! ちゃんとご主人様の好きそうな女性を見つけておきましたにゃ!」
「何を言ってんだお前は……」
そんな女あの世にいない。
死に携わる女性の質の悪い事ったら無いんだぞ。たまに詐欺まがいの事までして魂取って帰ってくる奴とか見てると怖くて一緒に暮らそうなんて思えねーよ。
思わず顔を顰めればフィラは得意顔でもう一枚の書状を渡してくる。それを見れば……
「人間じゃないか!」
思わず声を張り上げる。何を馬鹿な事を言い出すんだ。
人間は死んでからじゃないと、こっちに来られない。そもそも魂の在り方が違うから共に生きるなど出来る筈もない。
「いやいやいや、それがですにゃ、ご主人様。見て下さいよその娘。不遇数値が二百を越えたレアケースなんですにゃ」
その言葉に俺はぴくりと反応する。
レアケース────
とは……神に慈悲を掛けられる存在の事だ。
その神には俺たち死神も含まれる。背負った運命が過酷過ぎる為、その分補助を受けられる……別名、神の愛子。
一般的な人間のそれらの数字は二十~三十程度だ。これを人間自身がどう感じるのかは俺たちには分からないが……
「しかも運のいい事にご主人様の担当地区に住む娘でにゃして……私も一度見に行って見たのですが、不幸指数もかなり高めでヨダレが出そうでしたにゃ?」
そう言って舌舐めずりをする様は妖怪が本性を現したようにしか見えない。それを横目で見てから俺はフィラが持ってきた書面をなんとなしに眺めて呟く。
「……その手の人間は破滅に落ちていくもんだ……」
人間は不遇や不幸に耐えられる生き物では無い。
悪に手を染め、あっという間に破滅への道を転がり落ちる。
そう言った汚れた魂は死神の好物でもあるのだけど……そうなるとその娘を敢えて破滅に導こうとする死神に目をつけられてもおかしくない。昇進よりも己の欲を優先する下級の死神もいるのだから……
俺の担当地区にいるレアケースの魂を穢すのを見過ごせば、後から天界のうるさい神達の小言に付き合う事になるだろう。それも面倒臭い……
いずれにしても様子を少し見ておいた方がいいか。
「まあ、見るくらいならいいか。どのみち俺の獲物だからな」
上手く魂を刈り取れば死神の格上げにも繋がるし。
そう言えばフィラは嬉々として黒猫の姿に模し、案内役を買って出た。
そうして俺はアリアに出会ったんだ。
1
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説
婚約破棄したい? ぜひ、よろしくお願いします!(本人じゃないけど)
八色鈴
恋愛
「今、僕は皆の前に宣言しよう! 貴様との婚約を破棄すると!」
――きたきたきた! ようやくこの日が来たんだわ!
侯爵令嬢メルティナは、胸の高鳴りを抑えられなかった。
今日は第一王子の成人を祝うパーティ。王子は愛人をはべらせご満悦で、ありもしない婚約者の罪を高らかにあげつらい、国外追放を言い渡そうとしている。
けれど残念なことに、王子は気付いていない。自分を見つめる招待客たちの、冷めた眼差しに。
メルティナがこの場面にいあわせるのはこれで九度目。王子が婚約破棄を宣言するたびになぜか十三歳まで時が逆行し、何度も同じ時を歩んでいる。
これはきっと、神さまが『道を正せ』と与えてくれたチャンスに違いない。
巻き戻るたびに色々な対策を講じたおかげで、不幸な未来を回避するための準備は万端。
――さあ、これで心おきなくパーティーの料理に手を着けることができる! あ、王子は愛人とふたり、仲良く過ごしてしてくださいね。
婚約破棄シーンそっちのけで、フォーク片手にご馳走の山へ向かうメルティナ。しかし、どこか周囲の様子がおかしくて――?
未来を変えるために奮闘していたヒロインが最後に「なんか思ってたのと違う!」となるお話です。
※他サイトにも掲載。前後編二話完結です。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
皇太女の暇つぶし
Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。
「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」
*よくある婚約破棄ものです
*初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです
完結 白皙の神聖巫女は私でしたので、さようなら。今更婚約したいとか知りません。
音爽(ネソウ)
恋愛
もっとも色白で魔力あるものが神聖の巫女であると言われている国があった。
アデリナはそんな理由から巫女候補に祀り上げらて王太子の婚約者として選ばれた。だが、より色白で魔力が高いと噂の女性が現れたことで「彼女こそが巫女に違いない」と王子は婚約をした。ところが神聖巫女を選ぶ儀式祈祷がされた時、白色に光輝いたのはアデリナであった……
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~
みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。
全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。
それをあざ笑う人々。
そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる