99 / 110
余話
おまけ エリックの家庭教師
しおりを挟む「その通りですわん、殿下。とても優秀でいらっしゃいますのね。将来が楽しみですわん」
うきうきと自分を評価をするウィリスに、エリックは胡乱な目を向けた。
「お前、その喋り方、直さないのか?」
「はいん?」
はいん?って何だよ。
エリックは、はあと息を吐いた。
「奥方との復縁は無事に済みそうなんだろう?ならその不気味な口調はもう改めてもいいんじゃないか?」
「あたしのダリアちゃんはこのままでいいって、うふ」
そう言ってくねるウィリスに、エリックは胸焼けしそうな胸を押さえた。
「それにあたしモテるしぃ。またダリアちゃんに勘違いされて出ていかれでもしたらぁ、立ち直れなくなっちゃうー」
「……そうか」
白目を剥きそうな自分の意識を叱咤し、エリックは気を取り直した。
「幸せそうで何よりだ」
その言葉にウィリスは片眉を上げた。
「殿下……」
エリックが自分の弟子の一人に恋をした事は知っていた。
残念ながらあの弟子は、人からの好意どころか自分の気持ちにも鈍感すぎて、全く気付いていなかったが。
「僕は失恋してばかりだ」
ぼやくエリックにウィリスは吹き出した。
「な、何がおかしい!」
「いえ、失礼。殿下の恋はお可愛らしいと思いまして」
そんな事は無い。自分だって多少の欲はある。
ぶすりとむくれるエリックにウィリスは、すみませんと苦笑した。
「殿下は人からの好意に敏感過ぎるのですよ」
それは弟子と真逆な感性。
「そしてそれを苦手とされている」
諭す様に話すウィリスにエリックは困惑を宿した瞳を向けた。
「だから自分に好意を持たない女性に惹かれ、玉砕してしまう。それじゃあ失恋確定な恋しかできませんよ」
ウィリスは苦笑して、目の前のブロックを一つ積み上げた。
古文で書かれたそれを積み重ね、一つの魔術を完成させる遊戯を兼ねた勉強法だ。エリックはこういう遊びの方が集中出来た。子どもっぽいとは思うが、教えてくれたのがリヴィアなので恥ずかしいとは思わなかった。
「……でも、リヴィアが僕を好きになってくれたら、きっと嬉しかった……」
エリックも一つ積み上げる。
「どうですかね。賢い殿下ならそれが茨の道だと分かっている筈ですよ。あの子は伯爵令嬢で、将来国母になる器ではありません。あなたより六つ年上です。きっと家臣たちは側室を求めたでしょう。
どんなに好きでも貴方は次期皇帝。国と民を第一に考えなければなりません。妻の身分が低く、年配という理由から、子を成せるか知れないと揶揄される女性を望むなら、そんな覚悟も必要だとご存知でしょう」
そう言ってウィリスが積んだブロックが静かに光り出した。陣を構成すべく光輪を放つ。
「私の勝ちですね。殿下」
ウィリスがそう言って口角を上げるとエリックはポロポロと涙を零した。
「分かってるよ……」
でも好きだったんだ。なのにこの気持ちは、自分で掛けた暗示が見せた、ただのまやかしだったのかなあ。
袖で涙を拭い、歯を食いしばる。
気を抜けば嗚咽が溢れそうになるからだ。
「そうですか、殿下はやはり優秀でいらっしゃいますねえ。つくづく将来が楽しみです」
そう言って頭を撫でるウィリスの手は煩わしくも温かくて。
「きっと殿下にも素敵な人が現れますから大丈夫ですよ。その時、その人に恋をして貰えるように、良い男になりましょうね」
エリックは素直に、こくりと頷いた。
苦いこの想いが、いつか優しい気持ちに昇華されますように。
17
お気に入りに追加
204
あなたにおすすめの小説
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。
しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。
それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…
【 ⚠ 】
・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。
・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
売られていた奴隷は裏切られた元婚約者でした。
狼狼3
恋愛
私は先日婚約者に裏切られた。昔の頃から婚約者だった彼とは、心が通じ合っていると思っていたのに、裏切られた私はもの凄いショックを受けた。
「婚約者様のことでショックをお受けしているのなら、裏切ったりしない奴隷を買ってみては如何ですか?」
執事の一言で、気分転換も兼ねて奴隷が売っている市場に行ってみることに。すると、そこに居たのはーー
「マルクス?」
昔の頃からよく一緒に居た、元婚約者でした。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
【完結】私の婚約者(王太子)が浮気をしているようです。
百合蝶
恋愛
「何てことなの」王太子妃教育の合間も休憩中王宮の庭を散策していたら‥、婚約者であるアルフレッド様(王太子)が金の髪をふわふわとさせた可愛らしい小動物系の女性と腕を組み親しげに寄り添っていた。
「あちゃ~」と後ろから護衛のイサンが声を漏らした。
私は見ていられなかった。
悲しくてーーー悲しくて涙が止まりませんでした。
私、このまなアルフレッド様の奥様にはなれませんわ、なれても愛がありません。側室をもたれるのも嫌でございます。
ならばーーー
私、全力でアルフレッド様の恋叶えて見せますわ。
恋情を探す斜め上を行くエリエンヌ物語
ひたむきにアルフレッド様好き、エリエンヌちゃんです。
たまに更新します。
よければお読み下さりコメント頂ければ幸いです。
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる